***さくら 〜つかつく〜***



 「桜が、きれいだね」
 大きな桜の木を見上げながらあたしが言うと、道明寺は、まるで初めて気付いたかのように上を見上げて目を瞬かせた。
「ああ、本当だ。すげえな」
 満開の桜が空も隠してしまうほど一面に広がり、あたし達を見下ろしているようだった。
「―――もうすぐ新学期だよ。F4はもういないんだよね」
 高校生の時からずっと一緒だった人達。
 彼らがいよいよ卒業し、この春からはそれぞれの道を歩き出す。
 なんだか、突然周りが静かになってしまい、気が抜けてしまったようだった。
「・・・・・寂しいか?」
 道明寺の声にあたしは素直に頷いた。
「少しね。でも大丈夫だよ。あたしも忙しくなるし、1年後にはあたしも卒業だもん。寂しがってる暇なんかないよ」
「そうか・・・・・。あいつらも、お前のことは気にかけてる。なんかあったときにはぜってえ力になってくれるはずだ。もし、何かあったら遠慮せずにあいつらを頼れよ」
 桜を見上げながらそう言う道明寺を、あたしは首を傾げて見た。
「・・・・・そんな顔すんな。俺は、あと1年は帰ってこれねえし、おまえに何かあったとき、すぐには駆けつけてやれねえ。そういうとき、頼りに出来るのはあいつらだ。そんでも・・・・・できれば何の問題も起きないでいて欲しいけどな。お前の場合、それを期待すんのは難しいだろ?」
「何よそれ、あたしはトラブルメーカーじゃないんだから」
「立派なトラブルメーカーだよ。今までに何度問題を起こしたか・・・・・」
 呆れたようにあたしを見る道明寺に、あたしはむっとして睨み返した。
「人を問題児みたいに言わないでよ。あたしが問題を起こしてるんじゃなくて、そういうトラブルに巻き込まれるだけよ」
「・・・・・だから、心配なんだよ。先が思いやられる」
 溜息をつく道明寺にむかついて、あたしはぷいと横を向いた。
「心配なんかしてくれなくってもいいです!あたしの問題は、あたしが自分で解決するし!」
 先を歩こうとするあたしの腕を、道明寺の腕が掴み、ぐいっと引っ張られた。
 そのままよろけるようにバランスを崩し、道明寺の腕の中に収まるあたし。
 反射的に離れようとして・・・・・そのままぎゅっと抱きしめられた。
「・・・・・・お前の、そういうところが、危なっかしくて見てらんねえ」
「・・・・・何よ、いつだって見てないじゃない」
「ああ・・・・・・本当はずっと俺の目で、見ていたかったんだけどな・・・・・」
 なんだか、寂しげな道明寺の言い方に、心臓が嫌な音を立てる。
「あと1年・・・・・・あと1年だ。必ずお前を迎えに来る。だから・・・・・・それまで、ちゃんと待っててくれ」
「道明寺・・・・・・・」

 別れを、言われるのかと思った。
 そっと見上げると、道明寺のいつになく優しい瞳にぶつかり、どきんと胸が鳴る。
「・・・・・・類にも・・・・・・他の誰にも、おまえをやるつもりはねえからな。1年後、誰かがお前の傍にいても、必ず俺が奪い返す。だから・・・・・お前も、俺だけを思ってろ」
「・・・・・4年も放ったらかしで、偉そうなんだから」
「そう言うな。おれには、お前しかいねえんだ。一生・・・・・女はお前だけだ」

 涙が、頬を伝った。
 桜の花弁が舞い落ち、あたしの頬を掠めていく。
 道明寺の大きな掌があたしの頬に優しく触れ、涙を拭った。

 「愛してる・・・・・・」
 風にかき消されそうな、でもしっかりとあたしの胸に響いてくる道明寺の声。
「・・・・・あたしも」
 それだけ言うのが、精一杯だった。
 腰を引き寄せられ、唇が重ねられる。

 道明寺jの優しいキス。

 それも何ヶ月ぶりだろう・・・・・。

 でも、それだけであたしは幸せになれる。

 あと1年。

 大丈夫。

 だって、あたしにも道明寺だけかだら・・・・・・

 ぐいと、道明寺の胸倉を掴む。
 「1年後・・・・・もしあんたがこなかったら・・・・・あたしが、奪い取りにいくからね」
 あたしの強気なセリフに、道明寺は一瞬目を瞬かせ・・・・・
「楽しみだな、それも」
 そう言って子供みたいに笑った・・・・・・。

 
                          fin.










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