キス未遂事件〜コナン編〜



 「そろそろ帰ってくる頃かな」
 コナンは毛利探偵事務所のソファで、1人呟いた。小五郎は椅子の上で、ガーガーといびきをかいて
眠っている。
 ったくしょーがね―な―、眠りの小五郎はよ、などと思いつつ、コナンは窓際に歩いて行くと、外を
眺めた。外はもう日が暮れてきていて、通りを行き交う車のライトがきれいだった。
 そろそろ、蘭が部活を終えて帰ってくるはずだった。
 ボーっと下の通りを眺めていると、見覚えのある車が前の通りに寄って止まった。
―――あれは、確か・・・
 車の運転席のドアを開けて出来たのは、新出智明だった。
―――まさか・・・
 新出が車の前を回って、助手席のドアを開けた。そこから出てきたのは蘭だった。
―――なんで、新出と?
 コナンの胸に鈍い痛みが走る。
 蘭が、新出にぺこんと頭を下げる。お礼を言っているようだった。通りを行き交う車の音が煩くて、
話し声までは聞こえないが、蘭は何やら恥ずかしそうに頬を染めている。コナンはイライラと2人を見
ていた。新出が、ふと階段を見て何事か言った。そして、蘭に向かって何か言う。と、蘭が真っ赤にな
って目を見開き、手をぶんぶんと振った。
―――何の話をしてるんだ?何で赤くなってんだよ!?
 コナンは、我慢が出来なくなって叫んだ。
「蘭ね―ちゃん!!」
 2人が声に気付いて、2階の事務所を見上げた。
「コナン君!ただいま!」
 蘭が、のんきにニコニコ笑って言う。
 新出が、
「やあ」
 と言って、手を上げる。
 コナンは、チロッと新出を睨み、パッと後ろを向くと、急いで事務所を出て蘭の元へ向かった。
「蘭ね―ちゃん、どうしたの?」
 蘭のところへ駆け寄ると、コナンは新出と蘭の間に入り込むようにして立った。
「あ、あのね、ちょっと足、捻挫しちゃって・・・。新出先生のとこで見てもらってたのよ。そしたら
、もう診療時間も終わりだからって、車で送ってくださったの」
「捻挫?大丈夫?」
「うん。そんな大したことはないの」
 と、蘭が笑って言うと、新出が
「馬鹿にしちゃいけませんよ。無理をして長引いちゃいけないからね」
 と、心配そうに言う。
「ここの階段、3階まで上がるのはちょっときついでしょう。おぶって行こうかと思ったんですが・・
・」
「そんな!とんでもないです」
 蘭が赤くなって首を振る。
―――なるほど、さっき赤くなっていたのはそういうことか。それにしても・・・
「蘭ね―ちゃん、僕が肩を貸すよ」
「コナン君じゃ、ちょっと大変だと思うよ」
 新出が笑って言った。2人の間に、なんとなく緊張が走る。
「そうですよね。コナン君じゃ、潰れちゃいそう・・・」
 そんな空気に気付かず、蘭が呟く。
「僕が肩を貸しますよ。おぶるわけじゃないから、いいでしょう?」
 新出が、蘭に微笑みながら言うと、蘭も遠慮しながらも、納得したようだった。
 面白くないのはコナンのほうだった。
 蘭が新出の肩につかまり、新出が蘭の体を支えるように腰に手を回し、階段を上って行くのを拳を握
り締めながら、睨んでいた。
―――くそっ、俺の体がこんなじゃなかったら―――!!
