ス パ イ
その会話を聞いてしまったのは偶然だった。
クスクスと忍び笑うような蘭の声。
「・・・うん、わたしは大丈夫よ。あなたこそ大丈夫なの?」
―――誰と話してんだ?
コナンは蘭の部屋のドアへ耳を寄せた。
少し隙間が空いていて、電話で話しているらしい蘭の声が聞こえる。
「―――彼女に知られたらまずいんじゃない?わたしと一緒にいるの―――ホント?―――大丈夫、ち ゃんと行くから。あなたも、遅れないでね」
―――この会話、まさか・・・
コナンは自分の耳を疑った。聞こえてくる会話から察するに・・・相手は、男だろう。しかも“彼女” がいる男・・・。その男と蘭が、待ち合わせの約束―――?
コナンは今すぐドアを開けて、蘭に詰め寄りたい気持ちに駆られたが・・・
「―――うん、じゃあ明日ね」 蘭が電話を切る。そして、こちらへ向かってくる気配。コナンは、慌ててその場を離れた。
リビングに行き、テレビを点け、そこに座る。ずっとそこにいたような振りをして・・・。
「―――あ、コナンくん。お腹空いたでしょう?今から夕飯作るからね」
ニッコリ笑って、蘭が台所に消える。
コナンはその姿を黙って見送っていたが―――。ふと立ち上がり、台所へ行く。
「蘭ね―ちゃん」
「ん?なあに?」
「明日の日曜・・・何か予定ある?」
コナンの言葉に、蘭は手の動きをぴたっと止め、ビックリしたようにコナンを振り返る。
「ど、どうして?」
「ん―?せっかくの日曜だし、蘭ね―ちゃんとどっかに遊びに行きたいなーと思って」
と、コナンが言うと、蘭は困ったように視線を彷徨わせた。
「ご、ごめん、コナンくん。明日はちょっとその・・・そ、園子と約束しちゃってるから・・・」
「・・・ふーん。そうなんだ。じゃあ、仕様がないね・・・」
「ホントに、ごめんね」
すまなそうに謝る蘭に、ちょっとだけ笑って台所から出たコナンは・・・
―――蘭の奴・・・あんな嘘ついて、一体誰と会うつもりなんだ!?
コナンの顔は、今や新一のそれになっていて・・・
―――ゼッテ―突きとめてやる!!
と、拳を握り締め、誓うのだった・・・。
日曜日、蘭は昼過ぎにいそいそと出かけて行った。
それを見送ってから、コナンも出かける支度をす る。
「―――なんだ、オメエもどっか行くのか?」
玄関で靴を履くコナンを見て、小五郎が声をかける。
「うん。玄太達と約束してるから―――。じゃあ行って来ます!」
慌しく出て行ったコナンを見送って。
「?あんなに慌てて、どうしたんだ?あいつ」
と、首を捻ったのだった。
―――いたいた。
駅へと続く道、コナンはやっと、蘭の姿を捉えた。蘭は何も気付かず、歩いている。
―――誰と会うつもりなのか、ゼッテ―確かめてやるからな。
コナンは密かに闘志を燃やし、蘭に見つからないよう注意しながら、その後をついて行った。
やがて蘭は電車に乗り、渋谷の駅で降りた。そして、周りをきょろきょろ見回していたが、まだ相手 は来ていないらしく、そのままそこに立っていたが・・・
1人の男が蘭に近づくと、声をかけた。
―――あいつか?
茶髪で長髪のその男は、ニヤニヤしながら蘭に何か言っている。蘭は戸惑ったような顔をして、1歩 身を引きその男に何か言っている。どうやら只のナンパのようだった。
男が、蘭の肩になれなれしく手を置いた。
―――ヤロォ!!
我慢できずにコナンが飛び出そうとしたそのとき、1人の男が蘭に近づき、ナンパ男の腕を掴んだ。
―――あれは・・・?
蘭が、その男の顔を見てホッとしたように笑った。
―――あいつか・・・
男がナンパ男に何か言う・・・と、ナンパ男はぶつぶつと何か言いながらも、その場を去って行った。
蘭とその男が、何か話しながら一緒に歩き出す。コナンも、気付かれないようにその後について行っ た。
コナンは、正直ちょっとビックリしていた。―――その男は、顔も背格好も、なんとなく新一に似て いた。
―――一体誰なんだ?あいつ・・・なんか、どっかで見たような気もするけど・・・。俺に似ている からか・・・?
