In always the side



 その日家に向かう新一の足は、軽やかだった。
 ―――もうすぐだ。もうすぐ家に着く!
 1週間ぶりだった。いつものように事件の要請を受け、行った先は北海道の山奥・・・。携帯電話も
通じないし、公衆電話もない。これは、早いとこ片付けて、帰らないと。そう思って事件に集中した。
そして、今日やっと事件が解決し、新一はその足で飛行機に乗って帰ってきたのだった。
 
 我が家につき、鍵を出すのももどかしくドアを開け、勢いよく中に入る。
「蘭、湖南、ただいま!!」
 と家中に響くような声で言ったのだが・・・。
 ―――シーン・・・
「あれ?・・・おーい、蘭?湖南?いねえのか?」
 新一は荷物をその場に置き、リビングやキッチン、そして寝室を覗いて見たが、妻と息子の姿はどこ
にもない。
「?買い物にでも行ってんのか?」
 不思議に思いつつも、疲れていた新一はリビングのソファにどかっと座り、テレビをつけた。
 この1週間、まともにテレビも見ていない。昼間のこの時間は、ワイドショーがやっている。いつも
はくだらないワイドショーなど見たりしないのだが、たまたまチャンネルがそれになっていたので、ボ
ーっと見るでもなく眺めていたのだが・・・。
 それは、突然新一の目に飛び込んできた。
「―――さて、次はあの有名な西の名探偵こと服部平次さんに不倫発覚の話題です!」
「は?服部?」
 突然聞こえてきた友人の名前に、新一はパッと体を起こす。
 ―――何言ってんだ?服部の奴はこの間和葉ちゃんと結婚したばっかりじゃねえか。
「服部平次さんといえば、東の名探偵、工藤新一さんと並ぶ名探偵としてその名を知られていますが、
先日大阪府警の遠山刑事部長のご令嬢、遠山和葉さんとの入籍を済ませたばかりなんですね。その服部
さんが、ある女性と2人でホテルから出てきたところを写真週刊誌に激写されていたんです!!」
 大げさな女性レポーターの声と共に、テレビの画面いっぱいに、「西の名探偵が不倫!?」という文
字が躍った。そして、映し出されたモノクロの写真は・・・
「おい・・・うそだろ・・・?」
 テレビに映った、その女性を見て、新一は固まった。平次と並んで楽しそうに笑っているその女性。
見間違えるはずもない、長い黒髪が美しいその人物は・・・
「この美しい女性はあの東の名探偵、工藤新一さんの奥様、工藤蘭さんなんですねえ。実は工藤新一さ
んは、現在ある事件の捜査で電波の届かない場所へ行っているそうで、今回はそんな工藤さんの留守の
間に2人が密会し、不倫が発覚したものと―――」
「ふ・・・ざけんな―――!!」
 新一は持っていたリモコンをテレビに投げつけ、立ち上がると、わなわなと震える拳を握り締めた。
 ―――不倫?蘭が?服部と?冗談じゃねえっ!んなことあってたまるか!!

