*このお話は、「導火線・類つく編」から続くお話になります。
こちらのお話だけでもお読みいただけますが、より詳しい内容をお知りになりたい場合は、「導火線・類つく編」からお読みくださいませ♪
-rui-
「花火大会?」
思わず聞き返すと、牧野が嬉しそうに頷いた。
「そう。明日なんだけど、類と一緒に行きたいなって思って」
瞳を輝かせながらそう言う牧野はまるで子供みたいで、自然と頬が緩む。
「もちろん、いいけど。でもすごい人じゃないの?」
「それがね、西門さんが穴場を知ってるから連れて行ってくれるって」
「―――総二郎?」
ぴたりと足を止める俺に、牧野はまだ気付かない。
少し先を歩きながら、楽しそうに声を弾ませる。
「西門さんがよく知ってる料亭らしいんだけどね、窓からその花火大会の様子がばっちり見える部屋があって、そこを毎年借りてるんだって。いつもは彼女を連れて行ってるらしいんだけど、今年はあたしたちを連れて行ってくれるって―――」
そこまで言ってようやく牧野はくるりと振り向き、俺が立ち止まっているのに気付いた。
「類?どうしたの?」
パタパタと駆け足で戻ってくる。
「―――総二郎に誘われたの?その花火大会」
俺の言葉に、牧野の表情が一瞬はっとしたものになる。
「うん、あの、類と2人でくればって・・・・・」
慌ててそう説明する牧野に、他意はないってわかっているけれど。
総二郎は、今でも牧野のことが好きだ。
牧野の望みだから。
友達として、ずっと牧野の傍にいると。
そう言っていた総二郎はその言葉通り友達の枠を守りながらもずっと牧野の傍にいる。
2人の関係は『友達』だけれど、総二郎は牧野のことを思い続けていて、その証拠に、いまだに彼女を作らない。
大学ではほぼずっと牧野の傍にくっついてるし、牧野も総二郎のことを信頼しきっている様子が見ててわかり、俺がいないときに2人きりでいるのを見たあきらが『ラブラブなバカップルにしか見えなかった』と言っていたくらいだ。
彼氏である俺が多少嫉妬したとしても仕方がないだろう。
「―――牧野を、誘いたかったんじゃないの?」
俺の言葉に、牧野が困ったように眉を寄せる。
「そんなことないってば。最初から、類と2人でくればって言ってたんだから」
その言葉を、信用しないわけじゃないけれど・・・・・。
「類?あたし・・・・・類以外の人とは、見に行かないよ?」
俺の顔を覗き込みながら、恥ずかしそうに頬を染めてそう言う牧野に。
俺はちょっと驚きながらも・・・・・
嬉しくて、その頬にすばやくキスをした。
「行くよ。俺だって、牧野以外のやつとは見に行かない」
その言葉に、嬉しそうに微笑む牧野。
そんな牧野の肩を引き寄せて・・・・・・
放課後のキャンパスをゆっくりと歩いたのだった・・・・・。
「よお、来たな」
俺も名前だけは良く知っている有名な高級料亭へ行くと女将みずからに案内され、奥の部屋へ行く。
そこではすでに来ていた総二郎とあきらが寛いでいた。
花火大会まではまだ時間があり、とりあえず俺たちは4人で食事を楽しむことにしたのだ。
「類、牧野を親に紹介したって?」
あきらの言葉に、俺は頷いた。
「うん。先週帰ってきたからね。けどもう知ってたみたいだよ。俺の知らない間に牧野の家族まで招待してて、フランス土産なんか渡してた」
「へえ。じゃあ問題ないのか?」
意外そうに目を見開くあきら。
「たぶんね。母親は、ずいぶん牧野と牧野の弟を気に入ってたみたいだよ。俺にも弟か妹を作ってやれば良かったなんて言ってた」
俺の言葉を聞いて、牧野がくすくす笑う。
「進なんて、めちゃくちゃ緊張してたよ。類のお母さんてすごくきれいで・・・・・パパも見惚れてたし」
花沢の家でカチンコチンに緊張していた牧野一家を思い出し、俺も思わず笑いを漏らす。
「面白かったよ、すごく。父親もすごく珍しいもの見れたみたいな顔してたし。また日本に帰ってきたときにはもっといろんな話がしたいってさ」
