きみといたいから



 「プール行かない?」
 と、蘭から電話があったのは昨日のこと。もう夏休みも終わろうという頃だった。
 快斗はもちろん2つ返事でO.K.そして、当然新一も行くことになっている。この夏休み中、海やプー
ルに行く話は何度もあったのに、なぜかいつも新一が事件で呼び出され、蘭と快斗2人で行くことは新
一が許さないので結局3人とも、この夏1度も泳いでいないのだった。もう今年は諦めようと思ってい
たときに蘭から電話があったのだ。さすがに一度も海やプールに行けないことに蘭が切れて、新一を説
得したらしい。
 そして3人で行った先は、流れるプールや波のプール、ウォータースライダーがある大きな室内プー
ルだった。
 快斗が待ち合わせ場所に着いたときには蘭と新一はすでに着いていた。
「おはよう、快斗くん」
 蘭が、満面の笑みで迎えてくれる。」
「おはよ!蘭。よお、新一。なんだよ?不機嫌そうなツラして」
 新一はなぜか不機嫌な顔で突っ立っていた。
「っせーな・・・」
「新一!ゴメンね、快斗くん。新一って昔から、プールとか海、あんまり好きじゃないみたいで・・・」
「は?そーなの?」
「うん。その割にわたしが友達同士で行ったりすると、“どうして俺も誘わなかったんだ!!”って怒
るのよ」
 不思議そうに言う蘭を、新一は横目でチロッと睨む。それを見て、快斗はピンと来てしまった。
「ハーン・・・。新一、心狭いぜ」
 と言ってにやりと笑うと、新一は溜息をつき、
「オメーも今日、行きゃあ分かるよ」
 と言ったのだった。


 プールにつき、蘭と分かれて更衣室に入る。そこでなぜか、いそいそと着替える新一。
「?何急いでんだよ、新一」
「バーロ、蘭よりも先に出て待ってないとダメなんだよ!」
「って・・・。オメエ、独占よく強すぎだぜ。幾ら蘭がよくナンパされっからって、そこまで神経質に
なんなくってもよー」
 快斗が呆れ気味に言うと、新一はまた溜息をつき、快斗をジト目で睨んだ。
「そのセリフ、後で同じことが言えるかどうか楽しみにしてるぜ。―――さ、俺もう行くぜ」
「おい、待てよ―――」
 さっさと出て行こうとする新一に続いて、快斗も慌ててその場を後にしようとしたが・・・
「―――ちょっとスイマセン!」
 と、突然後ろから声をかけられた。2人が振り向くと、中学生くらいの男がオロオロした様子でこち
らを見ていた。
「何?」
 と快斗が聞くと、その男は困り果てたように、
「その・・・コンタクト落としちゃって・・・一緒に探してもらえませんか?」
 と言った。
「コンタクトォ?」
 新一があからさまにいやそうな顔をする。
「はい。ここで外して、しまおうと思ったら落としちゃって・・・。お願いします!彼女が待ってるん
です。待たされるのが大嫌いな子で・・・」
 と、泣きそうな顔をする。
 そんなの知るかよ、と新一は言いかけたが、それよりも早く快斗がそれを探し始めた。
「新一も探せよ。かわいそ―じゃん」
「あ、ありがとうございます!」
 男も一緒にしゃがんで探し出す。新一は、もう一度深い溜息をつき、仕方なくその場にしゃがんで探
し始めたのだった。


