***恋心 22 〜つかつく〜***



  離れていると不安で。

その不安に押しつぶされそうにある時がある。

寂しさを紛らわそうとして、バイトに明け暮れる日々。

だけど、ふとした瞬間に。

たとえば、家に帰る道を1人で歩いているときに。

やっぱり頭に思い浮かんでしまうのはあいつのことで―――

ここに残るって決めたのはあたしなのに。

気付いたら、頬を涙が伝ってる。

「―――もう、顔忘れちゃうよ」

忘れるはずない。

「声だって、忘れちゃうんだから」

ずっと耳に残ってる。

「いい男は他にもいるんだから」

でも、あいつ以上にいい男なんて、あたしは知らない。

「早く―――帰ってきなさいよ、馬鹿」


「バカに馬鹿って言われたかねえぞ」

後ろから抱き締められて。

忘れるはずのないそのぬくもりに、涙が溢れ出す。

「―――あんたほど馬鹿じゃないわよ」

「その馬鹿を―――待ってたんだろ?」

耳元に響く低音が、あたしの胸を揺さぶる。

「これ以上―――もう待てないんだから」

「だから―――攫いにきた。他の奴に、先越される前に―――」

「誰のことよ。あたしのこと攫いに来るなんて―――あんたしかいないじゃない」

向き合って、見つめあう。

潤む瞳に映るあいつは、切なげにあたしを見つめてて。

何も言わずに唇を重ねた。

言葉がなくても、思いが伝わってくる。

―――ずっと、会いたかった―――







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