ずっと、これからも
「おい蘭、帰るぞ」 いつものごとく、蘭に声をかける新一。 「あ、うん」 そして、にっこりとそれに答える蘭。放課後の教室で、毎日のように繰り返されるやり取り。 そして、もう1つ繰り返されているのは・・・ 「ちょいとお2人さん。この園子様を無視して行くつもり?」 と、ひょいと顔を出したのは、蘭の親友鈴木園子その人だ。 「あ、園子。そんなことないってば。園子も一緒に帰るでしょう?」 くすくすと楽しそうに笑う蘭の横で不機嫌そうに顔を顰める新一。 「新一君、不満そうね」 「・・・べーつに」 「そうよねえ。新一君がいないときに、蘭と一緒に帰ってその辺のナンパ男の魔の手から蘭を守ってる のはこのわたしなんだから。不満なんてあるはずないわよねえ」 「・・・ははは・・・」 新一の乾いた笑いも、園子には聞こえない。そう、この3人のやり取りがほぼ毎日繰り返されている ことが、このクラスでは当たり前のことだったのだ・・・。
「お花見に行こうよ!」 唐突に園子が言い出したのは、そんなある日のこと。 4月になり、いよいよ高校生活も最後の年を迎えていた。 「花見ィ?おめえらそんな余裕あんのかよ」 「あら、言ってくれるじゃない。そりゃあ頭の良い新一君と違ってこっちは猛烈に勉強しないとだめだ けどさ、たまには息抜きも必要じゃない?」 「たまには、ねえ・・・」 「・・・いちいちやな感じね。いいわよ別に、行きたくないんならさ。わたしは蘭と2人で行くし」 という園子の言葉に、新一が少々焦る。 「べ、別に誰もいかねえとは言ってねえだろっ。行くよっ」 その言葉に、してやったりと笑う園子。 「じゃ、いつ行こうか?今度の日曜?」 蘭がのんきににこにこしながら聞く。 「そうね。場所、どこにしようか。公園はたぶん人でいっぱいになるわよ?」 「そうだね・・・」 う〜んと同時に考え込む2人を見て・・・ 「・・・俺、良いとこ知ってるけど」 と言ったのは新一だった。 「え、ホント?」 「ああ。ちょっと歩くけど、人はあんまりいねえし、見晴らしもいいし」 「いいじゃない!そこに決まりね」 「じゃ、わたしお弁当作っていくね」 蘭が言うと、園子がちらりと横目で見て、 「・・・新一君の分?」 と言った。 「もちろん、園子の分も作っていくわよ」 「さっすが蘭!!」 ぎゅっと蘭に抱きつく園子を見て、新一が面白くなさそうな顔をする。 「・・・おい・・・」 「なあに?いいじゃない、女同士の友情を深めたって」 ニヤニヤと笑う園子。ヤキモチ妬きの新一をからかって遊ぶ。なかなか自分の恋人、京極に会えない 園子の、密かな楽しみである・・・。
そして日曜日。空は晴れ上がり、まさに絶好のお花見日和といったところだ。 3人が向かった場所は、林を抜け、小高い山を上った先にある場所で、人気もなく夜だったら間違い なく避けて通りそうな、少し不気味な林の中からは想像もできないくらいその場所は明るく、開けた場 所でその真中には大きな桜の木が1本、堂々と枝を広げ満開の花を咲かせていた。 「うわあっ、すっごい綺麗!新一、良く知ってたね、こんなところ」 蘭が感激したように声を上げる。 「まあな」 「へえ、ほんとに誰もいないのね。貸切みたいで良い感じじゃない」 と、園子も感心したように言う。 3人は桜の木の下にレジャーシートを広げると、靴を脱ぎ思い思いにくつろいだ。 「すごいね、この桜。こんなに大きな桜の木って、はじめて見るかも」 「ホント。なんだか圧倒されるわね」 「なあ、腹減ったんだけど」 と言った新一を、園子がギロリと睨んだ。 「・・・ほんっとにデリカシーのない男ね」 「っせーなあ。腹減ってんだからしようがねーだろお」 「じゃ、お弁当食べようか」 蘭が、持ってきたお弁当を広げ始めた。 「蘭ってば、あんまり甘やかしすぎるとこやつのためになんないわよ」 「うるせーよ、大体なんでおめえは手ぶらなんだよ」 「あんただって手ぶらじゃないよ」 「俺は蘭の作った弁当持ってやったからいいんだよっ」 「えばんないでよね、大体あんたっていつもいつも蘭に甘えて―――」 「ハイハイそこまで。