***恋心 25 〜総つく〜***



  どうしても、言ってほしい言葉があって。

でも、言葉にしてそれを強請ることはできなくて。

彼の背中を見つめることしかできないあたし。

このまま帰ってしまったら、どんな顔するだろう。

気付くかな。

それとも―――

あたしは、ぴたりと足を止めた。

どんどん遠ざかっていく彼の背中。

このまま、気付かないのかもしれない。

あたしとデートしてたことさえ忘れてしまうかも―――

そんな不安に背筋がぞっとする。

彼が、角を曲がる。

このまま、戻ってこない・・・・・?

そんな悪夢が頭をよぎり、それでも足を踏み出せずにいた、その時―――

今姿を消したその角から、慌てた様子の西門さんが戻ってきた・・・・・。

「何してんだよ!?」

「あ―――ごめん、あたし―――」

「お前―――今日は変だぞ?全然しゃべんねえし。なんかあったんじゃねえのか?」

「―――何も」

「―――じゃあなんでさっきから俺と目を合わせようとしない?」

「そんなの―――気のせい―――」

西門さんの顔を見上げようとしたその瞬間、西門さんがあたしの両肩を掴んだ。

「そんな言葉で、俺が納得すると思ってんのか?―――言っとくけど、俺はお前と別れるつもりはねえからな」

思いもかけない西門さんの言葉に、あたしは呆気にとられ―――思わずその顔をじっと見つめた。

「―――は?」

「俺が知らないと思って、ごまかそうとしても無駄だぜ。お前、ここんとこ毎日類の奴と会ってるだろ」

「え―――何で知って―――」

「んなことどうでもいいんだよ!一体どういう了見で、彼氏の俺を差し置いて類と毎日こそこそ会ってんだよ?言っとくが、俺は浮気なんて一切認めねえからな」

その俺様な発言に。

さすがのあたしもカチンとくる。

だって―――

「じゃあ、西門さんはどうなの?」

「は?」

「知ってるんだよ。西門さんこそあたしに隠れて、こそこそきれいな女の人と会ってるじゃん」

1度だけじゃない。

会社の近くの喫茶店で会ってるところを何度も見てる。

とてもきれいな、年上の女性・・・・・。

「もしかして―――瑞希さんのことか?着物着てる?」

「そうだよ。女優さんみたいにきれいな―――」

「あれは、着付けの先生だよ」

「―――は?着付け?」

「そう。うちにきてる門下生を何人か、頼んでるんだ。今までずっと頼んでたばあちゃんがぶっ倒れて、急きょ頼むことになったからここ数日、何度か会って話してた」

淡々と説明されて。

でも、すぐには納得できない。

だって、すごくきれいで―――西門さんだって、見惚れてた。

だから、あたしは、自信がなくて―――

「それより、お前はなんなんだよ?なんで類と会ってた?」

「それは―――いろいろ相談してて―――」

「相談?なんの?俺にはできなくて類にはできるわけ?」

「だって、そんなの―――」

西門さんのことなんだから、当然だ。

西門さんの気持ちがわからなくて。

自分に自信がなくて。

ずっと相談してた。

「―――西門さんと、ずっと付き合っててもいいの?」

「はあ?何言って―――」

「あたし―――自信ない」

思わず零れる言葉。

きっと、あたしじゃなくてもいい。

西門さんにはもっとお似合いの―――

「ふざけんなよ」

西門さの手が、あたしの手首を掴む。

「俺と別れて―――そんで類と付き合うわけ?」

「だから、なんで―――類は関係ないよ」

「納得できるか。つきあってる俺といるよりも類との時間のが多い。それでも今まで黙ってたのは、それが友情だって自分に言い聞かせてたからだ。お前のこと、信じてたから―――」

「あたしは―――」

「類にも、他の男にも、お前は渡さない」

「勝手なこと言わないでよ!あたしのことなんて―――そんなに好きでもないくせに」

言ってしまった言葉に、西門さんが顔を顰める。

「何言ってんだ、お前―――。好きでもない奴と、どうして付き合うんだよ」

「だって」

好きだって言われたことなんて、一度もない。

何となく付き合い始めて。

「お前―――馬鹿じゃねえの」

ふっと、西門さんの表情が崩れる。

「そんな泣きそうな顔して―――無理してんじゃねえよ」

「無理なんか―――」

「俺のことが好きなくせに」

その言葉に、ぐっと詰まる。

だって否定なんかできない。

好きだから。

でも―――素直にもなれない。

「ったく―――馬鹿だな」

西門さんの手が、あたしの頬を撫でる。

「言いたいことは、ちゃんと言えよ。そしたら俺が―――いくらでも答えてやる」

「―――じゃあ、言ってよ。ちゃんと―――西門さんの気持ち、教えてよ」

「―――わかった。なら、覚悟しとけよ」

「え―――」

「好きだよ、お前が」

呆気なく彼の口から零れた言葉が、まっすぐにあたしの胸に染み込んでいく。

涙が、零れ落ちた。

今まで堪えていたものが、溢れ出すみたいに。

「覚悟しろよ。俺にこんなこと言わせたからには―――浮気なんて、絶対許さねえからな」

「あんたに言われたくない―――てか、するわけ、ない」

ぎゅうっと、彼の腰に抱きつくと。

ふわりと、抱きしめられて。

「お前を捕まえておけるなら―――いくらでも言ってやる」

そう耳元に囁いて。

唇が触れるくらいの距離で。

ずっと欲しかった言葉を、あたしだけに―――

「好きだよ・・・・・」







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