***恋心 72 〜総つく〜***



  「西門さん、こんにちは」

「優紀ちゃん、久しぶり」

何気ないやり取りなのに、あたしの胸がチクリと痛む。

別に、あたしがとやかく言う問題じゃない。

西門さんが過去に誰と付き合っていようと―――

ていうか、今だって別にあたしと西門さんが付き合ってるわけでもないし。

文句いう権利なんてないのはわかってる。

だけど。

この2人を間近に見てるのは辛かった。

「―――あたし、帰るね」

その言葉に、西門さんが目を見開く。

「は?」

「つくし?どうしたの?」

「別にどうも―――。ちょっと用事思いだして。ごめんね優紀。じゃあ」

そそくさと席を立ち、呆気に取られてる2人を残して店を出る。

可愛くない態度。

だけどこれ以上2人のことを見ていられない。

今は関係なくっても、かつて関係を持った2人。

思い知らされる。

あたしが西門さんにとってどんな存在か。

あたしは、優紀の様にはなれない。


「牧野!」

名前を呼ばれるのと同時に、腕を掴まれる。

驚いて振り向けば、険しい顔をした西門さんが、息を切らしてあたしの腕を掴んでいた。

「なんで―――優紀は?」

「なんで?お前こそ何で1人で出てくわけ?今日は、2人で映画見るって約束だろうが」

「―――映画なんて、誰と見たっておんなじでしょ?優紀と見てくれば―――」

「だから、何で優紀ちゃんと見なくちゃいけねえんだよ?お前、それ気ィ使ってるつもり?俺と優紀ちゃんはもう何の関係もないんだぜ?」

「そんなこと、わかってる」

「いーや、わかってねえよ。お前は、俺の気持ちなんもわかってねえ」

「な―――何よ、それ」

真剣な目で、あたしを睨みつける西門さん。

本気で、怒っているように見えた。

腕を掴む力は緩むことなく、あたしの力じゃ振りほどけなかった。

「―――誰と見たっておんなじ?じゃあお前は誰と見に行くつもり?俺以外の誰か―――類?それともあきら?」

「なんでその2人が―――関係ないでしょ」

「俺には関係ある。お前が、俺以外のやつといるの黙って見てられるわけない」

その言葉に。

あたしは反論するのも忘れて西門さんを見上げた。

「―――俺も、お前以外の女とは見に行かない。だから―――お前も、俺にしとけよ」

「な―――何それ、意味が―――」

「まだわかんねえ?お前ってホント天の邪鬼だよな。いい加減、認めろよ。お前は、俺が好きなんだろ?」

カーッと頬が火照る。

「う、自惚れないでよ」

「自惚れさせろよ。俺も―――お前が好きだって認めるから」

―――今、なんて?

頭の中が真っ白で、何も考えられなくなってしまう。

西門さんが?

あたしを?

好き―――?

「好きなんだよ、お前が。だから今日も誘った。お前とじゃなきゃ映画なんか見たって意味がねえ。映画が見たいんじゃねえんだ。お前と、一緒にいたいんだよ」

「―――あたしと?」

「そうだよ。他の女じゃ、意味ねえんだよ。いい加減、気付けよ」

うんざりしたように言いながら。

言葉と裏腹に、あたしを抱きしめる西門さん。

切なくて。

でも、あったかくて。

涙が溢れてきた。

「―――しょうがないから、あたしも認めてあげる」

「―――ん」

「好きだよ―――」

風のように唇を掠めたキスは。

一瞬のことだったのに、すごく暖かくて。

西門さんの気持ちが、そのまま込められている気がした―――







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