 5分後、ようやくコンタクトレンズが見つかり、男は何度も頭を下げお礼を言って出て行った。新一
と快斗も、更衣室を出て行ったが―――
「あれ?蘭のやつ、どこだ?」
 と、快斗がきょろきょろしていると・・・
「―――あれだよ」
 と、新一がうんざりしたように言って指差した方を見ると―――
「なんだ、ありゃ」
 と、快斗は呆気にとられてその光景を見た。
 そこには、確かに蘭がいた。しかしその側には蘭をナンパしている2人組みの男。しかもそれだけで
はなく、まるで順番待ちしているかのように、2人ぐみ、3人組の男たちが蘭の周りに集まっているの
だった。
「だから!早くって言ったんだ!」
 と、新一がいまいましげに言って駆け出した。快斗も慌ててその後を追う。
 ―――まさかあそこまでとは・・・。
 と、快斗は思った。今日の蘭の水着は明るいピンク地にラメが散りばめられたビキニで、肩紐は首の
後ろで、パンツは横で結ぶタイプのちょっと大胆だけれど、スタイルの良い蘭にはぴったりで・・・男
の視線を集めるには充分すぎるほど魅力的だった。
「―――おいこら!!人の女に手ェ出してんじゃねェ!」
 蘭の側へつくなり、周りにいた男どもを引き剥がす。何か言いたそうにしていた男どもも、殺気のこ
もった新一の声と2人の鋭い視線にたじろぎ、すごすごとその場を去っていった・・・。
「新一!快斗くん!ありがとう」
 蘭が嬉しそうに笑って言った。
「遅くなってゴメンな」
 と、快斗が言うと、蘭は首を振って、
「ううん。大丈夫だよ」
 と笑ってくれる。快斗が思わずその笑顔に見惚れていると、
「―――その水着、また園子と一緒に買いに行ったのか?」
 と、まだ不機嫌そうな顔をしたまま、新一が言った。
「うん。ピンクにラメのビキニなんて、ちょっと派手かなあと思ったんだけど、園子が絶対似合うから
って―――変?」
 蘭が、ちょっと恥ずかしそうに言う。
「いや、変じゃねーけどさ・・・」
「スッゲー似合ってるよ、蘭」
 快斗がそう言って、その肩を抱こうと手を伸ばすと―――
 パシッ
 寸前で、新一の手にはじかれてしまった。
「んだよォ、いて―なァ」
「調子にのんじゃねーよ。誰が触っても良いっつったよ!」
「な―んでオメエにいちいち断んなきゃなんね―んだよ」
 と、快斗もむっとして言う。
「蘭は俺の彼女なんだから当たり前だろーが!大体オメーは―――」
 と、噛み付きそうな勢いで新一が快斗に迫ろうとした時、不意に蘭が2人の間に入り、腕を取った。
「ね、行こうよ!せっかく来たんだし。わたし最初は流れるプールに行きたいな」
 まさに天使の微笑。この笑顔で言われれば、2人が嫌と言うはずもなく。
「あ、ああ・・・」
「よし、行こっか」
 と、3人で流れるプールへ向かったのだった。
 3人で泳いでいる間も、蘭は男たちの視線を集めまくっていた。おかげで新一も快斗も鋭い視線を周
りに送りながら泳ぐことに・・・。

「ったくゥ・・・だからプールはいやだったんだ」
 蘭が少し前を浮き輪につかまりながら泳いでいるのを見ながら、新一が言った。
「ま、分かった気はする・・・。しかし、蘭って目立つよなあ。本人、全く自覚ねェけどさ」
「だから大変なんだって。あいつ、無防備すぎだし」
「―――だな」
 2人の気持ちを知ってか知らずか、蘭が2人を振り返って満面の笑みを送る。
 途端に2人のポーカーフェイスが崩れ、顔にしまりがなくなる・・・が、同時に2人とも、
 ―――んな顔、他のやつの前ですんじゃね―よ!!
 と思っていたのだった・・・。


