***For you 〜総つく〜***



 
 「今時、手作りの手袋って、ないよなあ」

 西門さんの言葉に、あたしは固まる。

 12月3日。本日は西門総二郎の誕生日。

 朝からもう何人もの女の子が頬を染めながらプレゼントを渡しにやってくる。

 その一つ一つをちゃんと受け取り笑顔でお礼を言う西門さんは、とても紳士的だと思うのだけれど―――

 本人が行ってしまい、その包みを開けて言う言葉はどこか辛辣で。

 嫌なら受け取らなければいいのにとあたしは溜め息をつく。

 「受け取らないっていうのは失礼だろ?まあ、だからって見返りを期待されても困るけどな」
 相変わらず不敵な笑みを浮かべてそう言う彼に、あたしは乾いた笑いを浮かべるしかなくて。
 バッグの中に忍ばせてあるものの存在を、そのバッグの上から確認する。

 ―――やっぱり、渡すのやめようかな。

 放課後になっても、カフェテリアでくつろぐ彼のもとへ来る女の子はひっきりなしで、絶えることはない。

 そのほとんどが有名ブランドの高級品ばかりだけれど、中にはさっきのような手作りのプレゼントもあったりして、それに対する彼の感想は特に辛辣だ。
「こういうのって、こええよな。なんか怨念こもってそうだし」
 怯えた表情でそう言う西門さんに。
「そんなことないよ!」
 思わず声を荒げ、驚いた彼の顔にはっとする。

 ―――しまった。思わず・・・・・

 「どうしたの?大きな声出して」
 そう言ってやってきたのは、花沢類だった・・・・・。
「あ―――な、何でもないよ。花沢類、何か飲む?あたし、紅茶買ってくるから一緒に―――」
「ん?いいよ、一緒に行こう」
 席を立ち、類と一緒に売店に向かう。
 後ろは、振り向けなかった。

 「―――プレゼント、まだ渡してないの?」
 類が声を顰めてそう言うのに、あたしはちらりと類を見上げる。
「だって、なんか―――すごいんだもん、プレゼントの数が。あたしのなんか、とてもじゃないけど―――」
「そんなこと、ないでしょ。待ってるんじゃない?総二郎」
「そんなことないよ。手作りのプレゼントなんて、もろ迷惑そうな顔してたし―――とてもじゃないけど渡せない」
「ふーん・・・・・じゃ、おれが貰おうかな」
「―――へ?」
 にっこりと、笑みを浮かべる類に。

 あたしは、ぱちくりと目を瞬かせたのだった・・・・・。


 結局、プレゼントを渡せないまま時間だけが過ぎていき―――

 西門さんは抱えきれないほどのプレゼントを迎えの車に積み込むと、あたしの手を取り歩き出した。
「車で帰らないの?」
「プレゼントがいっぱいで乗るスペースねえから。それに、ちょっと歩きたい」
 その言葉は嬉しいはずなのに。
 なんだか声の感じが鋭くて、怖い気がした。

 あたしの手を握ったまま、どんどん歩いて行く西門さん。

 無言で歩く彼の背中は、やっぱりどこか怒ってるように感じて。

 「ねえ、どこまで行くの?」
 それだけ聞くのが精いっぱいだった。
 ぴたりと足を止め、振り返る西門さん。
 その鋭い視線に、ドキッとする。
「―――どこまで?どこまで行ったらいいと思う?」
「え―――だから、それを聞いて―――」
「今日は、俺の誕生日だぜ」
「し、知ってるよ」
「へえ?俺はまた知らねえのかと思ったよ。俺はまだ一度もお前からおめでとうって言ってもらってねえし」
「そ―――そうだったっけ・・・・・」
 むっと顔をしかめる西門さん。

 あたしの背中を、嫌な汗が流れる。

 「付き合い始めてから初めての、彼氏の誕生日。忘れてたとか言うんじゃねえだろうな」
「わ、忘れてないよ!ちゃんと覚えて―――」

 ―――そうだよ、忘れるはずない。

 もう1ヶ月も前から準備してたんだから。

 なのに―――

 「―――忘れてなんか、ない。―――20歳のお誕生日、おめでとう」
 そう言った途端、ふわりと抱きしめられる。
「―――たく・・・・・今日中に聞けないかと思ったぜ」
「ごめん―――」
「いいけど。で―――そのバッグの中のものはいつ渡してくれるわけ?」
 その言葉に、驚いてパッと彼から離れる。
 その顔を見上げてみれば、にやりと不敵な笑みを浮かべていて。
「何度も、バッグの中確認してたろ?大事そうにバッグの上から触ってさ。いつ見せてもらえんのかってずっと待ってたのに」
「だって―――」
「俺から催促させんなよ」
「だって・・・・・迷惑そうな顔されたら、やだし」
 あたしの言葉に、西門さんが目を見開いた。
「迷惑?俺が?なんで彼女からのプレゼントに、迷惑そうな顔するんだよ」
「だって、言ってたじゃん!手作りは勘弁してほしいって―――」
 言ってしまってから、口を押さえる。
「てづくり―――マジで?なんか作ってくれたの?」
「あ―――でも、やっぱり違うのに―――」
「だめ。それがいい。早く出せよ」
 そう言ったかと思うと、西門さんの長い手が伸びてきてあたしのバッグを奪った。
「わっ、ちょっと!」
「いいから」
「よくないよ!」
 取り戻そうとするあたしの手を器用に避け、中からラッピングされた緑の包みを取り出す。

 そして素早くその包みを開けると―――

 「―――手袋?」
 中から出てきたのは、青い毛糸で作った手袋。
 手の甲の部分にはちょっと頑張って編み込んだ白い雪の結晶・・・・・・。
「あの―――ごめん、お金ないし、それくらいしか―――手作りは鬱陶しいって言われるかなってちょっと思ったんだけど―――でも、あの、もし気に入らなかったら類にあげても―――」
「―――は?なんで類にやるんだよ?」
 途端に不機嫌に歪む西門さんの顔。
「え―――類が、もし総二郎がいらないなら俺が貰うって―――」
「あほか」
 そう言うと、西門さんはその手袋を両手にはめた。
「―――お前の手づくりの手袋なんて、他の奴にやれるわけねえだろ。しかも類になんて」
「え、なん―――」  

 ―――なんで類?

 そう聞こうとしたあたしを、手袋をはめたままの西門さんの両腕が力強く抱きしめた。

 今度は、簡単には離れられないほどの力で―――

 「すげえ、嬉しい。勘違いすんなよ。手作りが迷惑なのは、俺がその相手を何とも思ってねえから。お前は違うだろ?お前からのプレゼント―――俺が迷惑だなんて、思うわけない」
「―――ホント・・・・・?」
「ホント。だから―――絶対他の奴にはやるな」
「うん・・・・・・」

 至近距離の西門さんの口から、白い息が吐き出されて。

 目の前が少し霞んだ気がした。

 気が付けば、2人の唇は重なっていて。

 冷え切っていた唇が、少しずつ温まって。

 あたしの体は、西門さんにすっぽり包まれていた―――


                               fin.







お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