Two holidays
「あ、服部くんだ」
と、突然蘭がテレビを見て言った。
一緒にソファに座り、蘭の髪をもてあそびながら他愛のない話をしていた新一が、その言葉を聞いて
テレビを見る。
なるほど、テレビには新一と蘭の友人でもある西の名探偵服部平次が映っていた。どうやらワイドシ
ョーで平次が解決した事件を取り上げているらしい。
高校を卒業し、大学に通う傍ら、本格的に探偵業を始めた平次と新一。東京と大阪と、離れてはいる
が、たまに同じ事件に関わったりして合同捜査をしたりすることもあり、今や日本中知らない人間はい
ないほどで、こうしてテレビで取り上げられることもしばしばだ。
若くて格好も良く頭の良い2人は女性に絶大の人気があり、新一もよくテレビの出演依頼を受けたりし
ているが、新一はどちらかというとテレビに出ることをあまり好まない。と言うのも、ただでさえ忙し
く、蘭との時間が少ない新一は、せめて事件のない日は蘭と過ごしたいと思っているからで・・・。そ
れに比べ平次は結構頻繁にテレビに出ていた。そこで2人は、新一はクールでポーカーフェイス。平次は
ユーモアがあり目立ちたがり。というように世間では見られているらしかった。
「くすくす・・・服部くんてば相変わらず面白いね」
蘭が、テレビの平次を見て、楽しそうに笑う。
「あいつ、良く出るなあ。宣伝のためだなんて言ってたけど、和葉ちゃんに怒られんじゃねえの?」
「そうでもないみたいだよ?この間和葉ちゃんと電話で話したとき言ってたけど、服部くん、必ず1日5
回は和葉ちゃんに電話くれるんだって」
「へえ、あいつが?」
新一が意外そうな顔をする。
「うん。やっぱり和葉ちゃんのこと心配みたい」
蘭が、まるで自分のことのように嬉しそうに言う。新一は、そんな蘭の笑顔に見惚れ、蘭の肩を抱い
て、その唇にそっとキスをした。
「俺も、おめえのこと心配してるぜ?」
「え?心配って、何を?」
蘭がきょとんとして言う。
「何でも。今みてえにおめえが服部のことばっか見てるのとか」
「え・・・」
「嬉しそうな顔してよお、あいつのこと見んなよ」
蘭の髪に顔を埋め、拗ねたように囁く新一。
「それって・・・やきもち?」
蘭がくすくす笑いながら言う。
「う・・・まあ・・・」
「ふふ・・・変なの。テレビだよォ?」
「それでもやなんだよっ、おめえが俺以外の奴見て笑うのは」
「もう・・でも、わたしだって心配してるんだよ?」
蘭の言葉に、新一は顔を上げる。
「事件のこと?」
「それもだけど・・・新一も最近たまにテレビに出たりするじゃない。その時に、レポーターの女の人
に笑いかけてるの見たときとか・・・」
「へ?俺、笑ってる?」
「笑ってるよォ、にっこりと」
今度は、蘭がすねたように言う。
「そおかあ?けど、それは完全な愛想笑いだぜ?あんまりむすっとしてるとイメージ悪いかと思ってさ」
「うん、わかってる。だからね、怒っちゃいけないなあとは思ってるの。でも、やっぱり・・・新一が
他の女の人に笑いかけてるのとか、見たくないんだもん・・・」
ちょっと頬を膨らませながら、俯いて言う蘭が、堪らなく可愛い。新一はぎゅうっと蘭を抱き寄せる
と、その頬に口付けた。
「俺が、本当の笑顔見せるのはおめえだけだよ」
「本当?」
「ああ。だから、おめえも本当の笑顔見せんのは俺だけにしとけよ?」
新一の言葉に、頬を染めながら、蘭は嬉しそうに微笑んだ。
「うん―――。あ!藤谷直樹!」
「へ?」
突然テレビを見て嬉しそうな声を上げた蘭に、新一は目を丸くする。
「ほら、この人、最近良くCMとかに出てるの!今度ね、連ドラにも出るんだって!」
「・・・・・で?」
「かっこいいと思わない!?背も高くって、美形だし!」
「・・・・・」
「この間、たまたま見たサスペンスドラマに出ててね、すっごくかっこよくって、好きになっちゃった
の!」
「・・・・・好き・・・・・?」
「うん!園子も好きって言ってたよ?演技も上手いし、声も良いよねって」
「・・・・・ふーーーん・・・・・?」
「で・・・えーと・・・」
一気にまくし立てるように言ってしまってから、蘭ははっとした。“しまった!”