 充分遊び、泳ぎまくった3人は、5時くらいになって帰り支度を始めた。
「なァ、この後どうする?どっかで飯でも食ってく?」
 と、快斗が言うと、新一も頷き、
「そーだな、腹減ったし・・・」
「わたし、何か作ろうか?新一の家で・・・」
 と蘭が言うのを、2人は慌てて制した。
「バーロ、何言ってんだよ。今日くらい休めよ」
「そーだよ、蘭。泳ぎまくって疲れてんだし。たまには外食しよーぜ」
「そ、そう?・・・じゃ、そうしようか」
「おし!決まり。じゃ、どこで―――」
 と、快斗が言いかけたとき、突然どこかで携帯電話の音が鳴り出した。
「この音・・・新一じゃない?」
 と、蘭。その言葉どおり、鳴っていたのは新一の携帯電話だった。
「―――もしもし。あ、警部―――はい・・・」
 新一の顔が、探偵の顔へと変わっていく。それを見て、蘭の顔が一瞬、寂しげに歪む。が、すぐにい
つもの表情に戻った。
「―――はい、分かりました。じゃあ今から行きますので―――はい、では」
 電話を切ると、新一はすまなそうな顔をして蘭を見た。蘭はニッコリ笑うと、
「仕事なんでしょ?新一。気を付けてね」
 と言った。
「ああ、わりい・・・。帰り、大丈夫か?」
「大丈夫よ。快斗くんが一緒だもん」
「そうそう。新一は何も気にせず仕事に行って来いよ。蘭は俺がちゃ―んと家まで送り届けるからさ」
 と、快斗がニヤニヤしながら言うと、新一はムスッとして、
「―――手ェ出すんじゃねーぞ」
 と、低い声で言った。快斗はその言葉にニヤッと笑うと、
「ま、努力してみるよ」
 と軽く言ってのけた。
 いまいち心配は残っているが・・・。あまり遅くなるわけにもいかないので、新一は早々にその場を
後にして、行ってしまったのだった・・・。
「―――さ、俺たちも着替えして帰ろうか」
 快斗は新一に向けたのとは全く違う優しい笑みを蘭に向けて言った。
「うん」
 蘭もつられてニッコリ笑う。
 快斗が更衣室に入ると、もう新一の姿はなくなっていた。
 ―――さすが、素早いな。
 快斗もさっさと着替え、外に出ると出口の側で蘭が出てくるのを待った。
 しばらくして蘭も出てきた。ノースリーブの赤いタンクトップに、白いホットパンツ。その下からは
細くて長い、きれいな足が覗いていて快斗の目をくぎ付けにした。
「お待たせ、快斗くん。行こう」
 ふわりとした笑みに、思わず赤くなる。
「?どうしたの?」
 キョトン、と首を傾げる蘭。
 ―――全く、苦労するよな・・・。少しは自覚持てって・・・。
 脱力しながらも、気を取り直し微笑む快斗。
「いや、なんでもないよ。じゃ、行こうか。―――蘭、何食べたい?」
「ん―・・・なんでも良いよ。快斗くんの好きなもので」
「遠慮すんなよ。俺は魚以外ならオッケーだからさ、好きな物言ってよ」
 蘭はクスッと笑うと、
「魚、ダメなんだよねー、快斗くん」
 と、ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「―――おい、まさか、寿司が食いてーとか言わね―よなあ?」
 と、快斗は顔を引きつらせる。そんな快斗を見て、蘭は思わずぷっと吹き出す。
「アハッ、おかし―快斗くん。大丈夫、そんなこと言わないから・・・。じゃ、私はスパゲティがいい
かなあ」
「ったくゥ・・・O.K!じゃ、イタリアンレストランに行こ」
 2人は自然に手を繋ぎ、歩き出した。