ね、食べようよ、お弁当」 にっこり微笑む蘭の笑顔に、2人の言い争いがぴたりと止まる。 そして、広げられた見事なお弁当を見て・・・ 「すげーな、これ」 「ずいぶんたくさん作ったのねえ、おいしそ―!」 「えへへ。いっぱいあるほうが楽しいし、2人とも喜んでくれるかなあと思って」 にこにこと無邪気に笑う蘭を見て、新一と園子が顔を見合わせる。 「・・・一時休戦ね」 「だな」 2人はそう言うと、にっと笑い、お弁当に向かった。 「いただきまーす!」 手を合わせ、2人がお弁当に手をつける。それを見て、蘭も嬉しそうに食べ始めた。 3人で桜を鑑賞しながら、お弁当をほおばり話に花を咲かせる。 こんなふうに楽しく過ごせるのはいつまでだろう?高校最後のお花見。大学に進み、学部が分かれた りすれば別の友人が出来、いっしょに行動することも少なくなっていくのだろうか。 ほんの少し感傷的になってしまう蘭は、園子を見つめた。 「・・・ね、園子」 「ん?」 「来年も・・・一緒にお花見しようね」 蘭の言葉に、園子は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに満面の笑みになって 「もちろんよ!こんなおいしいお弁当を作ってくれるならいくらでも!!」 と力強く言ったのだった。 それを見ていた新一の眉が、ぴんと跳ね上がる。 「・・・蘭。その台詞、俺には言ってくんねえの?」 「え?だって・・・」 蘭の頬がほんのり染まる。 ―――だって、新一には言わなくても分かってると思ったから・・・。 と思ったが、恥ずかしくて口に出せない蘭。と、園子が 「言わなくってもわかってるからってわけ?あ〜あ、まったくやってらんないわね〜」 と呆れたように言って、蘭の頬はますます赤く染まっていく。それを見て、新一も満足したようにに っと笑い、 「そりゃそうだな。毎年来てんだもんな」 と言った。 「あら、コナン君の時は別でしょう?新一君とは別人だと思ってたんだから」 「う・・・そりゃ、そうだけど・・・」 「いい?新一君。もうあんなふうに蘭を悲しませるようなこと、しないでよね。親友として、絶対許さ ないんだから!」 「わ、わかってるよ」 「ホントにホントよ?また、蘭を悲しませるようなことしたら、わたしが蘭を貰っちゃいますからね!」 ビシッと指差しながら言う園子の迫力に押され、一瞬あとずさる新一だったが・・・ 「―――わかってる。もう絶対蘭を悲しませたりしねえよ」 と真剣な顔で言い、それを聞いて園子もホッと息をついた。 「新一・・・」 蘭は瞳を潤ませ、新一を見つめている。 「良かったね、蘭。でも、ラブシーンは帰ってからにしてよね。今は3人でお花見してるんだから、の け者にしたら承知しないわよ?」 と、いたずらっぽく言う園子に、蘭はくすっと笑い、頷いた。 「うん!ありがとう、園子」 3人を見下ろしていた桜の木がざあっと風に揺れ、花びらが雪のように舞い落ちてきた。 それはまるで、桜の木が3人を祝福の拍手で包み込んでいるようだった・・・・・。
―――後日の園子と新一の会話――― 「ところで、良くあんな場所知ってたわね」 「まあな。実はあそこ、昔殺人事件があったって言ういわくつきの場所でさ・・・」 「なるほどね・・・」 「おい、蘭には言うなよ?」 「いいけど・・・高くつくわよ?」 にやりと笑う園子に、やっぱり言うんじゃなかったと後悔する新一だった・・・。
ちょっと中途半端でしたか?この作品は15000番をゲットされたsasna様のリクエストによる作品です。 いつもより時間がかかってしまい、すいませんでした。気付いたら、もう20000番に近くなっていて内 心焦りながらがんばって書いてみました。楽しんでいただけたら嬉しいです♪ それでは♪
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