一方、蘭のほうは・・・
「時間通りだね」
と言って蘭がニッコリ笑うと、その男も笑って、
「女の子を待たせちゃ悪いからね」
と言った。この男・・・名前は黒羽快斗。蘭と同じ高校2年生。そして・・・何を隠そう、“怪盗キ ッド”という別の顔を持っている。そして、蘭はそれを知っているのだった・・・。
「さ、行こうか」
「うん。―――どの辺に行くか、考えてきた?」
「一応は・・・ね」
「そう。―――ね、彼女にはばれなかった?」
「ばれてないよ。何、心配してんの?」
快斗が、ニッと笑って聞くと、蘭はまじめな顔で、
「当たり前でしょ?わたしの所為で2人の仲がおかしくなったら、いやだもの」
「―――っつーか、俺達まだ付き合ってるわけじゃねーぜ?仲ってほどのもんじゃ・・・」
「でも、好きなんでしょ?」
ニコッと悪戯っぽく微笑んで蘭が言うと、途端に快斗の顔が赤くなる。蘭はクスクス笑って、
「彼女のことになると、ポーカーフェイスが崩れちゃうのね?快斗くん」
と言った。快斗は言い返す言葉もなく、横目でチロッと蘭を睨む。
「―――そーいうこと言ってて良いわけ?蘭ちゃんだって、俺と2人で出かけたこと、あいつに知られ たらまずいんじゃないの?」
と、快斗が言うと、蘭は笑うのを止め、俯いてしまった。
「―――知られること、ないもの。あいつは“厄介な事件”にかかりきりで・・・。それに、別にわた しが誰といても気にしないと思うし」
「そんなことねーと思うけど・・・」
快斗はまずいこと言っちまった、と思ったが後の祭りである。
あいつ―――とは、もちろん新一のこ と。快斗と蘭が出会ったのは、以前怪盗キッドが現れた船上パーティでのこと・・・。快斗はキッドと してそこへ行き、蘭に変装した・・・。そのとき、幼馴染である青子と蘭の姿が重なり、不覚にも一瞬
、顔を見られてしまったのだ。
だが、蘭はそのことを誰にも言わなかった。快斗は不思議に思ったが、はっきりとは見られなかった のだと思い、安心していたのだ。それが・・・
渋谷で偶然会った蘭。快斗は青子と一緒で、そちらには気付かない振りをしていたのだが、蘭は快斗 の方を見ていた。それに気付き、チラッと蘭を見て―――彼女が、自分を覚えていることを確信した。
そして、快斗は蘭に会いに行った。
「どうして、俺のことを黙ってる?」
そう聞くと、蘭はちょっと寂しそうに微笑んだ。
「だって、新一に似てるから」
「新一って・・・工藤新一?」
「うん。あなた、新一にそっくりなんだもん・・・。初めて見た時、ビックリしちゃった」
フフフと笑った後、蘭は快斗をまっすぐに見た。
「新一に・・・似てるあなたが、悪いことしてるって思いたくないの。何か深いわけがあるはずだって 、そう思いたいの・・・。只それだけよ」
その後、2人は時々会っていたのだ。もちろん誰にも知られないように・・・。お互い、知り合って 間もないのになぜか、気持ちが通じ合う・・・。本当の気持ちを素直に言えるようになっていた。
「でも快斗くんも律儀よね。キッドとして彼女にお礼がしたい、なんて」
蘭が、快斗にしか聞こえないように言った。
「そりゃ・・・そのくらいは、な。仕事の後、不覚にも怪我しちまって公園にいたところに、青子が現 れたときには、マジ焦ったけど」
快斗は、ちょっと赤い顔をしてそう言った。
公園で休んでいたキッドの前に現れたのは青子。腕から血が流れているのを見て、黙って自分の持っ ていたハンカチで腕を縛り、止血してくれた。そして、
「今日は、捕まえないでいてあげる。宝石も戻ってるみたいだし。早くちゃんと治療したほうが良いよ?」
そう言って笑うと、青子はキッドの前から消えた。
そのお礼にキッドから何か贈りたい、と思った快斗は今日、蘭にその買い物に付き合ってもらおうと 思ったのだ。
「キッドとしてのお礼を選ぶのに、青子に付き合ってもらうわけにいかねーし、かといって俺1人でそ の手の店に入るのは抵抗があるしさ」
「それでキッドのことを知っているわたしに頼んだってわけね」
「そゆこと」
快斗がニッと笑い、2人は微笑み合った。
それを見て、怒りの炎を燃え上がらせているのは・・・もちろん、2人を陰から見ているコナン。
―――なんなんだよ、あいつは!?傍から見たら、まるっきり恋人同士じゃねーか!蘭の奴、楽しそ うに笑いやがって・・・。しかし、あいつ何者なんだ?どっかで見たことがある気がすんだけど・・・
。くそっ、思い出せねー・・・。
コナンはイライラと頭を掻き毟った。
冷静になろうと思っても、目の前で蘭が他の男と仲良く歩いているのを見ては、冷静になれるはずも ない。
そんなコナンに気付くはずもなく、2人はなんだか可愛らしい雑貨屋さんに入って行った。
ガラス張りで中のほうが見えるようになっている。
コナンは、そっと中を伺った。蘭と快斗がなにやら楽しそうに話しながら、店内を見ている。
ムッと顔を顰めるコナン。その気配に殺気が満ちる。と、突然快斗がこちらを見た。
―――ヤベ!
