Triangle vol.1

  12月30日。この日は工藤兄弟にとって、忘れられない日となる。

 「母さんたち、遅くねえか?」
 リビングのソファに寝そべってテレビを見ていた新一が言った。
 同じくリビングでマジックの練習をしていた、新一の双子の弟快斗が、新一を見る。
「ん?どうせ途中で買い物でもして時間かかってんだろ?」
 快斗の気のない返事に、新一も「かもな」と肩を竦めた。2人が中学生になったときにアメリカへ渡
った両親。それから4年間、兄弟2人だけで暮らしている。その暮らしにも慣れ、たとえお正月と言え
ども両親が帰ってきても来なくても、大して気にしないようになっていた。かえって、口うるさく言う
人間がいないほうが気楽だ、などと思っていたのだ。
 この兄弟、さして喧嘩をすることもなくずっと仲良くやってきたのだが・・・。それを揺るがす存在
が、今まさに訪れようとしていた。

『ピンポー――ン』

「お、来たみてえだな」
 快斗がリビングを出て、玄関に向かう。新一はソファに起き上がったものの、そこから動こうとはし
なかった。
「おっかえりー!」
 快斗は、玄関のドアを開けると同時に、得意のマジックで、そこに立っていた人物に花吹雪を浴びせ
たのだが・・・。
「きゃあっ」
「へ?」
 聞こえてきたのは、若い女の子の声。いくら2人の母親が元女優で若く見えるとはいえ、この声は明
らかに母親の有紀子のものとは違っていた・・・。
「どうした!?」
 声を聞きつけ、新一もリビングから飛び出してくる。
 花吹雪が漸くおさまり、そこへ現れたのは・・・
「あ・・・びっくり、した・・・」
 大きな瞳を更に大きく見開き、2人を見つめる髪の長い少女・・・。
「あ、すいません、あの、工藤新一さんと、快斗さん、ですよね?」
 ふんわりと微笑みながら、その少女は言った。
 快斗と新一は、暫し時間を忘れ、その少女に見惚れていた。うっすらと頬を染め、ぽかんと口を開け
・・・。そう、この瞬間、2人はこの少女に恋をしてしまったのである。


「家政婦協会?」
 少女―――名前は毛利蘭といった。―――をリビングへ通しソファに座らせ、2人はその向かい側に
並んで座った。
「はい。そこへ工藤有紀子様からご依頼があって・・・わたしがこちらへ来ることになったんです」
「けど、君ずいぶん若いんじゃねえか?どう見ても俺らと同じくらいに見えるけど」
 と、新一が言うと、蘭はちょっと恥ずかしそうにはにかんだ表情を見せた。その表情がまた可愛く・
・・2人は同時に頬を染めた。
「はい・・・。実は、わたし高校2年生なんです。本当は、高校生は雇ってくれないんですけど・・・
。協会の会長さんとわたしの母が古い友人で、冬休みだけならっていうことでアルバイトさせてもらう
ことになったんです」
「それで、依頼って、どういうのなの?」
 と快斗が聞く。
「お家の大掃除と、お正月のおせち料理の準備です」
「ってことは・・・母さん、今年は帰ってこねえのか」
 と新一。
 2人は顎に手を当て、頭をフル回転させる。親がいないってのは願ってもないことだ。が、問題はこ
いつ・・・。
 ちらりと相手の顔色を伺う。
 なにせ双子の兄弟である。2人が同時に同じ女の子を好きになってしまったことにはとうに気付いて
いた。お互い、絶対に負けたくない相手だ。さて、どうするか・・・
「あの・・・?」
 蘭が不思議そうな顔をして、2人の顔を見比べる。
「あ、ごめん。え―と、蘭さんって、呼んで良いかな?」
 と、新一が優しい笑みを浮かべて言うと、蘭も安心したようににっこり笑う。
「はい」
 ―――すっげー、可愛い・・・
「おせち料理ってことは、正月までここにいるの?」
「はい。一応1月2日までこちらで働かせていただくことになってます。あの、何か不都合があります
か?」
「いや、全然。俺はいつまででもかまわねえよ?」
 と、新一が優しく言うと、蘭の頬がほんのり染まった。それを見て、快斗が新一をじろりと睨む。
 ―――やろお、点数稼ぎしやがって・・・
「ところで蘭ちゃん、堅っ苦しいから、その敬語止めようぜ?」
 と、今度は快斗が身を乗り出すように蘭に話し掛ける。
「え、でも・・・」
「俺ら同い年なんだしさ、もっと気軽にいこうよ。名前も、快斗さんとかじゃなくって、快斗で良いし」
「そ、そんなわけには・・・」
 蘭が、驚いて目を見開く。
「じゃ、せめて快斗くんって呼んでよ。俺、堅苦しいの苦手なんだ。ね?」
 快斗の親しみを込めた笑顔に、蘭もつられて笑顔になる。
「はい。じゃあ・・・快斗くん」
 快斗に向けられた笑顔を見て・・・今度は新一が快斗を睨む。
 
 さて、この戦い、どちらに軍配が上がるのか。それは神のみぞ知る、か・・・・・?



 はい、パラレルです。一応こちらはリアルタイム方式(?)ということで、30日から4日間かけて、
1話づつUPしていきたいと思っています。というわけで、この続きはまた明日♪
 それでは♪