***恋心 77 〜総つく〜***



  いつものバーで飲んでいて。

ふと店の入り口に目を向ければ、あいつの姿。

久しぶりに見たあいつは、薄化粧して、見たことのない男と一緒だった。

予想以上にきれいになっていたあいつに、思わず目を奪われる。

もう、1年以上も会っていなかったけれど―――

忘れたことはなかった。

いや、いつもあいつのことを考えていた自分に、驚きさえ覚えていた。

いつの間にか、自分の中で大きくなっていたあいつの存在。

そして、今目の前に見知らぬ男といることにいら立ちを覚え―――

思わず、席を立った。

「どうしたの?西門さん」

隣にいた女が俺の腕に触れる。

別に一緒に飲んでいたわけじゃない。

1、2度会ったことがある程度だ。

それも俺は覚えていなかったけれど。

勝手に隣に座ってきただけの話。

俺は女の手を振り払うと、迷わず牧野の傍へ行った。

テーブル席で男と2人飲んでいた牧野が、俺に気付く。

大きく見開かれる瞳。

「西門さん!びっくりした。ここにいたの?全然気づかなくて―――」

牧野の言葉も全部聞かず、俺は牧野の腕をとり歩き出した。

「え?ちょっと、どこ行くの?あたし友達と―――」

「そんなの、放っておけよ」

「そんな―――何かあったの?ねえ―――」

店の外に連れ出し、くるりと振り返る。

戸惑ったように俺を見上げる瞳。

「―――西門さん?」

「―――あれ、誰?友達って?」

「同じ会社の人。1年先輩で、いろいろ仕事教えてもらってて・・・・・」

「よく2人で飲みに行ったりすんの?」

「よくってわけじゃ―――いつもは他の人も一緒だけど、今日はたまたま―――帰りが一緒になって、暇なら飲みに行かないかって誘われたから」

こんなバーに連れてくるってことは、相手は牧野に気があるんじゃないのか?

何となくそんな気がして。

「ねえ、もう戻らなきゃ。きっとびっくりしてるよ」

そう言って戻ろうとする牧野の手を、再び引き戻す。

「行くなよ」

「え?」

「行くな。あいつの―――他の男のとこへなんか、行かせねえ」

「何言ってるの・・・・・?」

首を傾げる牧野。

逃がさないように。

俺はその体を抱きしめた。

「ちょっと、何して―――!」

驚いて逃げようとする牧野の体を、さらに強く抱きこむ。

「―――会いたかった」

ぴたりと、牧野の動きが止まる。

「ずっと―――忘れられなかった。お前が・・・・・」

「―――嘘、でしょ」

「嘘じゃねえよ。ずっと―――会いたかったんだ。お前に―――」

想いが溢れて来て、うまく言葉にできない。

こんな経験は初めてで。

どうしたらいいかわからない。

ただずっと。

牧野を抱きしめていた。

もう二度と、離さないように―――







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