***あなたしか見えない***



 「・・・・・なにこれ」

 目の前の光景に、あたしは呆然と立ち尽くしていた。
 いつも皆で集まるカフェテリアの一角で。
 目の前に広がるのは、プレゼントの山、山、山・・・・・・。

「F4の誕生日はいつもこうだぜ。知らなかったのか?」
 西門さんがにやりと笑う。
「・・・・・そういえば・・・・・・」
 今日は、美作さんの誕生日だから。
 相変わらず金欠なあたしは、それでも彼に喜んでもらおうと何とか手作りのケーキを持参したのだけれど・・・・・。

 包みを見ただけでもわかる、高級そうなプレゼントのオンパレードに、あたしは持ってきたプレゼントを背中に隠した。
「牧野、こっち来て座れば?」
 花沢類が手招きする。
「あ・・・・・うん・・・・・でも、あたし・・・・・・」
 プレゼントを隠したままその場で立ち往生していると、花沢類と西門さんが、顔を見合わせてそっと笑った。
「俺たち、ちょっと用事で外すんだわ。お前、あきらの相手してやれよ」
 西門さんが席を立ち、こちらへ歩いてきた。
 花沢類も後に続く。
「あきら、牧野のことずっと待ってたんだよ?」
 通りすがりに、そう耳打ちしていくから。
 あたしの心臓が落ち着かなくなる。

 2人が行ってしまって・・・・・残っているのは、テーブルに頬杖をついて優しい眼差しであたしを見つめる美作さんと、そんな美作さんの傍に行きたいのになかなかいけない、意地っ張りなあたし・・・・・。

 「座れば?」
 そう言われて、あたしの足は漸く動いた。

 「す、すごいプレゼントだね」
 あたしの言葉に、美作さんは肩をすくめた。
「皆、同じようなもんばっかりだよ。毎年毎年・・・・・いい加減、ラッピングを見ただけで大方の予想はつくようになった」
「・・・・・でも、皆美作さんのことを思って・・・・・・」
「ああ。だから、感謝はしてるよ、いつも」
 そう。なんだかんだ言いながらも、ちゃんと全部自分の家へ持って帰ってるし、プレゼントをくれた人たちの名前も覚えてるんだよね。
 そういうところが、美作さんらしい・・・・・。

 「・・・・・さっきから気になってるんだけど」
「え?」
「後ろに隠してるの、何?」
 美作さんの視線が、あたしの後ろへ・・・・・
 ぎくりとして、それを隠そうとするけれど・・・・・慌てたせいで手が滑り、ケーキの箱の入った紙袋を落としてしまった。
「あ!」
 慌ててそれを拾い、中の箱を見る。
 大丈夫・・・・・そんなに高さなかったし、簡単に崩れるようなケーキじゃないし・・・・・
「それ・・・・・もしかしてプレゼント?」
 美作さんの声にはっとして顔を上げれば、優しくあたしを見つめる瞳。
「う・・・・・うん。でも、あの、大したもんじゃないの、全然・・・・・」
 恥ずかしくなってぺらぺらとしゃべり出したあたしの手から、美作さんがその紙袋をさっと取り上げた。
「あ!」
「何?これ。甘いにおいするけど・・・・・もしかしてケーキ?」
 もう、観念するしかない。
「・・・・・そう。美作さんのお母さんみたいに上手じゃないけど・・・・・・」
「へえ、手作り?開けていいか?」
「う、うん・・・・・」
 どきどきしながら、目の前で美作さんが箱を開けるのを見つめる。
「へえ、良くできてんじゃん。もしかしてフォンダンショコラ?」
 嬉しそうに微笑む美作さん。
 どきんとあたしの胸が高鳴る。
「あの、あんまりおいしくないかもしれないけど・・・・・その・・・・・」
「ん?」
 優しい笑みをあたしに向ける。
 その微笑に励まされるように、あたしは美作さんを見つめた。
「・・・・・誕生日、おめでとう・・・・・」
 それだけ言うのがやっと。
 もう、沸騰寸前だった。

 ふわりと、美作さんの香りに包まれて。
 気がついたら、優しい腕に抱きしめられていた。
「サンキュ・・・・・すげえ嬉しい」
 耳元に聞こえる優しい声が、くすぐったかった。
「今まで生きてきた中で・・・・・一番嬉しい誕生日だよ」
「大袈裟・・・・・・」
「じゃない。本当に、嬉しいんだぜ。このまま、離したくなくなるくらい・・・・・・・」
 抱きしめられる腕に、力が込められたのがわかる。
「み、美作さん、あの・・・・・・」
「ん・・・・・?」
「み・・・・・見られてる、から・・・・・・」
「大丈夫」
「へ・・・・・?」
 大丈夫って、何が?
 そう聞こうとして顔を上げた途端、美作さんの唇がそれを塞ぐ。

 黄色い声が、遠くで聞こえた気がした。

 長いキスの後、唇を開放されて。

 優しい瞳で見つめられて、甘い声で囁かれた。

 「俺には、お前しか見えてないから・・・・・」

 だからあたしも。

 「あたしにも、美作さんしか見えない・・・・・」

 そうしてまた、ゆっくりと抱きしめられて・・・・・・・

 その香に、酔いしれた・・・・・・。









お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