***サプライズ・バースデー 〜類つく〜***



   『20歳の誕生日は特別なんだぜ』

 そう言って、意味ありげににやりと笑った西門さんの言葉の意味が、ようやくわかった。

 『花沢さん、お誕生日に婚約発表されるんですって』

 そんな噂話が耳に入ってきて。

 動揺してる自分に驚いてた。

 だって花沢類は友達で。

 大切な存在だけど、それだけで。

 いつか誰かと結婚することなんてわかってたはずなのに―――

 いつの間にか、あたしの花沢類に対する気持ちはそれだけじゃなくなってたんだ・・・・・。

 「告っちまえばいいだろ?」
 美作さんに言われ、あたしは首を振る。
「そんなこと、できるわけないじゃん」
「なんで。今はお前もフリーなんだし、何の問題もないだろうが」
「でも、もう婚約は決まってる話なんでしょ?今更あたしが出てったら、迷惑かけるだけじゃん」
 あたしの言葉に、美作さんが溜息をつく。
「わかってねえな、お前は」
「何が?」
「絶対後悔するぞ」
「そんなこと―――」
「俺の知ってる牧野つくしはそんな臆病ものじゃなかったけどな」
「!!」
「お前は、やるときゃやる女だろ?後悔するような生き方は、似合わねえぜ」
 そう言うと、美作さんは行ってしまった。

 あたしはしばらくその場に突っ立ったままで―――

 「―――どうしろって言うのよ―――」

 そんな呟きも、風にかき消されてしまった―――。


 類の誕生日パーティー当日。
 美作さん、西門さんと一緒に類の家に行ったあたしは、桜子から借りたピンクのドレスを着ていた。
「牧野、可愛いね」
 いつものように、類が微笑む。
「あ、ありがとう。類も、かっこいいよ」
 本当に。
 いつにも増して淡いブルーグレーのスーツが似合って、すごくかっこよかった。
「ネクタイが苦しくて。こういうの、嫌いなんだ」
 そう言って顔を顰める。
「俺たち、向こう行ってるぜ」
 突然西門さんが言った。
「え?なんで?」
「知ってる子見つけた。あきら、行こうぜ」
「おお」
 あっという間に2人は行ってしまい。
 何となく気まずい空気が流れる。

「あの―――」
「ん?」
「まだ―――婚約者の人、来ないの?」
 聞いてしまってから、後悔する。

 胸が苦しい。

 やっぱり、来なければよかった。
「―――来ないよ」
 類の言葉に、あたしは驚いてその顔を見る。
 いつものように穏やかな類の顔。
「なんで―――だって、婚約発表するって―――」
「俺は、好きでもない女と結婚なんかしない」
 そう言って、じっとあたしを見つめるその瞳は、いつもよりも熱っぽくて―――
「牧野は、俺が他の女と婚約してもよかったの?」
「あたし―――」
「俺と誰かの婚約発表聞いて―――笑っておめでとうって、言うつもりだった?」

 笑っておめでとう?

 そんなこと、言えるわけ、ない・・・・・。

 「俺は―――牧野以外の女を好きになんかなれない」
「類・・・・・」
「牧野がたとえ俺を好きじゃなくても―――俺には牧野しかいないから。他の女と結婚なんかしない」

 言葉にならない。

 ただ、涙が溢れてきて。

 目の前の類が霞んで見えた―――

 「あたしも―――好きだよ、類が・・・・・」
 精一杯の、あたしの気持ち。
「他の人と―――結婚なんか、しないで―――」
「ようやく・・・・・言ってくれた」
 ほっとしたように類が言って。
 ふわりと抱きしめられた。
「ずっと、言ってくれないつもりかと思った・・・・・」
「類―――?」
「ごめん。婚約の話は嘘」
「え―――ええ!?」
 驚いて、思わず類の体を押し戻す。
「総二郎とあきらに言われて。牧野に好きって言わせる作戦―――だったんだけど。ちょっと焦って、俺のが先に言っちゃった」
 そう言って、いたずらっ子のように笑う類。

 その後ろで悪魔の笑みを浮かべる2人の姿が見えて。

 「あんの―――後で覚えときなさいよ!」
 そんな言葉にも、ゲラゲラと涙を流して笑う2人に。

 ほんとは内心感謝してたりして。

 婚約の話が嘘で、本当に良かったと息をついた。

 「でも、それはこれから本当になるから」
 類の言葉にぎょっとする。
「え!?」
「牧野、俺と結婚して」
 さらりと、普通の会話みたいに言うから、あたしは一瞬呆けてしまい。
「行こう」
 グイと手を引っ張られ、あたしはつんのめるようにして歩きだす。
「ど、どこに?」
「みんなに、紹介するから」
「は?」
「俺の婚約者だって」
「え―――ええ!?」

 婚約!?

 だって、あたしまだ返事もしてないのに?

 「待ってられない。どうせ結果はおんなじでしょ」

 そう言って、にっこりと微笑む。

 「だって、俺はもう牧野を離すつもり、ないから」

 その天使の笑顔に、あたしは何も言い返せない。

 だって、あたしの方が―――

 もう、類から離れられない・・・・・。



                   fin.







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