「雨かよ、ついてねえな」 司は窓の外を見てぼやいた。 今日は久しぶりの休日だ。 ここのところずっと休みなどなかったのだが、今日は予定していた会議がながれ、急にぽっかりと1日空いてしまったのだ。
そんなときに限って雨。 普段はほとんど車で移動しているし自分で傘をさすこともないので天気など気にしないのだが・・・・・
まあ別に約束があるわけでもないし、行きたいところも・・・・・あるにはあるが、それには時間が足りなさ過ぎる。
司は溜め息をついてソファーに腰を下ろした。
「司様」 扉をノックする音と共にメイドの声が聞こえた。 「なんだ」 「お客様がいらしてますが」 その言葉に、司は顔をしかめた。 「なんだよ、今日は休みだぞ。追い返してくれ」 「ですが―――」 「うるせえ!さっさと追い返せ!いいな!」 「・・・・・かしこまりました」 メイドの足音が遠ざかる。 司は再び溜め息をつき、ソファーに深く身を沈めた。
そして、窓の外へと視線を移したとき―――
ダッシュボードの上に置いていた携帯が鳴り出した。
―――なんなんだよ、休みだってのに・・・・・
司は舌打ちしながらも、仕方なく携帯を手に取った。 「―――はい」 『ちょっとどういうつもりよ!』 キンと響く甲高い声は、何よりも聞きたかった彼女の―――
「牧野!?何だよ、いきなり・・・・・」 『何だよじゃないわよ!人がせっかく遠路はるばる海を渡って来てやったっていうのに、門前払いってどういうことよ!』 「―――は?」 『は?じゃないわよ!』 「今・・・・・なんつった?」 『はあ?あんたふざけてんの?だから、門前払いって―――』 「じゃなくてその前!」 『―――だから、』 「いるのか?」 『は?』 「そこに、いるのか?」 『―――』 「おい!」 『―――いるわよ』
考えている余裕はなかった。
気付いた時には携帯を投げ出し、部屋を飛び出していた。
メイド達が驚いて目を丸くしているなか、司はだだっ広い屋敷の中を駆け抜け、玄関を目指した。
重厚な扉を力任せに開け放ち、降り頻る雨の中、門へと急ぐ。
広い敷地が、この時ばかりは恨めしかった。
ようやく門が見えて来た頃には、司はずぶ濡れになっていた。
門の前に、つくしが立っているのが見える・・・・・
「牧野!!」 司の声につくしが振り向く。
つくしが持っていた傘を放り出し、駆け出す。
お互いの腕を伸ばし、まるでスローモーションのように引き寄せられる。
「道明寺!」
つくしの瞳が、涙で濡れていた。
司の手がつくしの体を捉え、力いっぱい抱き締めた。
「牧野・・・・・!お前、なんだって急に―――!」 「なによ・・・・・会いに来ちゃいけないっていうの?」 「―――いけなか、ない」 「じゃ、素直に喜びなさいよ、天邪鬼」 その言葉に、司はクッと笑った。 「偉そうなやつだな」 「―――会いたかったの」 つくしの声が切なさと甘さを滲ませる。 「俺も・・・・・会いたかった」 抱きしめる腕に力を籠める。 「スゲー、会いたかった」 磁石のように引き寄せ合い、もう離れることなどできなくなってしまったようだった。
雨の中、お互いを抱きしめ合い、そのぬくもりを確かめるように目を閉じる。
まるでこの世界中に2人しかいなくなってしまったかのように。
たとえ今そうなってもきっと思い残すことはないと。 そうはっきりと思えるほど、今はお互いのことしか見えなかった。
「―――愛してる」 「あたしも、愛してる」
そのまま唇を求め合い、息もできないほどの口付けを交わす。
ようやく唇を離す頃には、つくしの息はすっかり上がってしまっていた・・・・・。
「―――行こう」 どこへなんて、聞かない。
2人は見つめあい、手を取り合って、雨の中屋敷へと歩いていったのだった・・・・・。
fin.
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