慌てて陰に隠れるコナン。
―――見つかったか・・・?
またそーっと中を覗いてみる。何事もなかったかのように2人は話しながら、店内のものを手に取っ たりして見ている。コナンはホッと息をついた。
―――大丈夫だったみて―だな。
―――やっぱりあいつだったか・・・。どーもさっきから、殺気立った気配がすると思ったら・・・。
快斗は思わず苦笑いした。
「快斗くん?どうしたの?」
蘭が首を傾げて聞く。
「あ、いや」
「ね、この小物入れ、すっごく可愛いよ」
と言って蘭が手に持ったのは、色とりどりの石が散りばめられた小物いれ。鮮やかな色の石が、まる で本物の宝石のようで、とてもきれいだった。
「へェ、きれいだな。あいつも好きそうだし・・・。これにしようかな」
「喜んでくれると良いね」
蘭がニッコリと笑う。その笑顔に、思わず見惚れてしまう。
「―――あのさ、蘭ちゃんにも何か買ってあげたいんだけど」
「え?いいよ、そんな・・・」
「今日付き合ってもらったお礼。好きなもの選んでよ」
「良いってば。今日はわたしも楽しかったし。―――あ」
突然、蘭が快斗の後ろのほうを見て声を上げた。
「え?」
と言って、快斗も後ろを向く。
蘭は、タタッと小走りしてその場所へ行った。快斗も蘭の後について行く。そして見たものは・・・
「これ、かっこ良くない?」
と言って、蘭が手に取ったのは銀のチョーカーだった。シンプルなデザインの十字型のそれは、男女 問わずつけられそうなものだった。
「へェ、良いじゃん。―――もしかして、あいつに似合いそう、とか思ってる?」
快斗がニヤッと笑って蘭を見る。と、途端に蘭の顔が真っ赤になる。
「や、やーね。そんなこと思ってないもん!自分でつけるの!」
「ふーん?」
快斗がニヤニヤしながら見ている。蘭は居心地が悪くなって、
「んもう!わたし、先に買って来る!」
と言って、レジに向かった。
「あ、待てよ。俺も行く」
続いて、快斗もレジに向かう。
―――な―んで蘭の奴、あんなに真っ赤になってんだよ!
2人の会話が聞こえないコナンは歯軋りしながら、中を見ていた。
―――お互い、プレゼントしあうってか・・・?冗談じゃねーぞ!ったく・・・。
その後店を出た2人は、何やら楽しそうに話しながら歩いていた。そして、その後をつけるコナン・・ ・。
―――なんか俺って、情けなくねェ?あいつが他の男と一緒にいるとこコソコソつけてって・・・。 スゲ―カッコわり―・・・。
ふと立ち止まるコナン。無償に虚しくなってきて、くるりと2人に背を向けるとそのまま駅へ向かっ て走り出した。まるで、その場から逃げ出すかのように・・・。
そのまま家へ帰り、ボーっとテレビを見ていたコナン。だが、5分とあけず、時計を見てはイライラ していた。自分が勝手に帰って来てしまったというのに、あの後の2人のことが気になって仕方がない
のだ。
―――くそっ、やっぱりちゃんと見張っときゃ―良かったぜ・・・。蘭・・・早く帰って来いよ・・・。
思い出すのは、蘭があの男と2人で並んでいる光景。蘭があいつに向けた笑顔・・・。
コナンはそれを振り払うかのように首を振る。
―――くそっ、一体どうすりゃ良いんだよ!?
