「あ、やっぱりここにいた」
いつもの非常階段に、牧野がやってくる。
「大学の方で、結構探しちゃった。1回、こっちも見に来たんだけど」
「すれ違い?何?俺に用事?」
「うん、あのね、これ―――」
そう言って、牧野がおずおずと俺に紙袋を差し出す。
頬が微かに赤い。
「何?」
受け取りながら聞くと、牧野は俺から目をそらし、うつむいた。
「い、いいから、開けてみて」
「うん・・・・・」
不思議に思いながらも、袋を開く。
中に入っていたのはたくさんのクッキーで・・・・・
「クッキー?手作り?」
「う、うん。アイスボックスクッキーってやつ、初めて作ったんだけど―――。食べてくれる?」
「いいけど―――なんで俺に?」
今日は別に誕生日でもないし。
「―――花沢類に、食べてほしいから」
真っ赤になってそう言う牧野に、俺の胸が高鳴る。
それは、どういう意味?
「―――期待させるようなこと、言うなよ」
そんな気ないくせに。
俺はもう、牧野にとって恋愛対象じゃない。
そんなことわかってるのに、期待しそうになる自分がいる。
「―――いいよ」
囁くような、小さな声。
よく聞こえなくて。
「え?何?聞こえない」
「だ、だから―――期待していいって言ってんの!」
恥ずかしそうに叫ぶ、その顔は真っ赤で―――
俺は、信じられない思いで牧野を見つめた。
「―――マジで・・・・・?」
「そう、言ってるでしょ・・・・・もう、恥ずかしいから何度も言わせないで」
「だって―――いや、でも、なんでクッキー・・・・・?」
「・・・・・花沢類のために、何かしたかったの。でもいつも助けてもらってばっかりで―――何していいかわからなくて・・・・・。あたしにできることないかなって思って、それで―――」
その気持ちが嬉しくて。
俺に伝えようと一生懸命な牧野が可愛くて。
気づいたら、牧野を抱きしめてた。
「―――すげえ嬉しい・・・・・。ありがとう」
「あたしの気持ち・・・・・届いた・・・・・?」
「ん・・・・・すごくうれしい。好きだよ、牧野・・・・・」
「あたしも・・・・・好き、だよ・・・・・」
そっと触れるだけのキスをして。
夢じゃないって確かめるように、再びぎゅっと抱きしめた・・・・・。
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