『Pulllllll・・・・・』
 突然鳴り出した電話の音に、一瞬びくっとし、弾かれたように走り寄る。
「―――もしもし」
『あ、新一?良かった。帰ってたのね』
 電話の向こうから聞こえてきたのは、今まさにテレビに映っている蘭その人だった。
「蘭!おめえ何してんだよ?今どこにいる!?」
『あのね、今大阪にいるの。実は―――』
「大阪!?どういうことだよ!?おめえ、まさか本当に服部と会ってんのか?」
『え?うん、服部君と一緒だけど・・・あ、もしかして、今テレビ見てるの?』
 電話から聞こえてくる蘭の声は、心なし楽しそうで・・・新一は、疲れから来るイライラも手伝って
カーっと頭に血が上り、気付くと受話器に向かって怒鳴っていた。
「バーロー!!俺のいねえ間に何やってんだよ、おめえは!!服部とホテルに行ったってどういうこと
だ!!浮気なんて俺はゼッテーゆるさねえぞ!!!」
『・・・新一・・・』
 受話器の向こうから、蘭の低い声が響く。
『あんた・・・わたしが浮気したと思ってるの?』
 怒りを押し殺したような、静かな声。その声に、新一は一瞬詰まったが・・・
「ホ、ホテルから出てきたところ、写真に撮られてんじゃねえか!」
『・・・ばっかじゃないの!?』
「ば―――ばかってなんだよ!?大体なんでおめえ、大阪なんかに行ってんだよ!?服部に会いに行っ
たんじゃねえのか!?」
『・・・ほんっとに馬鹿ね!!そんなにわたしのことが信じられないなら勝手にしなさいよ!!』
 蘭の怒鳴り声と共に、受話器を思い切り叩きつける音が聞こえ、新一は思わず耳から受話器を離す。
「な―――!!おいっ、蘭!?―――くそっ」
 新一はいまいましげに受話器を戻すとソファに戻り、どかっと座ると腕を組んでテレビを睨みつけた。
テレビは、もう他の芸能人の話題にかわっていた。
「あのヤロ・・・なんで俺が馬鹿呼ばわりされなきゃなんね―んだ・・・」
 ―――大体、俺のいねえ間に、何で大阪なんて行ってんだよ?しかも、ホテルなんて・・・一体何の
為に行ったっていうんだよ?
 とにかく、蘭のこととなると冷静な判断というものが出来なくなる新一。
 自分の知らない間に蘭が大阪に行ってしまったというだけで、頭に血が上ってしまったのだ。
「―――こうしてても仕様がねえ・・・」
 新一はすくっと立ち上がるとテレビを消し、玄関に向かった。そして玄関に置きっぱなしになってい
たバッグを持つと、家を出たのだった・・・。


