「その怪我、どうしたの?」
家に帰った途端、驚いた顔の牧野が俺を迎える。
「―――別に。てか、なんでお前がここに居んの?」
「あ、ちょっと、美作さんのお母さんとお茶の約束してて・・・・・」
「またか」
最近、俺の母親のお気に入りになった牧野はよく家に来る。
一緒にお茶したり、ケーキを作ったり、タイプの違う2人なのに、意外と気が合うようだった。
「そんなことより、その顔の傷!早く手当てしないと」
そう言って俺の手を引こうとする牧野の手を、思わず振り払う。
牧野が、目を見開く。
「―――悪い。けど、大丈夫だから」
ふいと目をそらし、俺は牧野の横を通り過ぎ、自分の部屋へ向かった。
別に、牧野のせいじゃない。
例のごとく人妻とデートしてて。
待ち伏せしてたらしい旦那に見つかって、殴られた。
よくあることだ。
そろそろ潮時だと思ってたし、未練もない。
腹が立っているのはそんなことじゃなかった。
ましてや、牧野に対してでもない。
敢えて言うなら、自分に対して腹を立ててるんだ。
こんな恋をするなんて自分でも信じられなかった。
不毛な恋だ。
どうにもならない。
自分の部屋のドアを開けようとしたその時。
「待って!」
後ろから、牧野の声。
「救急箱、持ってきたから―――手当て、させて」
溜息とともに、自嘲気味な笑いが漏れる。
―――馬鹿な女だ。人の気も知らないで―――
「―――わかった。入れよ」
そうして牧野を部屋に招き入れ。
後ろ手に、部屋の鍵を閉める。
「―――相変わらず、無防備な奴だよな」
「え?」
キョトンとして振り向くあいつを、じっと見つめる。
「美作さん?」
「俺が―――男だってこと、忘れてるだろ」
ゆっくりと、牧野に近付く。
いつもと違う気配にようやく気付いた牧野が、それに合わせて後ずさる。
「―――男の部屋に、のこのこ入ったりして―――後悔するぜ?」
その黒髪に、そっと手を伸ばす。
ピクリと引きつる表情。
「もう―――止められねえからな」
射抜くように見つめて。
俺は、牧野を引き寄せると、その唇を奪った―――。
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