*このお話は、「あなたしか見えない」から続くお話になります。 こちらのお話だけでもお読みいただけますが、より詳しい内容をお知りになりたい場合は、「あなたしか見えない」からお読みくださいませ♪
「あれは、グッチの財布の女だ」 あたしをずっと睨んでる女がいるな、と思ってそちらを気にしていると、美作さんが唐突にそう言った。 「は?グッチ?」 「そ。俺の誕生日に、毎年グッチの新作の財布をプレゼントしてくる女だよ」 「よく覚えてるね・・・・ってか、プレゼントで人の顔覚えるの?」 呆れてそう言うあたしに、美作さんは悪びれもせずににやりと笑い、 「いい方法だろ?1人1人の名前なんて覚えてらんねえからな」 と言った。 あたしはあえて何も言わず肩をすくめた。 呆れたフリをしながらも、本当は感心していた。 それと同時に、妬いてもいた。 毎年誕生日に山ほど贈られるプレゼント。 彼は、必ずそれを1つずつ確認し、くれた人にちゃんとお礼をするのだ。 そして、誰が何をくれたのか決して忘れないのだから、このマメさには感動すら覚える。 だけど・・・・・
それだけたくさんの人に想われていて、美作さんの中であたしの存在ってどれだけなんだろう。
そんな不安に、時々襲われる。
マメな彼だから、たくさんの愛情表現でいつもあたしを安心させてくれるけれど。
果たしてそれはずっと続くものなんだろうかと、つい心配してしまうのは、自分に自信がないからだとわかっているけれど・・・・・。
「どうした?」 あたしの顔を覗き込む美作さんの視線に、はっとする。 「あ―――なんでもない」 「そうか?ならいいけど―――」 ふと、美作さんがあたしの後ろのほうに視線を向け、微かにその表情を曇らせる。 「行くぞ」 そう言って、あたしの腕を取って立ち上がる美作さん。 あたしは美作さんに引っ張られるようにして立ち上がった。 「どうしたの?」 「いいから早く」 そう言って芝生の上をずんずん歩いていく。 あたしは何がなんだかわからず、それでも必死で美作さんに着いて行き―――
門を出たところでようやく足を止める美作さん。 あたしは、また突然立ち止まった美作さんの背中にぶつかりそうになり、慌てて足を止める。 「何なの?突然」 あたしの言葉に、美作さんはちょっと照れたように髪をかき上げた。 「・・・・・類がくるのが見えたから」 「類が来るから?」 「・・・・・最近、お前類といる頻度高いだろ」 ちょっとばつが悪そうに目をそらす美作さん。
―――それってもしかして・・・・・
なんだか信じられないような気持ちで美作さんをじっと見つめていると、美作さんが微かに頬を染め、あたしを見た。 「何だよ、かっこ悪いと思ってるんだろ、やきもちなんて」 「お、思ってないよ!ただ、美作さんがやきもちやいてくれるなんて思ってなかったから―――」 あたしがそう言うと、美作さんは照れくさそうに頭をかいた。 「俺だってやきもちくらい妬くよ。大体、お前は無防備すぎるんだ。あの非常階段で類といるときに寝ちまってたり、見てるこっちはいつもハラハラしてるってのに」 「そ、それは、だって類だし・・・・・」 「それが気にいらねえ。類は特別って感じが。言っとくけど、俺はお前を類にも誰にも譲るつもりはねえからな」 ふてくされたようにそう言い捨てる美作さん。 それがなんだか嬉しくて―――つい頬が緩むのをごまかすように、あたしは手のひらで口元を隠した。 だけど――― 「あんま喜ぶなよ」 ピシリと言い当てられ、思わずぎくりとする。 「よ、喜んでないよ」 「嘘つけ。やきもち妬いてるのが自分だけじゃないってわかって安心したんじゃねえの」 にやりと笑ってそう言われ、あたしは驚いて固まる。 「俺がほかの女の話なんかしてるときのお前、すげえふてくされた顔してるぜ?自分で気づいてねえだろ」 「そ、そんなこと―――」 「ごまかすなよ。俺は嬉しいんだから」 そう言って、美作さんがくすくすと笑った。 からかうような、それでいてあたしを包み込むような優しい笑顔で・・・・・ 「・・・・・やきもちなんて妬いたら、鬱陶しがられるかと思ってた」 「何で?それだけ俺のこと思ってくれてるってことだろ?俺は嬉しいよ。お前だって・・・・・さっき、喜んでたろ?」 言い当てられ、また頬が熱くなる。 「それは、だって、あたしと美作さんじゃやきもちの頻度が違うって言うか・・・・・」 「ちがわねえよ。俺だっていつも妬いてる。大人気ないと思うから表情に出さないようにしてるだけ。その分フラストレーション溜まりまくり。この責任、どう取ってくれる?」 にっこりと、大人な笑顔で迫ってくる美作さんに、あたしは一歩後ずさる。 「せ、責任って・・・・・美作さんだって」 「俺?じゃあ俺も責任とってやるよ。お前の行きたいところ・・・・どこでも連れてってやる」 そう言って、あたしの髪を優しく撫でる。
そんな仕草にもどきどきしてしまう。
さらりと流れる彼の長い髪が、日の光に透けてすごくきれいだった。
「―――2人一緒なら、どこでもいい」 あたしの言葉に、美作さんが嬉しそうに笑みを浮かべる。 「じゃ、それでお互いチャラにしようぜ。で、今すぐ―――2人きりになれるとこに行こう」 そう言って手を繋がれ、歩き出す。 しっかりと繋がれた手が嬉しくて、きゅっと握り返す。
美作さんの背中が、嬉しそうに笑ったような気がした。
いつだって、あたしを安心させてくれる彼の背中が愛しくて―――
ずっと、彼だけを見ていたいと思わずにはいられなかった・・・・・
fin.
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