 「お母さん、どうしたの?」
 怒った表情のまま電話の前に立って腕組している蘭の横に、1人息子の湖南がやってきた。
「あ、湖南。ううん、なんでもないのよ、ごめんね」
 蘭は湖南の手をとると、リビングへ戻った。
 リビングでは平次が蘭のために紅茶を、湖南にココアを入れてくれたところだった。
「おお、どうやった?工藤の奴おったか?」
「うん、いたんだけど・・・」
「?なんや、どうかしたんか?」
「・・・ううん、なんでもないの。紅茶、ありがとう。服部君て結構家庭的なのね」
「ま、お客様やからなァ。湖南も飲みい」
「うん。ありがとう、平次兄ちゃん」
 湖南は平次に礼を言うと、ソファにちょこんと座って、ココアを飲み始めた。
「ホンマ、工藤がちっこくなってた頃と瓜二つやなァ、湖南は。今、ちょうど小学校1年生やろ?」
「うん」
「・・・蘭ちゃん」
「え?何?」
「もしかして、工藤の奴怒ってたんとちゃうか?」
 平次が言うと、蘭は黙って紅茶を飲んだ。
「―――やっぱりな。俺と蘭ちゃんの写真、見たんやろ」
「テレビで、見たみたい。さっき、ワイドショーでちょうどやってたから」
 蘭が苦笑いしながら言うと、平次は呆れたように溜息をついた。
「なるほどなあ。で、蘭ちゃんが説明する前に、逆上して怒鳴り散らしたんやろォ、あのあほは」
「あはは、さすが服部君。よく分かったね」
「あいつはホンマ、蘭ちゃんのこととなるとすうぐ頭に血ィ上りよるからな」
「お母さん、お父さんとけんかしたの?」
 湖南が、その大きな瞳で蘭を見る。
「あ、ううん。そんなんじゃないの」
 蘭がちょっと慌てて言うと、湖南はちょっと考えるようなそぶりを見せ、
「・・・僕、お母さんの味方だよ?お父さんが怒ってたら、僕が守ってあげるね」
 と言って、にっこり笑った。
「ふふ・・・ありがと、湖南」
「頼もしいなあ、湖南は。工藤の奴よりよっぽど頼りになるかも知れんな」
「だって、僕お母さん好きだもん」
 蘭が、湖南を愛しそうに見詰める。そんな蘭の顔に、平次は一瞬見惚れていた。
「母親の顔、やなァ。和葉もそんな顔するようになるんやろか」
「あたしがどうかした?」
 と言って入ってきたのは、青い顔をした和葉で・・・。
「和葉ちゃん!起きて大丈夫なの?」
 蘭が立ち上がって、和葉の側に駆け寄る。
「ありがとお、蘭ちゃん。少しは動かんとね・・・病気とちゃうんやし」
 和葉は蘭に付き添われ、ソファに座った。
「和葉、おまえもなんか飲むか?」
「そうやね。お茶、入れてくれる?」
 和葉が言うと、平次が、よし、と立ち上がってキッチンへ消えた。
「堪忍な、蘭ちゃん。うちのおかんがおったら蘭ちゃんを呼び出すようなこともなかったんやけど・・・」
「気にしないで、和葉ちゃん。わたしが妊娠したときも、和葉ちゃんにいろいろ手伝ってもらったもん
。今度はわたしに何かさせて?」
 ふわりと微笑む蘭に、和葉は安心したように笑った。
「ホンマ、蘭ちゃんが来てくれて助かったわ」
「ホンマや。まったく和葉の妊娠がわかってつわりがひどいいうのに、うちのおかんと和葉のおかんは
、のんきに海外旅行なんぞ行きよってからに」
 お茶を盆に載せて戻ってきた平次が和葉と並んで座り、お茶を和葉に渡す。
「仕方ないよ。妊娠が分かったの、2人が旅行に行っちゃってからだったんでしょう?」
「そうなんや。その旅行も、1年も前から2人で計画して楽しみにしとったから・・・」
「わざわざ呼び戻したりするのもどうかと思うてな。蘭ちゃんには悪い思うたんやけど・・・」
 珍しく平次が恐縮そうに言うので、蘭は思わずくすくすと笑い出す。
「なんや、俺なんかおかしなこと言うたか?」
「ううん、ごめんね。なんでもないの」
「それより蘭ちゃん、工藤君は大丈夫なんか?あんな写真撮られてしもうて、怒られへんの?」
 心配そうに言う和葉に、平次と蘭は一瞬顔を見合わせた。
「和葉が心配することあらへん。工藤かてあほやないんやから、きっちり説明すれば納得するはずや。
なんも言えんようなことしてるんとちゃうんやからな?蘭ちゃん」
「うん、そうよ、和葉ちゃん。わたしたちのことは心配しないで?」
「うん・・・。平次と蘭ちゃんがそう言うんならええけど・・・」
「お父さんなら大丈夫だよ」
 と、突然それまで黙ってココアを飲んでいた湖南が言った。3人が、驚いて湖南を見る。
「お父さん、絶対にお母さんには敵わないんだもの。ちょっとくらい怒ってたって、お母さんの顔見て
、お母さんがちょろっとでも涙を見せればすぐに怒ってるのなんか忘れちゃうんだからさ」
「こ、湖南っ」
 湖南の言葉に、蘭が思わず真っ赤になる。
 その光景を見て、平次と和葉は、ぷっと噴き出した。
「くくく、敵わんなあ、湖南には」
「ホンマや。なんか家での様子が目に浮かぶようやねえ」
 蘭はちょっと罰が悪そうな顔をしてコナンのほうを見たが、湖南は我関せずといった感じでコクコク
とココアを飲んでいるのだった・・・。


 一方新一は、あれからすぐに東京駅に向かうと大阪行きの新幹線に乗り込んだのだった。
 新幹線が動き出し、窓の外を流れる景色を眺めているうちに、新一もだんだん落ちついてきていた。
 ―――そういや、蘭の奴、電話でなんか言いかけてたみたいだったな。俺、あいつの言うこと何も聞
かないで怒鳴っちまって・・・。考えてみりゃあ、あの2人が不倫なんかするはずねえよなあ。ホテル
に行ったってのも、きっと何かわけがあるに決まってる。それを俺は・・・
 新一は、自分が情けなくなった。
 ―――蘭が怒ってあたりまえだよな・・・。大体湖南もいるってのにあいつが浮気なんかするわけね
えよ。ああ、俺って馬鹿みてえ。こんなんじゃ蘭の奴に愛想つかされるかも・・・
 新一は大きな溜息をつき、がくっと肩を落とした。
 そして、それまでの疲れもあり、いつしか眠りに落ちていったのだった・・・。


