Blue Heart  



「黒羽く〜んvv」
 後ろから聞こえてくる黄色い声に、振り向く快斗。
「はい?」
 にこにこしながら駆け寄ってきたのは見覚えのない上級生の女生徒2人組。
「お誕生日おめでとう♪これ、プレゼント!受け取ってくれる?」
 ずいっと差し出され、半ば強引に快斗の胸に押し付けられた派手な袋を仕方無しに受け止める。
「あ、ああ、どうも・・・けど、おれ・・・」
「あ、お礼なら気にしないで♪わたしたち、黒羽くんのファンみたいなもんだしいvね〜♪」
 快斗の言葉を遮り、勝手に盛り上がる2人組。
「じゃ、またね♪ばいば〜いv」
 と、これまた唐突に走り去って行く2人の後姿を、あっけにとられながら見送る快斗。
「・・・なんだあ?あれ・・・」
 呟き、受け取ってしまったプレゼントを、どうしたものかと見ているといつの間にやら3,4人の男
子生徒が快斗の周りに集まっていた。
「いいよなあ、黒羽は。ファンだってさ」
「あ〜あ、俺も誕生日にこ〜んなプレゼント貰ってみてえなあ」
 羨ましがる同級生に、快斗はその袋を差し出した。
「んじゃ、やるよ」
「へ?やるって・・・だって、おめえにくれたんだろ?」
「俺、いらねえし。ほしけりゃやるよ」
「な、なに言ってんだよ、んなことしたらあの人たち・・・」
「大丈夫だって。んじゃ、俺急ぐから」
 呆気に取られている同級生たちを尻目に快斗はさっさと学校を後にしたのだった。


 学校を出たところで、ふと立ち止まり、ひとつ溜息をつく快斗。
 ―――誕生日、か・・・。確かに、去年までの俺ならあのプレゼントを喜んで受け取ってただろうな
・・・。でも、今年は・・・。
 思い浮かぶのは誰よりも愛しい、彼女の笑顔・・・。
 自分の誕生日なんて知るはずもない。来るはずはないと分かっていても思わず回りを見渡してしまう。
 ―――いるわけねえよなあ。大体、俺の誕生日なんて知ってたところで、わざわざ来てくれるわけね
えんだ。彼女は・・・蘭ちゃんは、あいつのものなんだから・・・
 今は行方不明の、彼女の想い人。
 彼女は、ずっとそいつの帰りを待っている・・・。
 快斗は、自分の気持ちをごまかすように頭をくしゃくしゃとかき回すと、大股に歩き出した。
 そしてわき目も振らずにひたすら家路をたどって歩いていると・・・
「快斗くん!!」
 聞き覚えのある声に、快斗の足がぴたっと止まる。

 ―――まさか・・・

 あるわけない、そんなこと・・・
 そう思いながらも、そろそろと振り向く。
 しかし、そこに立っていたのはまぎれもなく、たった今まで思い浮かべていた愛しい人で・・・
「蘭ちゃん!?何でここに・・・」
 驚きの声をあげる快斗に、蘭は少し悲しそうな表情になった。
「あ、ごめんね、突然・・・。今日、快斗くん誕生日でしょ?だから、プレゼント持ってきたんだけど
・・・。もしかしてすごく急いでる?」
 悲しそうな蘭の顔に、快斗ははっとして、慌てて首を振った。
「ぜ、全然!!すっごいひま!!」
「ほんと?よかった」
「けど、なんで俺の誕生日・・・俺、教えたっけ?」
「ううん。この間、快斗くんのマジック見せてもらったときに寺井さんって人がいたでしょう?あの人
が教えてくれたの」
「寺井ちゃんが・・・そっか・・・」
「で、プレゼントなんだけど・・・どこか喫茶店にでも入らない?ここで渡すのもなんだし」
 と、ちょこっと首を傾げ、照れたように言う蘭。
 そんな表情にときめきながら、さっきまでの暗い気持ちとは打って変わって上機嫌になる快斗。
「あ、それなら家においでよ」
「え?いいの?おうちの人は?」
「うちの母さん、今日から旅行に行ってていないんだ。だから気にしないで・・・。あ、これでも俺、
コーヒーくらいは入れられるから」
 そう言って、器用にウィンクをして見せると、蘭の手を取り歩き出したのだった。