 レストランでオーダーを済ませてから料理が運ばれてくるまでの間、快斗は蘭にマジックを見せてい
た。快斗の手から花やハンカチ、ボールなどがどんどん出て来て、蘭はそのたびに手をたたき嬉しそう
に笑う。
「すごい!さすがだね、快斗くん」
「喜んでもらえた?」
「もちろん!ねェ、いつもそういうもの持ち歩いてるの?」
「うん。ポケットとかに入れとくの習慣になってっからね」
「へえ、すごーい」
 蘭は心底感激しているようだった。快斗はそんな蘭を優しい目で見つめる。
「―――蘭、俺の前では無理すんなよ」
「―――え?」
「新一が行っちまってさ、寂しいんだろ?ホントは」
 と快斗が言うと、蘭は驚いたように目を見開いた。そして、ふっと体の力を抜いて少し寂しそうに笑
った。
「適わないなあ、快斗くんには・・・。全部お見通しなんだもん」
「そ、お見通し。だから、無理する必要ね―んだよ。―――前に蘭が言ってくれたろ?」
「え?わたし?」
「うん。俺といると安心できるって。側にいると不安が消えてくみたいだって」
「・・・うん」
「あれさ、おれスッゲー嬉しかったんだぜ。俺が蘭を癒してあげられてるんだと思ってさ。だから俺、
ずっと側にいたいと思ったんだ。―――蘭は知らないだろうけど、俺も蘭に癒されてるんだぜ」
「快斗くんが?」
 蘭は目をぱちくりさせた。
「そ。俺、蘭の笑顔見てるとそれだけですげ―安心するんだ。蘭の笑顔に癒されてるんだよ。だからず
っと、笑顔でいて欲しい。俺が側にいることで、蘭が笑顔になってくれるなら―――俺、ずっと側にい
るよ」
「快斗くん・・・ありがと。すっごく嬉しいよ」
 と言って、蘭はふわりと微笑む。
「わたしと快斗くんって似たもの同士なのかな。なんか、すごく近い感じがするよ」
「かもな。だからさ、俺に遠慮なんかするなよな」
「うん、わかった」
「―――で、1つお願いがあるんだけど」
「お願い?」
 蘭はキョトンとして首を傾げる。快斗は悪戯っぽい笑みを浮かべて続けた。
「俺のこと、“快斗”って呼んで欲しいんだけどな」
「え・・・」
「だって新一のことは呼び捨てなのに、俺は君付けって、なんか距離を感じるんだよなあ」
 と言って、快斗はニヤニヤと笑っている。蘭は困ったような顔をして、
「でも・・・それで慣れちゃってるし・・・なんか恥ずかしいし・・・」
 と、しどろもどろになっている。頬はほんのりとピンクだ。
 ―――ホンット可愛いよな。けど、これは折れるわけにはいかね―からな。
「だから、遠慮すんなって。それに恥ずかしいのは最初のうちだけで、すぐ慣れるよ。な?」
 でも・・・と、まだ照れている蘭に、ぐっと顔を近付け、迫る快斗。
「ほら、呼んでみ?」
「え・・・と」
「ん?」
「〜〜〜///」
「ら〜ん♪」
 蘭はもうすでに真っ赤になっている。
「・・・かいと・・・」
「聞こえなーい」
「かいと・・・」
「ん―――?」
「快斗っ」
 俯いてゆでだこ状態になっている蘭を見て、クスクスと満足そうに笑う快斗。そしておもむろに、テ
ーブル越しに蘭の頭を抱き寄せた。
「かわい――!らんっ」
「きゃっ、か、快斗く・・・」
「快斗、だろ?」
「か、快斗っ、あの・・・」
 ジタバタと抵抗を試みる蘭だが快斗は離そうとしない。と、そのとき・・・
「コホンッ」
 わざとらしい咳払い。2人同時にそちらを見ると、そこには赤面してばつが悪そうに立っている、ウェ
イトレスの女の子―――。
「―――!!」
 蘭は慌てて快斗を押し戻した。快斗はちょっとつまらなそうに目を細めた。
「あ、あの、お邪魔してしまってスミマセン。・・・大変お待たせいたしました。ミートソースとカル
ボナーラです」
 ウェイトレスの女の子は、スパゲティの皿を置くと、顔を赤くしたままそそくさと行ってしまった。
そして、よく周りを見てみると・・・夏休みというだけあって、レストランはほぼ満席状態。その客た
ちのほとんどが、今、蘭と快斗に注目していたのだった・・・。