 「さ、そろそろ夕飯の支度しようかな。今日は湖南と服部君の好きなハンバーグよ」
 蘭はソファから立ち上がると湖南にウィンクして言った。和葉は自分の部屋へ戻り、休んでいた。
 蘭がキッチンへ行ってしまうと、湖南はチラッと壁の時計に目をやった。
「どうしたんや?湖南」
 平次が気付いて言う。
「ん?もうそろそろかなあと思って・・・」
 と、湖南が言うと平次も時計をチラッと見て、
「ああ、そうやなァ。そろそろやな」
 と言って、にやっと笑った。


 「どうすっかな・・・」
 新一は、大阪駅に着いたものの、これからどうすべきか迷っていた。
 ―――まっすぐ服部の家に行くか?けど、蘭のやつ相当怒ってそうだし、素直に会ってくれるかどう
か・・・。手土産持っていくのも、いかにもご機嫌とってるみてえだしな。だからと言って、手ぶらで
行くのも・・・。
 ホームに突っ立ったまま考え込んでいる新一。その新一のポケットに入っている携帯が突然鳴り出し
た。
 ―――!!蘭か!?
 素早くその画面を見ると・・・「服部」の表示・・・。
「・・・もしもし」
 仕方なく、それでももしかしたら蘭かもしれないと思いながら電話に出る。
「あ、お父さん?僕」
「湖南?おめえ、今服部の家にいるのか?蘭・・・お母さん、いるか?」
「うん、いるにはいるけど・・・」
 いつになく、歯切れの悪い湖南。
「何だ、どうした?」
「さっき、お母さんと平次兄ちゃん、一緒に平次兄ちゃんの部屋に入ったまま出てこないんだ」
「な・・・!で、なんでおめえは入っていかねえんだよ?」
「だって、平次兄ちゃんが入っちゃだめだって・・・。大人同士の話だからって。でも、何の話なんだ
ろうね。なんだか、時々お母さんの泣き声みたいなのが聞こえるんだけど・・・」
 ―――な、泣き声だとお!?あのやろう、一体何してやがんだ!!
 また、一気に頭に血が上ってしまった新一。
「湖南!俺が今からそこに行くから!おめえはそこから離れんじゃねえぞ!!」
 そう言い放ち乱暴に電話を切ると、駅を飛び出し、止まっていたタクシーに乗り込んで平次の家に向
かったのだった・・・。