 「ハイ、どうぞ。蘭ちゃんは紅茶のほうがいいんだよな」
 そう言って、蘭の前に紅茶の入ったティーカップを置く快斗。
 きょろきょろと周りを見回していた蘭ははっとして快斗を見上げる。
「あ、ありがとう。あの、ホントごめんね、突然。快斗くん・・・本当に今日、予定なかったの?」
「うん。なんで?」
「えっと、その・・・もしかして、彼女とデートとか・・・」
 ちょっと言いづらそうに視線を彷徨わせながら言う蘭に、優しく微笑む快斗。
「いないよ、そんなの。今日は1人でいる予定だったんだ」
「そうなの?あの・・・幼馴染の女の子がいるって・・・」
「ああ・・・。あいつはうちの母さんに誘われて一緒に旅行に行ったよ。商店街の福引で当たってさ。
それがちょうど今日からで・・・。一応最初は遠慮してたけど、俺ももう、誕生日パーティって年じゃ
ないし。行ってくれば?って言ったら喜んで2人で行っちゃったよ」
「そうなんだ・・・」
 それでも、どこか附に落ちないような表情の蘭。そんな蘭をじっと見つめながら、快斗はまさか、と
言う思いを口にする。
「・・・蘭ちゃん、ひょっとして青子のこと誤解してない?」
 その言葉に、ドキッとしたように顔を上げる蘭。その頬は僅かに赤く染まっていて・・・
「ご、誤解って、別に・・・」
「俺と、青子はただの幼馴染だよ?」
「うん・・・でも、すごく仲良いみたいだし・・・。その、青子ちゃんって、快斗くんのこと好きなん
じゃないかなあって・・・」
「だったらどうするの?」
「え・・・どうするって・・・」
「青子が俺のこと好きだったら?」
 そう言いながら、快斗は少しずつ蘭に近づいていった。
「あの・・・」
「うん?」
「快斗くんも、もしかして青子ちゃんのこと好きなのかなあって・・・」
「・・・なんで?」
「え?」
「なんで、そう思うわけ?」
 ふと顔を上げると、いつのまにかすぐ近くまで来ていた快斗が、少しふてくされたような、それでい
てちょっと悲しそうな目で、蘭を見ていた。
「だ・・・って・・・仲良いみたいだし・・・」
「そりゃ、兄弟みたいなもんだから。でも、それは恋愛感情とは違うだろ?」
「そう・・・だね」
「・・・蘭ちゃんは・・・?」
「え?」
 きょとんとして快斗を見上げる蘭。
「蘭ちゃんは・・・幼馴染のあいつが好きなの?工藤新一が」
 その問いに、僅かに瞳を見開く蘭。快斗の顔は、真剣そのものだ。じっと、蘭の瞳をまっすぐに見つ
めている。
 蘭はその瞳に戸惑いながらも、快斗から目をそらさずに口を開いた。
「わたしは・・・新一のこと、好きだった・・・。ずっと一緒にいて・・・一番安心できて、楽しくて
・・・だから、突然あいつがいなくなって、寂しくて・・・。ずっと、待ってるつもりだったの。でも
・・・」
「でも・・・?」
「・・・最近、待ってることに自信がなくなってきて・・・」
「どうして?」
 快斗に聞かれ、蘭はその綺麗な眉を寄せて、困ったような瞳で快斗を見つめた。
「だって・・・変なの、わたし。最近、気がつくといつも快斗くんのこと考えてて・・・すごく気にな
って・・・ドキドキするの・・・快斗くんのことを考えると・・・。苦しくなるの、青子ちゃんのこと
を考えると・・・。どうしていいか、分からなくて・・・」
「蘭ちゃん・・・!」
 快斗は、思わず蘭のその細い肩を掴んだ。その力にはっとして、蘭が下を向く。
「ご、ごめんね、変なこと言って。わたし・・・!」
 蘭が言いかけるのを遮るように、快斗の腕が蘭を思い切り抱きしめていた。
 蘭の瞳が驚きに見開かれる。
「か、快斗く・・・」
「俺も・・・同じだよ」
「え・・・?」
「俺も、蘭ちゃんのことばっかり考えてた。でも、蘭ちゃんはあいつのことが好きなんだと思ってたか
ら・・・。苦しかったんだ」
「快斗くん・・・」
「好きだよ、蘭ちゃん・・・」
 快斗の瞳が、蘭の瞳をまっすぐに見つめる。
 蘭の頬が赤く染まり、潤んだ瞳に快斗が映し出された。
