道の真ん中で、いきなり平手打ち。
頬が熱を持ち、ピリッとした痛みが走る。
―――なんで?
ただ、歩いていただけだ。
西門さんと―――
目を三角に吊り上げ、つかつかとあたしに歩み寄って来たその女は、ためらいもせずにあたしの頬を打ったのだ。
びっくりして声も出ない。
「このブス!あたしの西門さんと何してんのよ!!」
―――ブス?
そりゃあお世辞にも美人とは言えないかもしれないけど。
何で見も知らないような女にそんなこと言われなきゃなんないわけ?
むっとして口を開こうとしたあたしの前に、すっと手が差し出される。
見上げると、西門さんがあたしにちらりと目配せしていた。
「―――何してんの、あんた」
びくっと女の肩が震える。
西門さんの声は、驚くほど低かった。
「あ、あたしは―――」
「何の権利があって、牧野に手ぇ上げてんの」
「だ、だって―――」
「もう、あんたとは会わないから、連絡してくんなよ」
そう言うと、西門さんはあたしの手を掴み、さっさと歩きだした。
女が慌てて追いかけてくる。
「ま、待って!そんな女と付き合うの?あたしと別れるっていうの?」
「―――俺はあんたと付き合ったつもりはねえけど」
さっと青ざめる女。
そんな女に冷たい視線を投げ。
「あんたみたいな女、牧野と同じ土俵に立てるわけねえだろ」
とどめのように言い放ち、女に背を向ける。
「―――いいの?あれ」
「いいの。てか、お前に手を上げる奴許せるわけねえだろ」
すっと掌が頬に添えられる。
その冷たい感触に、火照った頬がピクリと反応する。
「―――ごめん、俺のせいで」
「別に―――気にしてない。言われ慣れてるし。そんなことより―――変に誤解させちゃったんじゃない?」
「何が?」
「彼女、あたしが西門さんと付き合ってると思ったみたいだよ」
「―――俺は、構わないけど」
いつになく、優しい瞳。
どきっとするような甘い声。
「俺と―――付き合ってみない?」
西門さんの声が、まるで夢の中の声みたいに、遠くから聞こえていた―――。
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