「―――ありがとうございます、先生」
「いえ、これ位、気にしないでください。それじゃあ、僕はこれで―――」
「あ、あの、少し上がっていきませんか?コーヒーくらい、入れられますから・・・」
 蘭が言うのを聞いて、コナンはジト目で蘭を睨んだ。蘭はただ単に、送ってもらったお礼として言っ
ているのだろうが・・・。
 新出は、蘭の言葉に一瞬うれしそうな顔をしたが、すぐに残念そうに、
「すいません。実は、これから人と会う約束をしているので、せっかくなんですが・・・」
 と言った。
 コナンはホッと息をついた。
「あ、そうなんですが。わたしこそ、すいません。わざわざ送って頂いて・・・。今度、改めてお礼し
ますから」
「気を使わないでください。当然のことをしたまでですから」
 と言って、新出はニッコリ笑って蘭を見た。そして、ちょっと視線を落としてコナンを見た。その目
には、微かだが挑戦的な輝きが見えたような気がした。
 自分の部屋へ行き着替えて出てきた蘭を、廊下で待っていたコナンが見上げる。
「?どしたの?コナン君」
 不機嫌な顔をしているコナンを、蘭が不思議そうに見る。
「-――なんか、ずいぶんうれしそうだね、蘭ね―ちゃん」
「え?そう?そんなことないけど・・・」
「新出先生に送ってもらって、うれしかった?」
「え?別に・・・新出先生、優しいから、たまに部活終わって1人で帰ってるとき、途中で会うと送っ
てくれるのよ。だから、なんか悪いなあとは思ってるけど―――」
「ちょ、ちょっと待って!」
 コナンは、慌てて蘭の言葉を遮った。
「ん?」
「あ、新出先生に送ってもらうのって・・・今日だけじゃなかったの?」
「うん。帰る時、新出先生のお宅の前通るでしょ?その時にね、時々先生車を磨いてたりするの。で、
挨拶して・・・『もう暗いから送りましょう』って・・・いつも悪いから断ろうと思うんだけど・・・
。あの笑顔で言われると、断りきれなくて・・・」
 と、ちょっと困ったように笑って、蘭は言った。
―――んだよそれ!んな時間に車磨いてるって!?ゼッテ―待ち伏せしてるに決まってんじゃねーか!
何でそんくらいわかんね―んだよ、この女は・・・。
 怒りのあまり黙ったまま下を向いてしまうと、蘭は何を勘違いしたのか、
「あ・・・コナン君、もしかしておなかすいた?ゴメンね、今すぐ作るから」
 と言って、捻挫した足を庇いながら、台所へ向かって行った。
 その様子を見て、コナンははっと我に返った。
―――そうだった。蘭の奴、捻挫してたんだっけ・・・。今日送ってもらったのは仕方ない。としても
、それまでのことは・・・。コナンとしては、新出にも頭に来ていたのだが、それ以上に、無防備すぎ
る蘭に腹を立てていたのだ。なんだってそんなにあの先生のことを信用しちまうんだよ?あの人のあの
目・・・あれは、絶対に蘭に気があるのだ。車を磨く振りをして蘭を待ち伏せしているのを見ても、そ
れは明らかなのに・・・!
 ムカムカと腹を立てながら、コナンは居間へ向かった。その後も、全く様子の変わらない蘭にイライ
ラしながら、コナンは寝るまでの間、どうにか平静を保とうとしていた。


 夜、コナンはなかなか眠れずに悶々としていた。夜中の12時になろうとした頃、コナンはトイレにた
った。
「は―――、今日、俺眠れっかな――」
 1人ぶつぶつ呟きながら用を足し、部屋へ戻ろうとした時―――
『Pulululu・・・・』
 居間で電話が鳴った。
「―――なんだ?こんな時間に」
 蘭やおっちゃんが起きちまう!と、急いで受話器を取るコナン。
「もしもし、毛利です」
「―――あ、あの、夜分遅くすいません」
 聞こえてきたのは、若い男の声だった。コナンは、なんとなく胸騒ぎを覚えた。
「―――どちら様?」
「あの、僕、春日っていいます。あの―――蘭さん、いますか?」
「―――蘭ね―ちゃんならもう寝ちゃってるよ。お兄さん、蘭ね―ちゃんの友達?」
 子供らしく聞こえるようにいいながら、コナンは考えた。
―――春日?同じクラスの奴じゃねーな・・・。
「え、うん。そっか、寝ちゃったんだ・・・。やっぱり、忘れちゃったんだな」
 ぼそぼそと呟く声。
「何か、約束してたの?」
「あ、いや・・・」
「何か伝言があったら、僕、伝えておいてあげるよ」
 コナンの、いかにも子供らしい言い方に、相手はすっかり安心したようだった。
「そうかい?じゃあ・・・明日の朝、米花公園で待ってるって、伝えておいてくれるかな」
「米花公園ね。分かった―――それだけでいいの?」
「うん。それで、分かると思うから・・・じゃあ、こんな時間に悪かったね」
 ホントだぜ。常識のない奴だな。
「ううん。じゃあ、おやすみなさい」
 愛想よく言って、コナンは電話を切った。―――表情は一変して険しくなる。
 胸がムカムカする。コナンの―――新一の中のどす黒い感情が、胸の中に広がり始めていた。
―――なんだよ?春日って。なんなんだよ!?
 相手は、蘭と何か約束しているような口ぶりだった。それを、蘭が忘れた・・・。
 一体、どういう関係なんだ?まさか、付き合ってるとか・・・?まさか!!
 コナンは、ぶんぶんと首を振った。
 そんなはずない!そんなはず―――でも、蘭が春日って奴と何か約束をしていたのは本当のようだ・
・・何の?何の約束をしたっていうんだ?
