軽く眩暈を感じて、あたしは目を閉じてとまった。
その様子を見ていた美作さんが、あたしの方に寄ってくる。
「どうした?具合悪いのか?」
「ううん、なんでもない。ちょっと眩暈がしただけ」
その言葉に、美作さんが顔を顰める。
「眩暈?大丈夫なのかよ?寝不足か?」
「そうかも。昨日の夜もバイトだったから―――。大丈夫、今日は夜のバイトはないから、ちゃんと帰って寝るよ」
「なら、いいけど―――」
心配そうな美作さんに背を向け、また歩き出そうとした時、ふらりとよろけてしまった。
その瞬間、美作さんの腕があたしの腰を支えた。
「―――っと、大丈夫かよ?お前、もう帰った方がいい。俺が送ってくから」
「い、いいよ、大丈夫」
顔が熱くなるのを感じ、あたしは慌てて首を振った。
ダメ、ばれちゃう。
「大丈夫じゃねえだろ?顔だって赤いし、熱が―――」
そう言って美作さんがあたしの額に手を触れようとして―――
反射的に、あたしは美作さんから離れた。
「牧野?」
不思議そうにあたしの顔を覗き込む美作さん。
あたしは真っ直ぐに彼を見ることができなくて。
心臓が、どきどきと騒いでる。
「―――やっぱり送る」
そう言ったかと思うと、美作さんがあたしを横抱きに抱えあげた。
「ちょ―――」
「暴れるな、落とすぞ」
「だ、だって―――」
「―――熱が、あるわけじゃねえよな?」
「あ―――」
「お前の顔が赤い理由、お前の家に着くまでに、じっくり聞かせてもらうから」
そう言ってにやりと笑う美作さんは。
今まででいちばん意地悪で。
今までで一番うれしそうに見えた―――。
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