 平次と和葉が新居にしているマンションに着くと、エレベーターを待つのももどかしく、階段で5階
まで駆け上がり、そのドアをドンドンと力任せに叩いた。
 が、なかなか出て来ない。イライラした新一がノブを回してみると、意外にもドアはすんなりと開いた。
「おいっ!!蘭!!」
 新一は玄関に入ると靴を脱ぎ、ずかずかとその中へ入って行った。
「蘭!!湖南!どこだ!?」
「お父さん?」
 リビングに入ると、湖南がひょいと顔を出した。
「湖南!蘭は!?」
「平次兄ちゃんの部屋だけど・・・お父さんずいぶん早かったね。大阪に来てたの?」
 鋭い湖南の突っ込みに、新一は一瞬たじろぐ。
「そ、そんなことは良いんだよ!服部の部屋は!?」
「あっちだよ」
 湖南が指差した方へ行き、そのドアを叩いた。
「おいっ、蘭!いるのか!?」
「新一!?」
 中から、蘭の驚いた声。
 その声を聞いた途端、新一はかっとなり、勢いよくドアを開けた。
「蘭!!」
 部屋に飛び込んだ新一。
 そこにいたのは・・・呆気にとられ新一を見詰める、蘭・・・。
「新一?どうしてここにいるの?」
「おめえこそなんで服部の部屋に―――って、服部は?」
「服部君なら和葉ちゃんと一緒に寝室にいるけど・・・。ここ、服部君の部屋じゃないわよ?わたしが
借りてる客間」
 そう言われ、新一ははっとした。
 ―――湖南の奴・・・!
「・・・で?どうして新一がここにいるの?」
「え、どうしてって、その・・・」
 蘭の目が、すっと細くなる。
「わたしを疑って来たの?浮気の現場を押えようと思って?」
「ち、違う!!そうじゃなくって・・・」
「何よ?」
「・・・ごめん、蘭」
 俯いて、低い声でそう言った新一を、蘭が驚いた目で見詰める。
「疑ったりして、悪かったよ・・・。おめえが、浮気なんかするわけねえのに・・・頭に血が上っちま
って・・・ごめん」
「新一・・・」
 蘭は、じっと新一を見詰めていたが、やがてふんわりと、優しく微笑んだ。
「蘭・・・」
 新一はその笑顔に見惚れ、蘭をやさしく抱きしめた。
「・・・あのね、和葉ちゃんに赤ちゃんが出来たのよ」
「え?マジ?」
「ホントよ。それでね、和葉ちゃんつわりがひどくって・・・でも、和葉ちゃんのお母さんと服部君の
お母さんて、今海外旅行に行ってていないの。それで、わたしに電話が来たの。お母さんたちが帰って
くるまでの間、家のこととか手伝ってくれないかって」
「そっか・・・。それで・・・」
 新一の胸にあった不安が、見る見るうちに小さくなっていく。
「それでね、湖南も連れてこっちに来たの。それからあの写真だけど」
「ああ」
「あれはね、服部君に依頼があったの。あの日にあのホテルで会うある2人の写真を撮って欲しいって
ね。出来れば怪しまれないように女性と一緒に来てくれって」
「なるほど。で、和葉ちゃんは具合が悪いから・・・」
「そう。わたしが代わりに行ったの。まさか、あんなところを写真に撮られるなんて思わなかったから
吃驚しちゃったけど」
「おめえな・・・」
 のんきにくすくす笑う蘭に、新一は溜息をついた。
「ごめんね?心配かけて」
 蘭は、自分の腕を新一の背中にまわし、きゅっと抱きついた。
「いや・・・俺も、理由も聞かずに怒鳴っちまったし」
「ね、もしかして、あの電話の後すぐに出てきたの?」
「ああ、まあ・・・」
「何か食べた?帰って来てすぐだったんじゃない?」
「は?何でおめえそんなこと・・・」
「だって・・・書き置きとかして来なかったから、1時間に1回くらいは電話してたんだもの」
 恥ずかしそうに言う蘭が可愛くて、新一は蘭を抱く腕に力を込めた。
「し、新一っ、ね、お腹すいてない?何か食べないと・・・」
「いらね・・・胸がいっぱいで食えねえよ」
「もう・・・あのね、夕飯ハンバーグにしようと思ってるの。新一も一緒に食べよう?」
「ああ・・・そういや湖南の奴・・・」
「湖南?」
「ああ。あいつ、俺を騙しやがって・・・。服部の奴だな。湖南にあんな入れ知恵してんのは」
 悔しそうに顔を顰める新一を、蘭は不思議そうに眺めていた・・・。
 ―――けど、あいつの挑発のおかげでここに早く来れたし・・・。ま、良いか。
 新一は心の中で1人納得し、きょとんとした表情の蘭に、素早くキスをした。
 途端に真っ赤になる蘭。結婚してからもまるで変わらない蘭が、愛しくてたまらない。新一は満足そ
うに微笑むと、蘭の顔を両手で包み込み、もう一度唇を重ねた。今度は深く、甘く、ゆっくりと味わう
ように・・・。
 ―――今日は、蘭に免じて許してやるとするか・・・。また、蘭の機嫌を損ねたくねえし、な。
 そう心の中で思いつつ、更に深く口付ける新一だった・・・。

  



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 これは8888番をゲットして頂いたアーサー様(現yosirou様)のリクエストによる作品です。
結婚後の新蘭を書くのはこれが初めて。結構難しいですね。ついつい息子の存在を忘れてしまいそうに
なって・・・。湖南の名前は、変換したときに最初に出る漢字をそのまま使っちゃいました。響き的に
好きなんです。そして、これも初めて書く平和。関西弁については、深く突っ込まないでくださいね・
・・。でも書いてて楽しかったです。今度ぜひ、平蘭を書いてみたいです。誰かリクして(笑)
楽しんでいただけたら嬉しいです。それでは♪