 新出のことといい、春日って奴のことといい・・・蘭は本当にオレを待ってくれているのだろうか?
それとも、もう待ちくたびれて、他の男と付き合おうとしているのだろうか・・・?考えたくない、そ
んなこと・・・でも・・・もし、蘭が他の男と付き合ってしまったら・・・俺以外の誰かを好きになっ
てしまったら・・・俺はどうしたらいいんだ?一体、どこに帰ったらいいんだ?蘭・・・!
 コナンはのろのろと、小五郎の部屋へ戻ろうとして・・・ふと気が変わり、蘭の部屋へ向かった。
 静かにドアを開ける。中はもう真っ暗だった。蘭の穏やかな寝息が聞こえる。ベッドの側まで行き、
蘭の寝顔を覗き込む。
「蘭・・・」
 そっと呼んでみる。もちろん、熟睡している蘭がそのくらいで起きるはずもない。
 長いまつげ、きれいな鼻筋、軽く開けられた桜色の唇・・・。どれをとっても愛しいものばかりだ。
普段、一緒に暮らしていても触れられない・・・触れないようにしていた。一度触れてしまえば、押さ
えがきかなくなってしまいそうで・・・。
 だが、今日のコナンは、いつもと違っていた。胸に広がるどす黒い感情で、自分を見失いそうになっ
ていた。
 そっと、蘭の顔に自分の顔を近付ける―――。もう少しで唇が重なる、というとき・・・。
「お取り込み中、失礼」
 と、突然後ろから声をかけられ、コナンは弾かれた様に振り向いた。そこに立っていたのは、白いマ
ントに白いシルクハット、モノクルをかけ、不敵な笑みを浮かべる男・・・。
「か、怪盗キッド!?」
「こんばんは、探偵君」
 キッドは、ニッと笑ってみせた。
「な・・・なんでオメエがここに?」
「ちょいとヤボ用」
「ヤボ用って・・・まさか・・・蘭に会いに・・・?」
 コナンの顔から血の気が引いていく。
 それを見て、キッドは楽しそうにクスクス笑った。
「さあな?ところで、きみはここで何してるのかな?」
「そ、それは・・・」
 聞かれて、思わず詰まるコナン。
「・・・な―んか、不埒な事、考えてたんじゃないのかなァ?」
 ニヤニヤ笑いながら、ジト目でコナンを見ているキッド。
「・・・オメエには関係ね―だろ。で?そのヤボ用ってなんだよ?さっさと済まして、こっから出てけ
よ」
「こえ―なァ。まあ、そう焦らすなって。せっかく天使のかわいい寝顔を眺めようと思ってたのに、と
んだボディガードがいたもんだな」
 コナンの眉がキュッとつり上がった。
「・・・てめえ、ここに来たの、初めてじゃねーな」
「お、さっすが名探偵。よく分かったな」
「ふざけんな!一体何しに来てやがる!」
「何って、決まってんじゃん」
 と言ってニッと笑うと、スッとベッドに近づき、コナンが動く前にすばやく蘭の胸のあたりに手を伸
ばし―――
「!―――おい!!」
 焦るコナンの目の前で、その手は蘭の胸を通り過ぎ、ベッドと壁の間の隙間へ入り込んだ。
「おいっ何を―――」
 コナンが止めようとするのを全く無視して、キッドはその手をひょい、とあげて見せた。そこに握ら
れていたのは、青く輝く小さなもの・・・
「それは―――!」
「3日前の獲物さ。ちょっと置かせてもらってた」
「置かせてって―――なんでこんなとこに・・・」
 呆気に取られて、コナンが言った。キッドは悪びれた様子もなく肩を竦め、
「灯台下暗しって言うだろ?誰もあの有名な眠りの小五郎の家にこんなものが隠されているとは思わな
い。だろ?」
「そりゃ・・・。けど、もし蘭が気付いたら―――」
「その時はその時。でも、彼女一度寝たら起きないタイプだろ?この家の中でも、1番安全だと思った
んだけど?」
「・・・・・」
 キッドの言葉に、コナンも納得せざるを得ない。男2人、自分のすぐ側で話をしているというのに、
蘭は一向に起きる気配がなかった。
 キッドは楽しそうにクスクス笑った。
「かわいいよなあ、彼女。ここに来る度にその天使みたいな寝顔に悪戯心が刺激されんだけど・・・オ