 「も―、恥ずかしかった〜〜〜」
 レストランを出て、蘭の第一声がそれだった。
「―――スパゲティの味とか、良くわかんなかった・・・」
「そお?結構うまかったぜ」
「よく余裕で味わえるよね。わたしはもう、早く出たくって焦っちゃって・・・」
「ああ、だから食うの早かったんだ。なんかずいぶん急いでるなあとは思ったんだ」
「もう、のんきなんだから・・・」
 蘭は呆れて、快斗の横顔を眺めた。
 ―――でも、快斗くんらしいか・・・。
 蘭は、苦笑いして思った。
 2人並んで歩き、手を繋ぐ。2人でいるときは、自然とそうなっていた。新一といるときとはまた違
う、なんともいえない安心感。最近は新一がいなくても、寂しいと思うことが少なくなった。それは、
快斗のおかげ。蘭はそう思っていた。だから、プールで新一が呼び出されたときも、寂しいと思ったの
はほんの一瞬で、すぐに“快斗が側にいてくれる“ということに安心したのだった。
 ―――快斗くん・・・“快斗”は・・・気付いてないのかな、わたしの気持ち・・・。
 蘭の視線に気付き、快斗が蘭を見て笑う。
「何?俺に見惚れてた?」
「―――半分、当たり」
 と蘭が言うと、快斗がビックリしたように目を見開き、顔を赤くした。それを見て、蘭がクスクス笑
う。
「蘭〜〜〜俺のこと、からかって遊んでない?」
 恨みがましい目で蘭を睨む。
「からかってなんかないよ。ホントにちょっと見惚れてたもん」
 と蘭が笑顔で言うと、快斗は真っ赤になり・・・だが、ちょっと複雑そうな顔をして目を逸らすと、
小さな声で言った。
「―――あいつに似てるから?」
「え?」
「新一に似てるから―――見惚れてた?」
「快斗―――」
「―――ゴメン。・・・でも、俺と2人きりでいるときは、あいつのこと、忘れて欲しいんだ。せめて
・・・2人でいるときはさ、俺のこと、見てくれよ」
 ちょっと苦しそうに、切なそうに言う快斗を見て、蘭は繋いでいた手を離すと快斗の真正面に立ち、
その胸に飛び込んだ。
「ら、蘭―――??」
 突然の行動にビックリし、赤くなる快斗。
「馬鹿・・・。わたしが今見てるのは、快斗だよ」
「蘭―――」
「快斗のこと知ってから・・・知り合ってから、快斗と新一を見まちがえた事なんてないんだから―――。
快斗は快斗だよっ?」
「蘭・・・」
 じわじわと、胸に暖かいものが広がってくる。蘭の気持ちが、全身から快斗に伝わってくるようだっ
た。嬉しさがこみ上げて来る。
 快斗はそっと、蘭の頬を両手で包んだ。
 蘭が快斗を見上げる。
 ゆっくりと2人の顔が近づき・・・唇が触れ合う。
 甘くてやわらかい・・・蘭の唇・・・。
 一度離し、またすぐに唇を重ねた。何度も何度も、角度を変えながら口付けを交わし・・・蘭の体か
ら力が抜け、快斗に寄りかかるようにしてよろけた。
 ようやく唇を離して、蘭を見つめる。
 潤んだ瞳、紅潮した頬、塗れた唇・・・。快斗の心臓が高鳴る。
「ヤベェ・・・ちょっと止めらんねーかも」
「え?何が?」
 蘭がキョトンとして快斗を見つめる。快斗は何も言わずに、ただ蘭を抱きしめた。蘭が愛しくてたま
らなかった。蘭はされるがままになっていたが、自分の腕を快斗の背中に回すと、キュッと抱きついて
静かに言った。
「・・・新一ね、あれでも快斗のこと、認めてるんだよ?」
「認めてる・・・って?」
 ―――何だそれ?俺が蘭を付き合っても良いってことか?
「ん―――、ライバルとしてっていうのかな・・・」
 ―――んな訳ね―か・・・。
「なんかね、快斗とはフェアにやっていきたいと思ってるみたい」
「フェアにって・・・」
 ―――そんなこと言われると手ェ出しにくいじゃねーか・・・。
「快斗って、妙にこそこそしたりしないでしょう?だから結構信用してるみたいで。―――こないだね
、1人で買い物に行った時、偶然新出先生に会ってちょっと話してたら、新一がそれ、見てたのね」
「ありゃ―――」
「で、すっごく不機嫌になっちゃって・・・。わたし、快斗くんと話しててもそんなに怒らないのにど
うして?って聞いたの。そしたら、あいつは特別だって言ってたのよ」
「特別?」
 快斗はその言葉に驚いた。
「そう、特別・・・詳しくは言ってくれなかったけど、快斗のこと同士みたいに思ってるんじゃない?」
「同士、ねェ・・・」
「だからね、いつも”手ェ出すな”なんて言ってるけど、快斗だったら私とキスしたって知ってもそん
なに怒んないような気がするの」
「そーかァ?」
 ―――めちゃめちゃ怒りそうだけど・・・。
「うん。新一も、意外と快斗のこと好きなんだよ」
「ふーん・・・」
 いまいち納得しきれていないような快斗を見て、蘭はクスクス笑うと、パッと離れて先を歩き出した。
「あ、ちょっ・・・」
 快斗が慌てて追いかけ、蘭の手を掴む。そしてそのまま、手を繋いで歩き出す。
「・・・ま、俺も嫌いじゃねーよ、新一のこと・・・」
 少し照れたように、小声で呟く快斗。その言葉を聞いて蘭は嬉しそうに笑った。
 そんな蘭を横目でそっと見ながら―――
 ―――ずっとこのままの関係ってのは無理かもしれない。―――けど、蘭の側にいられるなら・・・
ずっとその笑顔が見れるなら・・・俺はそれでいいんだよ。蘭、きみが、好きだから―――。
       


 
                                             fin.


うーん。これじゃあ蘭ちゃん、ただの浮気者?ちょっと新一が可愛そうですね。快蘭のラブラブが書
きたくて・・・。次は新一フォロー編やろうかな。ということで感想ありましたらお待ちしておりま〜
す♪