「結婚しようか」 突然美作さんがそう言ったのは、2人で美作邸の庭を散歩していた時だった。 「え?」 あたしが驚いて足を止めて美作さんを見ると、美作さんがにっこりと笑った。 「卒業したら」 まるで、明日の約束でもするかのように普通に言われ、逆に戸惑ってしまう。 「あの、結婚て、でも・・・・・」 「いやか?」 「い、いやじゃない!いやじゃないけど、でも、そんな急に・・・・・」 「急じゃねえよ」 美作さんは笑って答えた。 「俺はずっと考えてた。きっと、卒業したら俺は海外に行くことになる。なかなか帰ってくることもできなくなるだろうし・・・・・そしたらお前と会える時間も・・・・・お前はそれでも平気?」 立ち止まり、真剣な眼差しであたしを見つめる美作さん。 「それは・・・・・平気じゃ、ないけど・・・・・」 「俺は、耐えらんねえ。お前がいない毎日なんて。その間にもし、お前を他の男にかっさらわれたら?」 「そんなこと・・・・・!」 「絶対ないって言いきれるもんじゃねえだろ?俺は・・・・・そんな心配をしながら、お前と離れて暮らすのは嫌だ。だから・・・・・俺の我が侭かもしれないけど、俺についてきて欲しい」 まっすぐにあたしを見つめる美作さんの瞳。 突然の話であたしの頭の中はパニック状態だ。 でも・・・・・
「あたしで、いいの?」 あたしの言葉に美作さんは満面の笑みを浮かべた。 「お前がいいんだ」 涙が溢れて頬を滑り落ちた。 「結婚しよう」 「―――はい」 自然に抱き合い、その胸に顔を埋める。 「―――よかった・・・・・」 「え・・・・・」 「断られたら、どうしようかと思ってた。これ―――」 そう言うと、美作さんはポケットから小さな箱を出してあたしの手のひらに乗せた。 「これ・・・・・」 「開けてみ」 美作さんに促され、震える手でそれを開ける。
中から出てきたのは、かわいらしいピンク色の石が乗ったプラチナのリングで・・・・・
あたしが何も言えずそれを見つめていると、美作さんがそのリングを取り上げ、あたしの左手をとった。 「まだ、正式なもんじゃねえから・・・・・これは予約、な」 「予約・・・・・?」 「そ。ちゃんと俺自身が稼いだ金で、買いたいと思ってる。だから、今はこんなもんしかやれねえけど・・・・・」 そう言って、美作さんはあたしの左手の小指に、そのリングをはめた。 「ホワイトデーのプレゼントだと思って、妙な遠慮はするなよ」 「ホワイトデーって・・・・・高価過ぎるよ、こんなの・・・・・」 プラチナの台だけだってかなりしそうだ。 「じゃ、やめるか?」 美作さんがにやりと笑う。 「え?」 「お前がやめるなら、他のやつ探すけど?」 その言葉に、冗談だってわかってても、悲しい気持ちになってしまう。 「・・・・・ひどい」 涙がまた溢れそうになった時、美作さんの腕があたしを包み込んだ。 「・・・・・うそ。俺にはお前しかいない。だから・・・・・それ、受け取って」 「・・・・・うん」 あたしが頷くと、美作さんがほっと息をついたのがわかった。
その瞬間、漸く気付いた。 美作さんも緊張してたんだってことに・・・・・。
そう思ったら、なんだか嬉しくて、美作さんがすごく愛しくて・・・・・
あたしは美作さんの背中に腕を回し、ぎゅっとしがみついた。 「大好きだよ・・・・・。ずっと、美作さんと一緒にいたい・・・・・」 「うん・・・・・」 そう言ってまたぎゅっと抱きしめてくれた。
ずっと抱きしめていて。
ずっとずっと、離さないで・・・・・
2人で一緒に、幸せになりたい。
だから・・・・・どこまでも、あなたについて行くよ・・・・・。
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