メエのことを考えて我慢してんだぜ」
「それはどうも・・・って、ここに来る度、だと?オメエ・・・一体、何回目だ?ここにくんの」
「さあ。ここ半年くらい、利用させてもらってっから・・・4,5回は来てるかなあ?」
「ぬけぬけと・・・もうゼッテ―、来るんじゃねーぞ!」
 コナンの射るような視線をさらりと受け流し、
「ま、努力してやるよ。んなことより、もっと心配してることがあんじゃねーの?」
「な、なんのことだ・・・」
 コナンの顔に、動揺の色が走った。
「さあな。けど、心配することはないんじゃねェ?確かに彼女は魅力的で、周りの男はほっとかね―だ
ろうけど、彼女の相手は決まってんだろ?」
「決まってる・・・?」
「ああ。この間ここへ来たとき、寝言で言ってたぜ。『新一』ってな・・・。すごく幸せそうな顔して
さ。良い夢だったんだろうな」
 と言って、キッドはウィンクして見せた。コナンの顔がパッと赤くなる。その顔を見て、キッドはま
たクスクスと笑った。
「彼女のことになると、ポーカーフェイスが崩れんだな」
「っせー!いつまでここにいる気だよ?ここから警察に電話したって良いんだぜ」
「そいつは遠慮しとくよ。なんかオメエ、元気なかったみて―だから、つい気になっちまってよ。心配
事は早く取り除いといたほうがいいぜ。―――じゃな!」
 そう言って、キッドは、サッとマントを翻した。と、
 ボンッ
 という音とともにキッドの姿は、陰も形もなく消え去っていた。
「・・・うーん・・・何ィ・・・?」
 さすがにその音に気付いた蘭が、目をこすりながらむくっと起き上がった。
 ―――あのヤロオ・・・わざとやりやがったな・・・
「あれ?・・・コナン君?どうしたの?」
 蘭がコナンを見て、目をぱちくりさせる。
「あ、あの・・・な、なんか物音がしたみたいだったから、様子見に・・・」
 あたふたと説明するコナンを、不思議そうな顔で見つめる蘭。まだ完全に目が覚めていないらしく、
ちょっとボーっとしている。
「・・・ふーん?そう・・・あれ?窓・・・わたし、開けっ放しにしてたかな・・・」
 開け放たれたままの窓から風が吹き込んできていた。
「あ、僕、閉めとくよ・・・」
 コナンは、慌てて窓を閉めに行った。ふと、外を見ると、白いハンググライダ―が遠ざかって行くの
が見えた・・・。
「コナン君?どうかした?」
「あ、いや・・・」
 窓を閉めながら、キッドの言葉を思い出す。“心配事は、早く取り除いといたほうがいいぜ”―――
「・・・ねェ、蘭ね―ちゃん」
 コナンは、蘭に背中を向けたまま、口を開いた。
「ん?なあに?」
「―――春日って、誰?」
「春日?」
 蘭はキョトンとして聞き返す。
 ―――まだ寝ぼけてんのか?それとも―――
「さっき、電話かかってきたよ。―――明日の朝、米花公園で待ってるって―――」
「米花・・・公園・・・?」
 相変わらず、蘭はキョトンとしている。
 ―――ホントに知らないのか?」
 コナンは、やっと振り向いて蘭の顔を見た。
「何か、約束してたんじゃないの?そんな口ぶりだったよ。『もう寝ちゃった』って言ったら、『やっ
ぱり忘れちゃったんだ』って・・」
 蘭は首をひねって、一生懸命考えているようだった。
 ―――この反応は・・・ホントに知らないくせえな・・・。
「―――あ、もしかして・・・」
 そう言って蘭はベッドから降りると、机の上においてある鞄に手を伸ばした。
「まだ読んでなかったけど・・・」
 鞄を開け、ごそごそと中を探って、取り出したのは数通の手紙・・・。
 それを見て、コナンは目を丸くした。
「これ・・・」
 蘭はちょっと困ったように笑うと、コナンを見て言った。
「時々ね、下駄箱に入ってるの・・・。こういう手紙」
 ―――って、それってラブレターじゃねーか!!こいつ・・・そんなにもてんのか?