と1人でジタバタしているところへ、玄関の開く音がして―――
「ただいまー」
蘭の声。
「あ、コナンくん、ごめんね。遅くなって。すぐに夕飯の支度するね。―――お父さんは?」
手にスーパーの袋を下げ、そのまま台所へと向かいながら聞いてくる。
「さあ。僕が帰って来た時にはいなかったから」
必死に平静を装って言う。
「ふーん?コナンくん、出かけてたの?」
「う、うん。玄太達と、遊ぶ約束してて・・・」
「あ、そうなんだ―」
台所にスーパーの袋だけ置くと、蘭は出てきて、コナンを見た。
「今日は、コナンくんの好きなハンバーグだよ」
と言って、ニッコリ笑う。コナンは蘭の顔を真っ直ぐに見ることが出来ず、
「あ、うん・・・」
と、テレビを見ながら言った。
「ちょっと着替えてきちゃうね」
そう言って、自分の部屋へ行く蘭。その後姿を見て、コナンはあれ?と思った。
―――今日、あいつが持ってたあの小物入れ・・・どうしたんだ?
蘭が持っていたのは小さなポシェットだけ。あれに、あの小物入れは入らないだろう・・・。どうし て持ってないんだ?
しばらくして戻ってきた蘭と、目が合う。
「何?コナンくん」
いつもと同じように、優しく笑いかけてくる蘭。
「―――あ、あのさ、今日―――」
コナンは思い切って口を開いたが・・・
「オー、今帰ったぞー」
濁声とともに、小五郎が入ってくる。
コナンは溜息をついた。
「お帰り。どこ行ってたの?」
「―――ちょっとな。それより腹減ったぞ」
「ハイハイ、今作るから―――。マージャン、負けたの?」
「う、うるせー!!」
ばつが悪そうに睨む小五郎をかわして、クスクス笑いながら、蘭は台所に入っていく。
「―――何だあいつ、ごきげんだな。なんか良いことでもあったのか?」
台所のほうを訝しげに見つつ、小五郎がコナンの向かい側に座る。コナンは何も応えずに、またテレ ビを見た。台所からは、蘭の鼻歌が聞こえてくる。
―――チェッ・・・そんなに楽しかったのかよ・・・。あいつのこと、好きなのか・・・?彼女がい るっていうあいつのことを・・・。
コナンはもやもやした気持ちで、じっとテレビを見ていた。内容なんか、ちっとも頭に入っちゃいな かったが・・・。
食事が終わり、お風呂に入ると、「疲れたから」と言って早々に部屋に引き上げた。ずっと蘭の顔を 見ているのは辛かった。楽しそうな蘭の顔を・・・。
早く寝て、いやなことは忘れちまおうなんて思っていたのに、眠れやしない・・・。目を瞑ると、今 日の光景が浮かんできて・・・。
―――クソッ 真夜中、小五郎が寝てしまうと、コナンは1人屋上に出た。
「―――何やってんだろな、俺は―――」
自嘲気味に呟く。と、突然後ろから―――
「夜更かしは体に悪いぜ?」
と声がして、コナンはビックリして振り向いた。
「おまえっ・・・キッド!」
そこにいたのは、白いマント、白いシルクハットにモノクルをつけた、気障な怪盗だった。
「よォ、どうしたんだ?浮かない顔して」
ニヤリと笑うその顔。相変わらず人をなめた態度だ。
「オメエこそ、何してやがる?ノコノコ俺の前に現れて・・・俺が簡単に逃がすとでも思ってんのか?」
コナンが睨んでも、変わらずニヤニヤしている。
「ふーん?相当機嫌が悪そうだな。―――原因は彼女か?」
「な、何を―――」
「図星、ってか?彼女のこととなると顔色が変わるな。おもしれー」
クスクスとからかうような口調。
「オメエには関係ねー!一体何しに来やがった!?」
「ベーつに。尾行は楽しかったかな―と思ってさ」
「!!」
その一言にハッとする。そうだ、こいつのこの目・・・!
