「何拗ねてんだよ」
「別に」
美作さんが溜息をつく。
わかってる。
美作さんは悪くない。
あたしが拗ねてるだけだって。
でも。
だって。
これだけは、譲りたくなかったから。
「―――こいよ」
突然美作さんがあたしの手を取り引っ張った。
「な、何よ?」
「いいから来いって」
ずんずんとあたしの手を握ったまま歩いていく美作さん。
無理やり振りほどくのもどうかと思って仕方なくそのまま引っ張られていく。
そして、着いた先は―――
「―――乗って」
「え―――これって・・・・・」
あたしの目の前には、真っ赤な車。
「今日届いたばっかりの、俺の車」
そう言って、美作さんは助手席のドアを開けた。
「―――この車の助手席には、お前しか乗せないから」
「―――気付いてたの?」
「当然。お前はわかりやすいから―――けど、あの車は2人乗りだから仕方ねえだろ?」
「わ、わかってるよ」
雨が急に振り出して。
傘を持っていなかった桜子を家まで送ってやったと言っていた。
それは昨日のこと。
あの車には2人しか乗れないから。
当然桜子は助手席に座ったわけで。
仕方なかったってわかってるけど、いやだった。
だって、助手席は恋人の席。
あたしの―――席だから。
「ま、お前がそんな顔すんのも俺の前だけなら、それはそれでいいけどな」
そう言ってにやりと笑う美作さんが眩しくて。
あたしは火照った頬を両手で覆った―――。
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