*このお話は、「2009 Valentine Special
総二郎編」から続くお話になります。
「だからって何で類となんだよ」 俺はイライラと頭をかいた。
牧野は困ったように俺を見つめている。 「だって、西門さんはこの映画見たくないって言ったじゃない」 「だからって、何で類と行くんだよ?」
「類が、この映画見たいって言ってたから・・・・・」
事の発端は1週間前、牧野が映画のチケットをもらったから一緒に行こうと言って来た。
別に映画に行くくらいどうってことない。
牧野とならそれがアニメ映画だっていいと思ってたくらいだ。
だけどそれは茶道界の裏側を描くとか何とかいう内容の映画で、サスペンスものだった。 サスペンスが嫌なんじゃなくて。
茶道界の裏側を描いただなんていうナンセンス極まりない映画のコンセプトが気に入らなかった。
映画なら、別のやつにいくらでも付き合うからそれだけは勘弁してくれと言った。
牧野も1度は納得して『じゃ、このチケットは優紀にあげようかな』と言っていたのに。
昨日、届いたメールに、目が点になる。
『これから、類と映画見てくる。後でまたメールする』
「優紀に渡そうと思って持ち歩いてるときに、たまたま類に会ったの。映画の話をしたら、暇だから見に行きたいって。で、時間があるならあたしも一緒にって・・・・・」
「で、のこのこ着いて行ったと」 「だって、1人じゃつまらないだろうし、ちょうどバイトも休みだったから・・・・・。メール、入れたでしょ?」
「ああ、けどその後すぐに電話したけど、お前出なかっただろうが」 「それは映画館に入ったから・・・・・。映画見るくらい、別にいいでしょ?」
牧野の言葉に、俺の繭がピクリと反応する。 「映画見るくらい?」 「だって、他に何も―――」
「何かあってからじゃ遅いっつーの!」 「そんなに怒んなくたっていいじゃない!」 「怒らせてんのは誰だよ!?」
腹立たしいことこの上ない。 映画を見ただけ。 そう言ってしまえばそうだけど。
だけどそれだけじゃ俺の気持ちはおさまらなかった。 よりによって、類とだなんて―――。
おさまらないいらつきを抱えたまま牧野を睨みつけていると、牧野の瞳が、一瞬揺れたように見えた。
「―――あたしだって、西門さんと行きたかった」 思いもしなかった言葉に、俺は一瞬呆けた。 「―――は?」
「映画の内容なんて、どうでも良かった。西門さんと、見に行きたかったんだよ。でも、西門さん絶対嫌だって言うし―――」 「だ、だからって何で類と」
「類に話したら一緒に行きたいって言われて―――断る理由もないし、だから」 「断る理由、あるだろ?俺と行きたいんだって言えばよかったじゃねえか」
「だって、嫌がってる人無理やり連れて行けないじゃない!」 「そうじゃねえだろ?」 俺は思わず、牧野の腕を掴み、自分のほうへ引き寄せた。
「俺が行けないからって、何で類と行くんだっつってんの!」 「それは―――」
「あの映画を見る気はなくっても、お前が類と見に行くのはもっと嫌なんだよ!」 俺の言葉に、牧野の頬がみるみる赤く染まる。
「・・・・・映画くらい、どうってことないって俺だって思ってる。だけど、お前が2時間もあいつの隣にいたのかと思ったらやっぱり面白くねえんだよ。ガキっぽいやきもちだって思われても―――それでもお前の隣に俺以外の男がいるのは面白くねえんだよ」
目を丸くして、俺を見つめる牧野。
しばらくして口を開いて。
何を言うのかと思ったら。
「ガキ」 その言葉に一瞬固まる。 「おい―――」
「ほんっとにガキ。そんなことでやきもち妬いて。そんなに類といるのが気に入らないなら、ずっとあたしの傍にいてくれればいいじゃない」
牧野が両手で、俺の顔をはさむように包み―――
次の瞬間、牧野の唇が俺の唇に重なった。
突然の牧野からのキスに、俺は柄にもなく顔が熱くなるのを感じた。
「―――あたしが、一緒に映画を見たいと思うのは、西門さんだけだよ」 「じゃ・・・・・なんで」 「行ってないもん」
「―――は?」 「チケットは、優紀にあげたの。類にも会ったし、誘われたけど・・・・・行かなかった。あたしは、西門さん以外の人とは行かない」
「牧野・・・・・」 「でも、一緒に行ってくれなかったのが悔しかったから、ちょっと意地悪してやろうと思ったの」
そう言って、ぺろりと舌を出す牧野。 「騙されたでしょ?」 にっこりと、満面の笑みを浮かべて俺を見る。
悔しさと、怒りと――― それから、安堵と。 いろんな感情が渦巻いて、すぐには言葉が出てこなかった。
―――やられた。
いたずらっ子のような笑みを俺に向ける牧野が、それでもやっぱりかわいくて、ぎゅっと抱きしめる。
「お前には、かなわねえよ。今度・・・・・お前の好きな映画、付き合うから」 「絶対だよ?」
「ああ、約束する。だから―――俺の知らないとこで、類と会ったりすんなよ」 「あれは、偶然―――」
「けど、今回のこと企んでお前に入れ知恵したのは類だろ?」 俺の言葉に、牧野が驚いて顔を上げる。 「何でわかるの?」
「当然。それも気にいらねえんだよ。言いたいことは、ちゃんと俺に全部言え」 「えらそうに」 「いいから!わかったな?」
そう言う俺を見て、くすりと笑う牧野。 「うん」 ガキっぽくたっていい。 他のやつには、どうしたって渡せない。
こんなにかわいいやつを・・・・・・ ずっとこの腕に閉じ込めておきたいくらい、もう離せないのだから・・・・・
俺はそっと、牧野の唇にキスを落とした・・・・・。
fin.
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