「オメエ・・・今日、蘭と一緒にいた・・・」
「ん―?何のことかなあ?」
「誤魔化すな!何で蘭と・・・」
「んな怖い顔すんなよ。ちょっと彼女に頼みたいことがあってさ、付き合ってもらったんだよ」
「頼みたいこと?」
「そ。ある人へ贈るプレゼントを選んでもらったんだよ」
「ある・・・人・・・?」
「まあ、そのことは置いといて。彼女も、誰かさんに何か買ってたみたいだぜ」
「!」
キッドがにやりと笑ってコナンを見る。
「大変だよなあ?彼女、もてそうだし、無防備だし・・・。お人好しだから、頼まれるといやって言え ないタイプだろ。心配で心配で、目が離せねーんじゃねーか?」
クスクスとおかしそうに言うキッドに、コナンはカチンと来て、
「余計なお世話だよっ。オメエ、どういうつもりで蘭と!!いつからだよ!?」
「おこんなって。別に付きあってるわけじゃねーぜ?俺もオメエに殺されたくねーからな。彼女とは・ ・・秘密を共有する仲間ってとこからな。俺の正体を知っても態度が変わんなかったのは彼女くらいだ
よ。いい子だよな、ホント」
好きな子を誉められて、嬉しくないわけではないが・・・どうも額面どおりに受け取ることが出来ず 、胡散臭そうにキッドを睨みつける。
「そう睨むなって。誤解されたままじゃ、彼女がかわいそうだから、わざわざ捕まる危険を冒してまで 来てやったんだぜ?」
「余計なお世話だっつーんだよっ。そんなことよりも、もうあいつに近づくなっ」
「ん―。どうすっかなー。彼女と話すの結構楽しくってさー。彼女も俺といると気が紛れるみたいで楽 しそうだぜ?」
「っるせー、とにかく近づくな!」
我慢できずに怒鳴ると、キッドは肩を竦め、
「ハイハイ分かったよ。じゃ、会うのはやめるけどさ、急に音沙汰なくなると心配するだろうから、た まには電話するぜ?そんくらいは良いだろ?」
コナンは納得行かないような顔をしていたが、蘭の性格を考えると、奴のいう通り心配してわざわざ 会いに行ったりしかねない・・・と思い、仕方なく頷いた。
「―――分かった。約束は守れよ?」
「OK。その代わり、今日は見逃してくれよな。オメエと彼女の仲、心配して来たんだからさ」
とキッドが言って、ニヤッと笑うと途端にコナンの顔が赤くなる。
「な―――!俺と蘭は、そんなんじゃね―よ!!」
そんなコナンを見てキッドは楽しそうに笑うと、ひらりと手すりに身を躍らせ、背中のカイトを広げ た。
「ま、そういうことにしといてやるよ。お互いがんばろーぜ、じゃな!名探偵」
あっという間に飛び去っていくキッドを見送り、コナンは首を捻った。
「お互いって、どういう意味だ?」
その意味は結局わからなかったが、とりあえずキッドと蘭が特別な仲というわけではないということ に安心し、その夜はゆっくり眠ることが出来たのだった。
「え?これ、蘭から?」
翌日、博士に呼び出され、行ってみると小さな包みを渡された。
「昨日な、ここに来たんじゃよ。わしから新一に送っておいて欲しいといわれたんじゃ」
博士がニコニコして言う。哀は地下室にいるようだった。
コナンはその包みを開けてみた。中から出て来たのは―――
「!これ・・・」
それは、十字型の銀のチョーカーだった。昨日、あの店で蘭が手にとって見ていたものだ・・・。
―――じゃあ、これは俺に贈るつもりで・・・そっか・・・そうだったんだ・・・。
コナンの顔に、知らず笑みが浮かんだ。
胸に幸福感が迫る。
コナンは首にそれをつけ、蘭に電話をかけた。
「―――あ、蘭か?俺だけど・・・あれ、サンキューな。銀の・・・ああ、貰ったよ。昨日の内に、博 士が人に頼んで届けてくれたんだ。これ、スッゲーかっこいいじゃん。―――ああ、つけてるよ。今度 オメエにも何か贈るよ。お礼に、さ。―――遠慮すんなって。ま、あんま期待しないで待ってろよ。――― ああ、分かってるよ。なるべく早く帰っから・・・じゃあな」
コナンは電話を切ると、チョーカーを握り締め、誰にも聞こえない声で呟いた。
「早く帰っから・・・オメエもちゃんと待っててくれよな。俺のこと―――」
fin ------------------------------------------------------------------------
2222番をゲットされたモンブラン様のリクエスト作品です。
「尾行」と聞いて、すぐに浮かんだのが槙原敬之の「スパイ」でした。
あの歌、すっごく好きなんです。でも、なかなかうまく話しに繋がらなくて・・・。
こんなんで良かっ たでしょうか?気に入っていただけたら嬉しいんですけど・・・。
コナンくんがちょっと情けなくなってしまい、キッドがでしゃばってしまいました。
もうちょっと蘭ちゃんも出したかったなあ、なんて思ったり。
とりあえず、そんな感じです。(ってどんな感じ?スイマセン・・・)