 コナンは、内心物凄く焦っていた。
「・・・春日君って、今朝、教室の外にいて、わたしにこれ渡してった人じゃないかなあ。違うクラス
だから、名前思い出せなくって・・・。前に、園子が格好良いって言ってたことがあるから、顔は覚え
てたんだけど・・・」
 と言いながら、手紙の束の中から、1通の手紙を取り出した。薄い水色の封筒の封を切り、中からや
はり薄い水色の便箋を出して広げる。
「―――あ、やっぱりそうだ。名前、書いてある。―――やだ、”今日、5時に米花公園で”って・・
・わたし、読んでなかったから行かなかったわよ」
 コナンは、体から一気に力が抜けていくのを感じて、肩を落とした。
 ―――なんだ・・・別に、約束してたわけじゃね―のか・・・。向こうが勝手に待ってただけ・・・。
「春日君、きっと待ってたのよね。悪いことしちゃった・・・」
「気にすることないよ。手紙渡した、その日を指定するのが悪いんだから。普通、次の日とかにするで
しょ?」
 と、コナンが冷静に言うと、蘭はちょっと笑顔を作った。
「そうね・・・。でも、一応謝らなきゃね。明日の朝、米花公園にいるのよね」
「うん。―――行くの?」
 ちょっと、不満そうな顔をした。
「うん。ちゃんと会って話をしなきゃ、相手に失礼でしょ?」
 ―――ったく、妙に生真面目なんだからなァ。ま、朝なら相手が変なことする心配もねーか・・・。
この様子じゃ、付き合うつもりとかはなさそうだし・・・。
 1つ胸のつかえが取れ、安心したコナンは、もう1つの胸のつかえを取るべく、蘭の顔を見た。
「ねェ、蘭ね―ちゃん」
「ん?」
「あのさ・・・新出先生のこと、どう思ってるの?」
「え?」
 蘭は大きな目をぱちくりさせて首を傾げた。
「新出先生?」
「うん。―――なんかさ、恋人同士みたいじゃない。車で送ってもらったりしてさ」
 とコナンが言うと、蘭は一瞬ビックリしたように目を見開いてから、ぷっと吹き出した。
「やーだ、コナンくんてば。新出先生に失礼だよ、そんなの。新出先生は大人だし、素敵な人だけど・
・・わたしにはもったいないよ」
「そう?」
「うん。―――あんなお兄さんがいたらいいなあとは思うけど。先生もわたしのこと、妹みたいに思っ
てくれてるんじゃないかしら」
 と言って、無邪気にニコニコ笑っている蘭。
 コナンは溜息をつくと、ジト目で蘭を見て言った。
「蘭ね―ちゃんって・・・ホンットに鈍感だよねェ」
「え?な、何で?どういう意味?」
 コナンに思いがけない突っ込みを入れられ、蘭はオロオロしている。
「・・・なんでもないよ。それより、お兄さんみたいだからって毎回車で送ってもらったりするのはや
めたほうがいいと思うよ」
 と言うと、蘭はちょっと笑って、
「そうだね。やっぱ悪いもんね。・・・今度からは断ろうと思ってたんだ。園子にもこないだ言われち
ゃったし・・・」
 ―――園子も知ってんのか。あいつは当然気付いてるんだろうな。・・・元の姿に戻ったら、いやっ
てほどからかわれそうだ・・・。
 コナンはその時のことを考え、また溜息をついた。
「コナン君、いろいろ心配してくれてありがとう。―――でも、こんな時間まで起きてて大丈夫?明日
学校でしょ?もう寝なきゃ」
「う、うん。そうだね。じゃあ、僕行くよ・・・」
 引きつった笑いを浮かべつつ、コナンは部屋を出ようとドアを開けた。
「あ、待って、コナン君」
 蘭が後ろから声をかけてきた。
「?何?」
 コナンが振り向くと、蘭が近づいて来て、コナンと目線を合わせて身を屈めた。
「お休み、また明日ね」
 と言ってニッコリ笑うと、コナンの頬に軽くチュッとキスをしたのだった・・・。
「じゃあね」
 目の前でドアが閉められても、コナンはしばらく呆然とその場に突っ立っていた。やがて、徐々に頭
に血が上り・・・。まさに、ゆでだこ状態・・・。ついさっき、蘭の唇を奪おうとしていたとは思えな
いほどの狼狽振りだった。
 そして、ふと気付くと足元に小さな紙切れが・・・
「?」
 拾い上げて、裏を見ると・・・
「―――!」
 それには、人をなめたようなキッドの似顔絵とともに、こんなメッセージが・・・
 ―――せっかくのキスのチャンスを奪ってしまって申し訳ない。今度は成功することを祈ってるよ。
                                    ―――快盗キッド
 ・・・あのヤロオ・・・


 その後、コナンが蘭にキスすることが出来たかどうか・・・それはまた、別の話・・・





                                          fin



 ホントはもっとダークな話になるはずだったんですけど・・・なぜかこんなのになりました。
 
そして、個人的趣味でキッドが登場しています。“コナン編”の次は、“智明編”かなあ?

まだ決めてないですけど・・・。そのうち書きます。