「まあ〜〜〜♪つくしちゃんってばかわいいわ〜〜〜」 母親の言葉に、つくしは引き攣った笑みを浮かべる。
プロム用のドレスに着替えたつくしが、リビングにいた俺たちの前に姿を現した。
ベビーピンクの、ふわりと広がったシフォンのドレス。 裾と肩部分には白いバラをかたどったリボンがいくつも縫い付けられ、1つにまとめた髪にもピンクのリボン。 アイドルも真っ青といった感じか・・・・・。
「あの・・・・・これちょっと、かわいすぎる気が・・・・・」 遠慮がちに口を開く牧野に、母親がニコニコと微笑みかける。 「いいじゃない!すごく似合ってるわ〜〜〜。ねえ、あきら君?」 同意を求められ、俺は苦笑して肩をすくめる。 「いいんじゃね?」 「やっぱり?よかったわ〜〜〜。ね、ウェディングドレスのデザインも考えなきゃいけないわね!楽しみだわ〜〜〜」 母親の言葉に、牧野の顔が再び引き攣る。 「ウ、ウエディング・・・・・」 「そうよ!あ、いけない、時間がないわ。つくしちゃん、ごめんなさいね、わたしこれから出かけなくちゃいけないの。あきら君、後を頼むわね!」 にっこりと微笑み、その場を後にする母親。 扉が閉まると、俺は座っていたソファーから立ち上がり、牧野の前に立った。 「悪いな、つき合わせて。でもマジで、それ、かわいいぜ?意外と似合ってる」 俺の言葉に、牧野の顔がカーッと赤くなる。 「い、意外とって・・・・・。あたしこんなかわいらしいの、着たことない」 「ああ。だからわからなかった。お前ってピンク似合うんだな」 牧野の髪に付けられたピンクのリボンに触れる。 ふわりと髪が揺れ、牧野の肩がぴくりと震える。 「・・・・・すげえかわいい」 真っ赤に頬を染めた牧野の唇に、チュッと触れるだけのキスをする。 「・・・・・このまま、結婚式挙げてもいいくらい」 「って・・・・・まだあたし、卒業もしてないし。でも・・・・・本当にいいの?」 「何が?」 「未だに、信じられない・・・・・。美作さんが、あたしのこと好きなんて・・・・・あたしの片思いだと思ってた」 「それは俺の方。司をN.Y.まで追っかけてって・・・・・まさか別れるとは思わなかったけど、そこまであいつのこと好きだったのに・・・・・」 「道明寺とは、あのときに全部終わったの。あたしは・・・・・美作さんが、好きだよ。夜の月みたいに、いつもあたしを見ててくれた。傍に・・・・いてくれたでしょ?」 俺を見上げる牧野を、そっと腕の中に閉じ込める。 「それが、俺の役目だと思ってたから・・・・・。ずっと、言わない方が良いと思ってたんだけど・・・・・。思い切って、プロムのパートナーに誘ってよかったよ」 「嬉しかった・・・・・すごく」 「・・・・・1つ、頼みがあるんだけど?」 「何?」 俺は、牧野の瞳を覗き込んだ。 「プロムで。俺以外の奴と踊っちゃダメだぜ?」 牧野は頬を染めながら、俺を上目遣いに見上げる。 その表情がかわいくて、俺は頬を緩ませる。 「誘われないから、大丈夫だよ」 「総二郎は誘うと思うぜ。類も・・・・・。でもダメ。譲らないからな」 そっと唇を塞ぐ。
一瞬身じろぎするが、戸惑いながらも俺の首に腕を絡める牧野。
そのまま抱き合い、深く口付ける。
やっと手に入れた、俺だけのヴィーナスだ。
誰にも、渡せない・・・・・。
俺は牧野の手を取り、用意されたリムジンに乗り込むと、プロムの会場へと向かった。
着いた先には、類や総二郎も待ってるだろう。
あいつらもまた、牧野を想ってる事にはとっくに気付いてる。
だけど親友の2人にもこれだけは譲れない。
F4の中の月だった俺が、漸く掴んだ幸せだ・・・・・。
「あたしには、美作さんが必要だってわかったの。夜の道を1人で歩いてるような、不安なときに・・・・・美作さんの笑顔が、あたしを助けてくれた。夜道を照らす月の光みたいに・・・・・だから、いつも傍にいてくれないと、歩けないんだよ」 笑顔でそう言う牧野がかわいくて。
ダンスの途中だというのも構わず、牧野の腰を引き寄せ、キスをした。
お前が望むなら。
俺はいつでもお前の傍にいる。
それが俺の―――『月』の―――役目だから・・・・・
fin.
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