そこに立っているだけで様になる。
そういう人って本当にいるんだなって、つくづく思い知る。
待ち合わせ場所に行ってみると、西門さんはすでにそこにいて。
腕を組んで立っているその姿は一瞬目を奪われてしまうほどかっこよくて。
ちらちらと振り返っては彼を見つめていく女の子たち。
見慣れた光景ではあるけれど・・・・・
その隣に並ぶことを考えると、思わず躊躇してしまうあたし。
じっと見つめていると、西門さんのほうが気がついてあたしの方に駆け寄ってくる。
「なんだよ、そんなとこに突っ立ってねえで早く来いよ」
あきれたような言い方に、あたしは思わず後ずさる。
「あ・・・・ごめん」
「なんだよ、どうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ」
「変なやつだな。もうすぐ映画始まるぜ。ほら、行こう」
先にたって歩き出す西門さん。
あたしはそのあとを少し離れて歩き―――
映画館に着くちょっと手前、あたしの前に急に2人の男が立ちはだかった。
「ねえ彼女、お茶しない?」
いまどき、ベタなナンパだ。
少し離れて歩いてたから、あたしが1人だと思ったのだろう。
「えーと、悪いけど・・・・・」
「えー、いいじゃん。おごるからさー」
こういう輩は無視するに限る。
そう思って強行突破しようとしたそのとき。
「何してんだよ」
そう言って、男2人の間を強引に割ってやってきたのは西門さんだった。
「映画、始まっちまうだろうが!早く来いよ!」
完全にナンパ男たちを無視して、あたしの手を掴み引きずるように連れて行く西門さん。
怒りのオーラを感じ、あたしは黙ってそのままついて行き―――
ロビーに入ったところで西門さんがくるりと振り返り、あたしを睨みつけた。
「何してんだよ、お前」
「だって」
「何であんな離れて歩くわけ?だからナンパなんかされるんだろうが!ちゃんと隣歩けよ!」
「だって、やなんだもん」
思わず言ってしまってから、はっとして口を押さえる。
西門さんの表情が、さっとこわばる。
「―――どういう意味だよ?俺の隣は歩きたくないってことか?」
「そうじゃなくて―――」
「そういう事だろうが。もう俺とは付き合う気ないってわけ」
西門さんの言葉が、冷たく突き刺さる。
「違うよ、あたしはただ―――」
「聞きたくねえな。お前がそのつもりなら、勝手にすればいい。俺はもう帰る。映画は1人で見な」
冷たい言葉を残し、あたしの横を通り過ぎて行く西門さん。
止めようとして、振り向いて―――
「西門さんじゃない!やだ偶然ね〜。最近全然遊んでくれないんだから〜」
顔見知りらしいきれいな女性が、西門さんの傍に駆け寄ってきた。
馴れ馴れしくその腕に触れる。
あたしはむっとして・・・・・
でも、動くことができなかった。
だって、その人はモデルのようにスタイルも良くて。
あたしよりもずっと美人で、2人の並んだ姿はとても絵になっていて・・・・・。
勝負にならない。
そう思った瞬間、不覚にも涙が零れてしまった。
ふと、西門さんがあたしの方を見る。
驚いて目を見開く西門さん。
あたしはとっさに涙を拭き、西門さんに背を向けて駆け出していた。
「待てよ!」
追いつかれ、腕を捕まえられる。
「離してよ!」
「じゃあ、何で泣いてるのか言えよ!」
「泣いてなんか―――」
「泣いてんだろ?なんだよ、俺の隣を歩くのは嫌なのに、俺の隣に他の女がいるのは許せないわけ?ずいぶん勝手だな!」
「だって、嫌なんだからしょうがないじゃない!」
思わず叫び、西門さんが目を丸くしてあたしを見つめる。
「あたし以外の女の人が―――隣にいるのなんか、許せるわけないじゃん!」
「じゃあ、何で―――」
「でも、あたしより美人だし―――あたしよりも西門さんに似合ってるんだもん」
涙があとからあとから溢れてくる。
あたしの腕を掴んでいた西門さんの手が緩み、ふわりと頭を撫でられた。
「馬鹿なやつ。何気にしてんだよ」
「気に、するよ。あたしじゃ、西門さんの隣にいても絵にならないもん」
あたしの言葉に、西門さんが溜め息をつく。
「―――それでか。ったく・・・・・。くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
「くだらなくなんかない」
「くだらねえよ。じゃあ言うけどな、お前がずっと俺から離れて歩いてるとき、あのナンパ野郎に声かけられてるとき、お前が俺の隣は嫌だって言ったとき、俺がどんだけショック受けたと思ってるんだよ」
「え・・・・・」
「・・・・・お前を怒らせるようなこと何かしたのかとか、俺の女に近づきやがってとか、お前に嫌われちまったのかとか―――そんなこと俺が考えてたってこと、しらねえだろうが」
「そんなこと・・・・・・」
考えてたの?
照れくさそうにぷいと横を向いてしまった西門さんの頬は、かすかに赤く染まっていて・・・・・。
「―――周りの目なんか、気にするな。俺は、お前が横にいてくれればいい。お前に、横にいて欲しい。お前じゃなきゃ、だめなんだよ」
「西門さん・・・・・」
「だから・・・・・お前の隣も、俺のためにとっとけ。俺はその場所を、誰にも譲るつもりはねえからな」
そう言って再びあたしの手を取ると、ホールへと歩き出したのだった。
西門さんの隣にはあたし。
あたしの隣には西門さん。
そっと手を繋ぎ。
寄り添うあたしたちの間には、もう何も入り込むことはなかった・・・・・。
fin.
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