「へえ。良かったじゃん。類の両親にそこまで気に入られたんならもう何の障害もねえだろ」
総二郎が穏やかに微笑む。
「最近のお前ら、幸せそうだもんな。特に牧野・・・・・。良かったな」
その言葉に、牧野が総二郎を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。
「うん・・・・・。ありがとう、西門さん」
2人の視線が絡み合い、一瞬、2人きりの空間が出来上がる。
2人にしかわからない、心の交流。
悔しいけれど、このときばかりは俺も2人の邪魔はできなかった。
「―――まだ、礼を言うのは早いぜ?言っとくけど俺のきもちはまだ変わっちゃいねえから。お前らが結婚しても、離れるつもりはねえから覚悟しとけよ」
一転、にやりと怪しげな笑みを浮かべる総二郎に、牧野が目を丸くする。
「は?」
「今の花沢低に住むのか、新居を構えるのかはしらねえけど。俺の計画ではその近くにマンションでも買って通い詰めるつもりでいるから。『花沢婦人の第2の夫』ってとこか?」
「冗談じゃないよ」
思わず顔を顰める。
「少なくとも、俺がいない間に上がりこむのだけは勘弁して欲しいね」
「そう言うなよ。夫の留守に妻の愛人が入り浸って・・・・・なんて、昔の昼メロみたいでスリルあんじゃね?」
「総二郎!」
じろりと睨む俺の視線を、気付かない振りでかわす総二郎。
隣にいた牧野はおろおろと俺たちの顔を見比べ、その様子を見ていたあきらが耐え切れなくなったように吹き出した。
「お前ら、サイコーにおもしれえ。もったいないからずっとその関係続ければ。見ててあきねえよ」
「美作さん!人事だと思って!」
「人事だし。ま、マジで揉めたら牧野は俺んとこくれば。2人ともあわくって迎えに来ると思うぜ」
くすくすと楽しそうに笑って言いながら、あきらはちらりと時計を見た。
「おっと、そろそろ時間だ。わりいけど俺はこれから彼女と約束だから、またな」
そう言ってあきらが立ち上がると、総二郎もそれに習うように立ち上がった。
「あれ、西門さんも?」
「ああ。2人の邪魔はしねえよ。ここには誰も近寄らないように言ってあるから、後は2人でゆっくりしろよ。じゃあな」
2人が行ってしまうと途端に静かになる。
さっき、ちらりと総二郎が俺を見た視線がどことなく意味深で・・・・・・
俺は、ふすまで仕切られた隣の部屋を、なんとなく見つめた。
「そろそろ始まるかな」
牧野がそう呟いたときだった。
ドーンという腹に響いてくるような音とともに、夜空に大輪の花が咲くように花火がその光の花を咲かせた。
「すごーい、こんなに近くで花火見てるのに、何も邪魔するものがないなんて・・・・・。西門さんに感謝しなくちゃ」
嬉しそうにそう言う牧野を、なんとなく恨みがましい目で見る。
と、それに気付いた牧野が俺を見つめ、ふっと笑った。
「それから、類にも」
「俺?何で?」
「だって・・・・・類とじゃなかったら、きっとこんな幸せな気持ちにはならないから・・・・・。今、すごく幸せなのは、類のおかげだもん」
そっと、俺の胸に頭をもたせ掛ける牧野。
俺はそんな牧野の肩をそっと抱いた。
「それを言うなら俺も・・・・・。牧野が隣にいてくれるだけで、見るものすべてが新鮮で、こんな楽しい気分になれるって、自分でも知らなかった。―――ありがとう」
ゆっくりと2人の唇が合わさる。
次々に打ち上げられる花火に照らされた牧野の頬と、花火の光を映す潤んだ瞳。
ずっと一緒にいられれば、他のものは何もいらない。
そんな風に思えるたった1人の女だ・・・・・。
「―――花火大会が、終わるまで待てないかも」
俺の言葉に、牧野がきょとんと首を傾げる。
「何を?」
「隣の部屋・・・・・泊まれるようになってるって知ってた?」
ちらりと隣の部屋に視線を飛ばし、そっと耳元に囁く。
途端に、真っ赤に染まる牧野の頬。
慌てて逃げ出そうとする前に。
しっかりとこの腕の中に捕まえておかなきゃね・・・・・。
fin.
|