***恋心 64 〜総つく〜***



  ちょっとした出来心だったんだけど。

「何怒ってんだよ」

「怒ってなんかないよ」

こんなに怒らせると思ってなくて。

自分でしかけたことなのに、ちょっと焦ってる俺。

「怒ってんじゃねえか。ここんとこずっと、俺のこと避けてんだろうが」

「避けてなんか―――。西門さんの、気のせいだよ」

「だったらこっち見ろよ」

「いや」

即効拒否するあいつにむっとしてその手首を掴み、無理やりこっちを向かせる。

「はっきり言えよ、俺が他の女といたのが気に入らねえんだって」

「そんなこと、思ってないし」

プイと横を向いてしまう牧野。

やきもちを妬かせたくて。

わざと女といるところを見せ付けたのは俺。

なのに、こんな状態になってそれを死ぬほど後悔してる。

俺が見たいのは、こんな顔じゃない。

「―――西門さんが、誰といたって、そんなの関係ない」

牧野の言葉が、刃のように俺の胸に突き刺さる。

「西門さんにとって―――あたしは、単なる友達でしょ」

―――は?

「そんなこと、わかってるから―――」

「お前―――何言ってんの?」

てか、こいつ―――

「わかってるから、あたしのことなんて気にしないで、女の子と遊んでても―――」

「待て、お前、泣いてんの?」

必死に顔を背けようとする牧野の目に、光るものが見えた。

もしかして―――

「俺―――もう、誰とも付き合ってねえんだけど」

その言葉に、牧野がきっとおれを睨みつける。

「うそ!なんでそんなウソつくの、あたしのことからかって―――」

「お前こそ、何でわかんねえんだよ!」

思わず怒鳴りつけてしまう。

牧野の肩が、びくりと震える。

そんな牧野を思い切り抱きしめて。

「俺が、女として見てるのはお前だけだって―――」

「―――え?」

「あんな女、なんとも思ってない。偶然あそこで会っただけ。お前があそこに来るのわかってて―――嫉妬させようと思ったんだよ」

「嫉妬―――あたしを?」

「お前に妬いて欲しかった。俺のこと好きだって、言って欲しかった。俺には―――お前しか見えてない」

「―――嘘」

「じゃないから。ごめん、泣かせるつもりじゃなかった・・・・・」

そっとその顔を両手で包みこみ、間近に見つめる。

涙で潤んだ瞳が俺を見上げて。

「―――信じてもいいの?」

「信じろよ。もう―――お前が傍にいない日なんて、考えられねえんだ」

その瞬間、零れおちる涙。

頬に流れるそれを唇で掬って。

そっとキスをする。

少ししょっぱいキスの味。

だけど生まれて初めて。

一番好きな子と、キスができた―――。







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