「西門さん、こんにちは」
「優紀ちゃん、久しぶり」
何気ないやり取りなのに、あたしの胸がチクリと痛む。
別に、あたしがとやかく言う問題じゃない。
西門さんが過去に誰と付き合っていようと―――
ていうか、今だって別にあたしと西門さんが付き合ってるわけでもないし。
文句いう権利なんてないのはわかってる。
だけど。
この2人を間近に見てるのは辛かった。
「―――あたし、帰るね」
その言葉に、西門さんが目を見開く。
「は?」
「つくし?どうしたの?」
「別にどうも―――。ちょっと用事思いだして。ごめんね優紀。じゃあ」
そそくさと席を立ち、呆気に取られてる2人を残して店を出る。
可愛くない態度。
だけどこれ以上2人のことを見ていられない。
今は関係なくっても、かつて関係を持った2人。
思い知らされる。
あたしが西門さんにとってどんな存在か。
あたしは、優紀の様にはなれない。
「牧野!」
名前を呼ばれるのと同時に、腕を掴まれる。
驚いて振り向けば、険しい顔をした西門さんが、息を切らしてあたしの腕を掴んでいた。
「なんで―――優紀は?」
「なんで?お前こそ何で1人で出てくわけ?今日は、2人で映画見るって約束だろうが」
「―――映画なんて、誰と見たっておんなじでしょ?優紀と見てくれば―――」
「だから、何で優紀ちゃんと見なくちゃいけねえんだよ?お前、それ気ィ使ってるつもり?俺と優紀ちゃんはもう何の関係もないんだぜ?」
「そんなこと、わかってる」
「いーや、わかってねえよ。お前は、俺の気持ちなんもわかってねえ」
「な―――何よ、それ」
真剣な目で、あたしを睨みつける西門さん。
本気で、怒っているように見えた。
腕を掴む力は緩むことなく、あたしの力じゃ振りほどけなかった。
「―――誰と見たっておんなじ?じゃあお前は誰と見に行くつもり?俺以外の誰か―――類?それともあきら?」
「なんでその2人が―――関係ないでしょ」
「俺には関係ある。お前が、俺以外のやつといるの黙って見てられるわけない」
その言葉に。
あたしは反論するのも忘れて西門さんを見上げた。
「―――俺も、お前以外の女とは見に行かない。だから―――お前も、俺にしとけよ」
「な―――何それ、意味が―――」
「まだわかんねえ?お前ってホント天の邪鬼だよな。いい加減、認めろよ。お前は、俺が好きなんだろ?」
カーッと頬が火照る。
「う、自惚れないでよ」
「自惚れさせろよ。俺も―――お前が好きだって認めるから」
―――今、なんて?
頭の中が真っ白で、何も考えられなくなってしまう。
西門さんが?
あたしを?
好き―――?
「好きなんだよ、お前が。だから今日も誘った。お前とじゃなきゃ映画なんか見たって意味がねえ。映画が見たいんじゃねえんだ。お前と、一緒にいたいんだよ」
「―――あたしと?」
「そうだよ。他の女じゃ、意味ねえんだよ。いい加減、気付けよ」
うんざりしたように言いながら。
言葉と裏腹に、あたしを抱きしめる西門さん。
切なくて。
でも、あったかくて。
涙が溢れてきた。
「―――しょうがないから、あたしも認めてあげる」
「―――ん」
「好きだよ―――」
風のように唇を掠めたキスは。
一瞬のことだったのに、すごく暖かくて。
西門さんの気持ちが、そのまま込められている気がした―――
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