 少しずつ、近付いてくる快斗の顔。
 蘭は自然にその瞳を閉じていた。
 蘭の薄桃色の唇に、快斗の唇が静かに重なった。
 そっと触れて、すぐに離れる唇。
 瞳を開けると、蘭を見つめる快斗の瞳とぶつかる。
 その目があまりにも真剣で、蘭は思わず俯いてしまった。
「あ、あのね、プレゼント・・・持ってきたから、受け取って、くれる?」
 パッと快斗から離れ、自分のバッグをつかみ、中から綺麗にラッピングされた包みを取り出す。
「こ、これ・・・気に入るかわかんないんだけど・・・」
 真っ赤になって差し出したそれを、快斗は優しい笑みを浮かべて受け取った。
「サンキュー。開けていい?」
「うん、もちろん」
 快斗が包みを開くと、中からは夏の空のような水色のシャツが出てきた。
「うわ、すげえ綺麗な色!」
「快斗くんに、似合うかなあって勝手に思って選んだの。これから夏だし・・・どうかな?」
「うん!すげえ気に入った!ありがとう・・・って、あれ?もしかしてこれ・・・蘭ちゃんの手作り?」
 快斗が聞くと、途端に蘭の頬が真っ赤に染まってしまった。
「わ、分かっちゃった?既製品を探しても、なかなか良いものが見つからなくって・・・。なんとなく
入った生地やさんでこれ見たら、快斗くんがこのシャツを着てる姿が目に浮かんで離れなくなっちゃっ
て・・・。へ、へたくそなんだけど・・・」
「何言ってんだよ!すげえうまいよ、よく作れたなあ。ぱっと見ただけじゃあ手作りなんてわかんない
ぜ?」
「そ、そんなこと・・・」
「ほんとだって!すげえ嬉しい。蘭ちゃんが俺のために手作りしてくれるなんて・・・」
 頬を高潮させながら、本当に嬉しそうに話す快斗を見て、蘭の顔にもようやく笑みが浮かんだ。
「良かった・・・気に入ってもらえて。ホントは今日、すごく悩んだの。これを渡しに来るかどうか・
・・」
「蘭ちゃん・・・。これ、着てみていい?」
「うん!」
 蘭が答えると、快斗はすぐさまその場で着ていたシャツを脱ぎだした。と、蘭が真っ赤になって後ろ
を向く。
「や、やだ快斗くんてばっ」
 そんな蘭がかわいくて、快斗はくすくす笑う。
「何照れてんのさ」
「だ、だってえ・・・」
「それより、着たから見てみてよ」
「え、もう?」
 快斗の早業に驚きつつも、そおっと振り向く蘭。
 そこには、言葉どおりプレゼントのシャツを着た快斗が立って微笑んでいた。
「わ・・・やっぱり似合ってる!快斗くん」
「マジ?」
「うん!よかったあ・・・」
 ホッとしたように柔らかな微笑を浮かべる蘭に、快斗の胸が再び高鳴る。
「・・・俺、今年の誕生日は一生忘れないよ」
「え・・・」
「サイコーのプレゼント、もらえたからね」
 パチンと見事なウィンクを決めた快斗に蘭の頬が染まる。
「そ、そんなたいしたものじゃないよ、こんなの・・・」
「んなことないよ。俺にとってはサイコーのプレゼントだよ。このシャツと・・・蘭ちゃんの気持ち、
貰ったからね」
 快斗の繊細な掌が、蘭の頬に触れる。
 蘭が何か言おうとしたが、快斗の唇が、それを遮った。
 優しく、何度も繰り返す恋人のキス。

 ―――言葉なんて、要らない。
 きみが側にいてくれるなら、他には何もいらない―――

 そんな快斗の囁きが、蘭の耳元を擽る・・・。
 そして、いつまでも、いつまでも恋人たちの甘いときは終わらない。
 きっと誰にも、何にも引き裂くことは出来ないだろう、この甘い時間を・・・

 ―――Happy Birthday,kaito・・・―――



 や―――っとできました!このお話は19000番をゲットされたREI様のリクエストによる作品です。
本当は快斗のお誕生日に間に合わせたかったんですけどね・・・。遅くなっちゃってごめんなさいです
、ほんと。そして、なんだか変な終わり方で・・・。あまあまなお話にしようと努力はしてみたんです
けども・・・。気に入っていただけたら嬉しいんですけども。
 感想などありましたらBBSのほうへどうぞ♪
 それでは♪