***Happy Beat Again 〜類つく〜***



 
 「「あけまして、おめでとうございます」」

 初日の出を見ながら、類と2人顔を見合わせて微笑む。

 お正月は家族5人で過ごそうと、海の見える花沢家の別荘にやって来ていた。

 家を出るまできゃあきゃあと嬉しそうにはしゃいでいた快斗と優斗、そして生後5カ月を迎えたばかりの琉璃は、さすがにずっと起きていることはできず今はベッドですやすやと眠っていた。

 今は類と2人きり、バルコニーに出て冷たい空気の中、刻一刻とその表情を変えていく目の前の景色を見つめていた。

 寒いけれど、類に肩を抱かれているとやっぱり安心できて、温かい気持ちになっていた。

 「―――あきらと総二郎は、いつごろくるんだっけ」
 あたしの言葉に、類がちらりとあたしを見る。
「午後には着くって。早く会いたい?」
 その視線はちょっと拗ねているようで。
 あたしはおかしくなってくすりと笑う。
「ん―、それもあるけど、おせち、出しておかなくちゃと思って」
 いろいろ、もちろんしきたりがあって、お正月というのは楽しいだけではないのだけれど。

 3人の子育てで毎日忙しいあたしのことを思い、今年は家から離れて家族だけで過ごしたいと言い出したのは類だった。
 そんな類にあたしは戸惑っていたが、類の両親の説得もあり、その好意に甘えさせてもらうことにしたのだが。

 この別荘には使用人はいないので、子供たちの面倒をみるのはやっぱり大変だろうと、あきらと総二郎が後から来ることになっていたのだ。

 そんなみんなの優しさが嬉しくて。

 そして仲間と一緒に迎えられるお正月というものにわくわくする気持ちを押さえられないあたし。

 まるで学生のころに戻ったみたいに。

 「―――寒いから、そろそろ中に入ろう」
 類に促され、部屋に入って窓を閉める。

 隣の部屋で寝ている子供たちが起きないように静かにソファーに身を沈め、テーブルの上に置いたままになっていたシャンパングラスに手を伸ばす。

 2人のシャンパングラスが軽く触れあい、ちりんと耳に心地よい音を鳴らす。

 新しい年を迎え、もう何度目かのキスに酔いしれ―――

 甘い空気が流れるのに、あたしもその身を預けようというところ。


 突然、部屋の扉がガチャリと音を立てて開いてきたからあたしたちは飛び上るほど驚いた。
「ママ、パパ」
 顔を出したのは、優斗だった。
「優、どうしたの?目え覚めちゃった?」
 2歳になった優斗は漸く単語が続けて言えるようになったというところ。
 寝起きのおぼつかない足取りであたしの元に来ると、その手をぎゅっと握り、あたしを見上げた。
「ママ、ちて」
 ママ、着て、と言いたいのだろう。
 あたしは類と顔を見合わせた。
「マーマ」
 あたしの顔を見つめ、強請るようにその手を引っ張る優斗に、あたしは肩をすくめ、優の小さな体を抱き上げた。
「わかった。じゃ、一緒に行こうね」
「俺も行くよ」
 そう言って類も立ち上がり、あたしたちは寝室へと優斗を連れて行った。

 ベビーベッドですやすやと眠る琉璃と、ダブルベッドの片隅で丸くなっている快斗。

 その横のクイーンベッドは類とあたしのベッドだった。

 そのベッドの方へ行くと、あたしは優斗を下ろし、類にそっくりなそのサラサラの髪を撫でた。
「快斗の隣で寝る?」
 その言葉に、優斗は首を振った。
「マーマ」
「そっか・・・・類」
「ん、いいよ。俺も一緒に寝る」
 類の言葉に、嬉しそうに笑う優斗。

 クイーンベッドに3人で横になり、優斗を挟んで類と目を見交わす。

 類の目が優しく微笑む。

 2人の間の優斗は、あたしの手を握りながら、ゆっくりと目を閉じて行った―――。

 「―――このまま、寝ようか」
 類の言葉に、あたしはその顔を見つめる。
「いいの?」
「ん。眠くなってきちゃったでしょ?そんな顔してる」
 くすくす笑う類に、ちょっと恥ずかしくなるけれど―――
「類だって、すごく眠そうだよ」
「ばれてた?」
「当然。すぐ眠くなっちゃうのは、あたしよりも類でしょ?」
「かもね。―――幸せだから・・・・・」
 そう言って、類はあたしの髪をそっと撫でた。
「隣に、こうして優やつくしがいてくれることが、何より幸せだから。だからきっと、安心して眠くなるんだよ」
「うん、あたしも―――すごく、幸せだよ」
 優をなでていた手に類の手が合わさり、温かなぬくもりが伝わってくる。

 恋人同士の時とは、ちょっと違うけれど。

 今が幸せだということは変わりなくて。

 あたしたちは手を握り合ったまま、眠りに落ちて行った―――。


 「ママ!マーマ!」
 快斗の声と、あたしの肩を揺さぶるその小さな手のぬくもりに、あたしは目を開けた。
「あ―――快、おはよ。もう起きたの?」
「もう起きたの、じゃねえだろ。何時だと思ってんだよ」
 聞き覚えのある声に、あたしは思わずがばっと身を起こした。

 そこに立っていたのは、腕を組んで呆れたようにあたしを見下ろす総二郎で―――
「ええ!?もうそんな時間!?」
 確か、昼過ぎに来ると言っていたはず。
 それまでに、おせちの準備をしておこうと思ってたのに―――!

 と、総二郎がにやりと笑う。
「バーカ、慌てんな、まだ朝の9時だよ」
「え―――」
「さっき着いたんだ。今あきらがリビングで琉璃にミルクやってるよ」
 言われて見れば、ベビーベッドはカラで類も優斗もその姿がなかった。
「つくしは、もう少し寝かしといてやりたいって、類の奴はとっくに起きてたみたいだけど」  

 その時、部屋の扉が開き、優斗を抱いた類と瑠璃を抱いたあきらが入ってきた。
「お、起きたな。瑠璃のミルク、今やったとこだから」
「あ―――ありがと、あきら」
「おせちの準備もできてる。快連れてくから、着替えておいで」
 その言葉に、快斗も総二郎に抱かれ、そのままみんなで部屋を出て行き―――

 あたしは大きく溜め息をつき、ベッドから起き上がったのだった。
「―――今年も、いい年になりそう」
 そう呟いて苦笑して。

 用意してあった着物を出して、着付け始める。
 総二郎に習った甲斐があって、1人で着つける時間もだいぶ短くなってきていた。

 もちろん子どもたちも着替えさせられていて、少し窮屈そうだったけれど。
「ま、一応最初だけな。挨拶だけはしっかりしとこうぜ」
 総二郎の言葉に、あたしたちは頷きあい―――

 しっかりと正座し、新年のごあいさつ。

 「「「「あけまして、おめでとうございます」」」」

 「「「「今年もよろしくお願い申し上げます」」」」



                            fin.







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