恐る恐る新一の顔を見てみると、思いっきりじと目で自分を睨んでいる新一と視線がぶつかる。
「あ・・・でも、やっぱり新一のほうが、かっこいいよねっ」
「・・・とってつけたように言ってんじゃねえよ」
「そそ、そんなこと・・・」
「今、言ったばっかりじゃなかったっけ?俺以外の奴見て笑うなって」
「そ、そうだね・・・」
「今、おめえ思いっきり笑ってたよなあ?テレビのあいつ見て、めちゃめちゃ嬉しそうに」
「そ、そうだっけ・・・?」
「んで、あいつのことが好きだっつってたよなあ?」
「それはっ、芸能人としてってことで、別に深い意味はないわよ!?」
「・・・・・・」
「し・・・新一?あの・・・」
無言で自分を見つめる新一の視線を受けながら、蘭はじりじりと後退をする。
その蘭の肩を、新一の手ががしっと掴む。
「蘭?」
にっこりと微笑む新一。でも、その笑顔は犯人を追い詰めるときのそれのように迫力があり―――
「は、はい?」
思わず引きつった笑顔で答える蘭。
「今日、泊まっていくだろ?」
「え・・・で、でも、あの・・・」
「泊まっていくよなあ?」
蘭の肩を掴む手に、力がこもる。
―――もう、逃げられない・・・。
蘭は、観念することにした。
「と、泊まって、いく・・・」
「よろしい」
新一は、蘭の答えを聞くとぐっとその体を引き寄せ、唇を重ねた。さっきまでの触れるだけのキスと
は違う、深く激しい口付け。僅かな隙間から舌を滑り込ませ、思う存分味わい尽くしたあと、漸くその
唇を開放する。激しい口付けに、蘭のひとみは潤み、呼吸は乱れてしまっている。
「じゃ、いくか?」
「え?どこに?」
「俺の部屋」
再びにっこり笑う新一。
「え・・・でも、まだコーヒー残ってるよ?新一」
「後でも一度入れるから良い」
「あ、でもまだテレビ、服部くんのことやるかも・・・」
どうにかそこに留まろうとして言ったことだったが、逆効果だったようで・・・新一の目が、すっと
細くなる。
「俺は別に見たくねえ」
「あ、そ、そう・・・」
「ったく、しょうがねえなあ」
と言ったかと思うと、新一は立ち上がり、蘭の体をひょいと横抱きに抱えた。
「きゃっ、し、新一っ」
「往生際がわりいんだよっ。今日はゼッテー離さねえから、覚悟しとけよ?」
そのまま、自分の部屋へと向かう新一。
もう、何を言っても無駄である。
心の中で、蘭はそっと溜息をついた。
―――口は災いの元、ってホントだわ・・・。
蘭はつくづく、もう新一の前で、他の男の名前は言うまい、と思ったのだった・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
このお話は9999番をゲットして頂いたkkk様のリクエストによる作品です。
ラブラブな新蘭ということで・・・。好き勝手に書かせていただいちゃいました♪
とても楽しかったです〜。やっぱりラブラブをかくにはジェラ新だろう。
と、勝手に決め付けてしまいまいた。喜んでいただければ幸いです♪
それでは♪
