「先輩!これ見ましたあ?」
大学のカフェテリアで紅茶を飲んでいたときだった。
桜子がやってきて、持っていた女性誌をバンとテーブルの上に置いた。
「なに?いきなり」
あたしは驚いて、それでもそこに開いて置かれた雑誌を覗き込む。
そこにピンクの太字で書かれた文字に、まず目が行く。
「今話題のイケメンバーテンダー!」
そしてそこに載っていた写真は・・・・・
「美作さん?」
スマートな仕草でカクテルシェイカーを手に持ち、カメラに流し眼を送るその人は、確かに美作さんだった。
「いつの間に、バーテンなんか始めたんですか?美作さん」
「―――あたし、聞いてないよ」
「え―――彼女なのに?先輩」
桜子の言葉に思わずむっと顔をしかめる。
「悪かったわね。あたしにだって知らないことくらいあるっての」
「でも美作さんがバーテンって似合いすぎ。私絶対この店行こうっと」
そう言って行ってしまった桜子。
あたしの話なんか、てんで聞いちゃいないんだから・・・・・・
そう思って溜め息をついたとき。
「どうした?溜め息なんかついて」
突然後ろからかけられた声に驚いて振り向くと、そこには美作さんが立っていた。
「―――聞いてないよ、あたし」
あたしは桜子が置いていった雑誌をとんとんと指し示した。
「は?―――ああ、これか。ここ、知り合いがやってる店でさ。たまたまこの日総二郎と飲みにいったらバーテンやってみないかって誘われて。本気でやるつもりなんかねえけど、その真似事くらいだったらいいかと思ってやらせてもらったんだよ。したらちょうどそこにこの雑誌の編集やってるって女の客がいて、載せてもいいかって言うから」
「じゃあ、この日だけ?」
「当たり前だろ?そこでバイトするほど俺暇じゃねえし」
そう言ってにやりと笑う美作さんの目に、怪しげな光。
「何、その目」
「お前、今日バイト休みだろ?」
「そうだけど―――」
「じゃ、デートしよう」
「デート?」
「そ。バイト漬けのお前と付き合ってると、俺もバイトでもしようかなって気にもなるけどやっぱり性にあわねえ。これでも、結構我慢してるんだぜ」
「我慢って・・・・・」
「もっと、お前と一緒にいたい」
そっと、髪に触れる手にドキッとする。
切なげに見つめられて・・・・・どうしていいかわからない。
「今日は、お前のその貴重な時間を、俺にくれ」
そう言って、にっこりと笑う。
「お前だけに、俺のとっておきのカクテル、作ってやるから」
魅惑の笑みでそう言われてしまえば。
あたしに逆らえるはずなんかなかった。
それでもちょっと悔しくて。
「今日だけじゃなくて―――あたしの知らないところで、他の人にカクテル作ってあげたりしないで」
そう言って上目遣いに睨んでみれば、ちょっと意外そうに目を丸くして。
そうしてまた、ふっと嬉しそうに笑った。
「了解」
そして差し出された手をそっとつかんで。
あたしたちはカフェテリアを後にしたのだった・・・・・。
fin.
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