***恋心 26 〜あきつく〜***



  軽く眩暈を感じて、あたしは目を閉じてとまった。

その様子を見ていた美作さんが、あたしの方に寄ってくる。

「どうした?具合悪いのか?」

「ううん、なんでもない。ちょっと眩暈がしただけ」

その言葉に、美作さんが顔を顰める。

「眩暈?大丈夫なのかよ?寝不足か?」

「そうかも。昨日の夜もバイトだったから―――。大丈夫、今日は夜のバイトはないから、ちゃんと帰って寝るよ」

「なら、いいけど―――」

心配そうな美作さんに背を向け、また歩き出そうとした時、ふらりとよろけてしまった。

その瞬間、美作さんの腕があたしの腰を支えた。

「―――っと、大丈夫かよ?お前、もう帰った方がいい。俺が送ってくから」

「い、いいよ、大丈夫」

顔が熱くなるのを感じ、あたしは慌てて首を振った。

ダメ、ばれちゃう。

「大丈夫じゃねえだろ?顔だって赤いし、熱が―――」

そう言って美作さんがあたしの額に手を触れようとして―――

反射的に、あたしは美作さんから離れた。

「牧野?」

不思議そうにあたしの顔を覗き込む美作さん。

あたしは真っ直ぐに彼を見ることができなくて。

心臓が、どきどきと騒いでる。

「―――やっぱり送る」

そう言ったかと思うと、美作さんがあたしを横抱きに抱えあげた。

「ちょ―――」

「暴れるな、落とすぞ」

「だ、だって―――」

「―――熱が、あるわけじゃねえよな?」

「あ―――」

「お前の顔が赤い理由、お前の家に着くまでに、じっくり聞かせてもらうから」

そう言ってにやりと笑う美作さんは。

今まででいちばん意地悪で。

今までで一番うれしそうに見えた―――。







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