***恋心 53 〜類つく〜***



  「あ、やっぱりここにいた」

いつもの非常階段に、牧野がやってくる。

「大学の方で、結構探しちゃった。1回、こっちも見に来たんだけど」

「すれ違い?何?俺に用事?」

「うん、あのね、これ―――」

そう言って、牧野がおずおずと俺に紙袋を差し出す。

頬が微かに赤い。

「何?」

受け取りながら聞くと、牧野は俺から目をそらし、うつむいた。

「い、いいから、開けてみて」

「うん・・・・・」

不思議に思いながらも、袋を開く。

中に入っていたのはたくさんのクッキーで・・・・・

「クッキー?手作り?」

「う、うん。アイスボックスクッキーってやつ、初めて作ったんだけど―――。食べてくれる?」

「いいけど―――なんで俺に?」

今日は別に誕生日でもないし。

「―――花沢類に、食べてほしいから」

真っ赤になってそう言う牧野に、俺の胸が高鳴る。

それは、どういう意味?

「―――期待させるようなこと、言うなよ」

そんな気ないくせに。

俺はもう、牧野にとって恋愛対象じゃない。

そんなことわかってるのに、期待しそうになる自分がいる。

「―――いいよ」

囁くような、小さな声。

よく聞こえなくて。

「え?何?聞こえない」

「だ、だから―――期待していいって言ってんの!」

恥ずかしそうに叫ぶ、その顔は真っ赤で―――

俺は、信じられない思いで牧野を見つめた。

「―――マジで・・・・・?」

「そう、言ってるでしょ・・・・・もう、恥ずかしいから何度も言わせないで」

「だって―――いや、でも、なんでクッキー・・・・・?」

「・・・・・花沢類のために、何かしたかったの。でもいつも助けてもらってばっかりで―――何していいかわからなくて・・・・・。あたしにできることないかなって思って、それで―――」

その気持ちが嬉しくて。

俺に伝えようと一生懸命な牧野が可愛くて。

気づいたら、牧野を抱きしめてた。

「―――すげえ嬉しい・・・・・。ありがとう」

「あたしの気持ち・・・・・届いた・・・・・?」

「ん・・・・・すごくうれしい。好きだよ、牧野・・・・・」

「あたしも・・・・・好き、だよ・・・・・」

そっと触れるだけのキスをして。

夢じゃないって確かめるように、再びぎゅっと抱きしめた・・・・・。







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