***恋心 43 〜総つく〜***



  気づくと、なぜかあたしは西門さんの膝の上に座らされていた。

ムード満点の静かな音楽が流れる店内には、体を寄り添って踊る男女たちが数人。

VIP席になってるレースのヴェールで仕切られた部屋には、あたしと西門さんの2人きり。

「―――何で?」

ようやくそれだけ口にして。

「あほか」

と呆れた口調の西門さんにむっとする。

「どこで引っかかったんだか知らねえけど、たちの悪い男どもに酒飲まされて、車に押し込まれる寸前だったんだぞ、お前」

「―――覚えてない」

確か、会社の人たちと飲んでたはず。

10時前には店を出て―――

そういえば、そのあと取引先の会社の社員とばったり会ったのまでは覚えてる。

同僚らしき男の人数人と一緒だったその人に声を掛けられて―――

すでにアルコールが回っていた状態で、だいぶテンションも上がってたかも―――

「あのな、男と飲むときはもっと用心しろよ!俺や類に連絡すりゃあすぐに飛んでくんのに」

「―――そこまで気が回らなかった。ごめん、助けてくれたの」

そう言って膝の上から慌ててどことするあたしの手を、西門さんがつかむ。

「助けたのかどうかは、わからねえな」

「は?」

「ここに着いた途端、俺に抱きついてキスしてきたの、覚えてないだろうけど」

にやりと笑う西門さんに、あたしは逆に青くなる。

「ウ、ウソ!!」

「マジで。色っぽい声で『帰りたくない』なんて囁かれたら、俺もぐらっとくるよ」

「ちょ、ちょっと待って、あたし全然―――」

覚えてないし!

「まさかお前に誘惑されるとは思ってなかったけど―――」

「してない!」

「俺をその気にさせた責任は、取ってくれるんだろうな、つくしちゃん?」

間近に迫るそのきれいな顔に。

あたしは逃げ道を失ったことを知った・・・・・。







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