Doki Doki!!
「新一おはよう!!」
明るい声に思わず振り返ると、そこには新一の幼馴染、毛利蘭が立っていた。
すぐに返事をしようと思っていたのに、なぜかドキドキして、何も言えないでいた。
「?どうしたの?新一、顔赤いよ?かぜ?」
きょとんとして、首を傾げる蘭。その表情を見て、新一の胸はさらに高鳴る。
「な、なんでもね―よ。早く行こうぜ」
わざとぶっきらぼうに言って、先に立って歩き出す。すぐに隣に立って、蘭が一緒に歩く。
「今日から中学生だねえ。なんかドキドキしちゃうなあ」
無邪気に笑う蘭を、横目でちらりと見る。
―――吃驚した・・・。制服姿なんて、はじめて見たから・・・。
セーラー服を着た蘭は、いつもよりもずっと大人っぽく見えた。
でも、新一はまだこの時、気付いていなかった。自分がなぜ制服を着た蘭を見てドキドキしてしまっ
たのか・・・。
学校に着くと、蘭の親友の鈴木園子が蘭を見つけて駆け寄ってきた。
「らーん、おはよー!!」
「おはよう、園子」
「ね、わたしと蘭、同じクラスよ!」
「ホント!?やったあ!」
蘭が嬉しそうに顔を輝かせる。
その顔を見て、また新一の胸がどきんと鳴った。
「あ、ちなみに新一君も同じクラスよ」
と、園子が新一に気付き、ついでといった感じで付け加える。
「ホント?良かったあ。ね、新一?」
蘭がにっこりと笑いかけてくる。その笑顔が眩しくて・・・でも、素直に嬉しいとは言えず、
「べ、別に俺はどっちでも良いけど・・・」
と言った。
「あ、かわいくなーい、その言い方。ふんだ、良いもんねえ、行こう、園子」
ぷうっと膨れっ面になり、そのまま園子と2人で行ってしまう蘭を、新一はちょっと慌てて追いかけた。
「ちょ、待てよ。どうせ同じクラスなんだろ?一緒に行きゃあ良いじゃんか」
「素直に蘭と同じクラスで嬉しいって言えば良いのにい」
と、園子がくすくす笑って言う。
「バッ、バーロー、んなこと思ってねーよっ」
ドキドキする胸を抑えることができず、新一は顔を赤くしながら2人と一緒に新しい教室へと入って
いった。男子は学ラン、女子はセーラー服というこの中学の制服。別に初めて見るわけではない。それ
に他の女子を見てもなんともない。園子にしても同じだ。なのにどうして蘭を見たときだけこんなにド
キドキするのか・・・。
新一がいくら考えても、その答えは出てこなかった・・・。
「ねえ、蘭どの部活に入るか決めたの?」
入学式も終わり、その翌日。部活の紹介などがあるオリエンテーションを終えて教室に戻る最中、園
子が蘭に聞いた。すぐ側にいた新一も聞き耳を立てる。
「うん、決めたよ」
―――へ?いつの間に?
「へえ、どこ?」
「空手部!」
その蘭の言葉に、園子も新一も目を見開く。
「「空手部!?」」
2人同時に言われ、蘭のほうが戸惑う。
「え?なんか変?」
「何で空手部なんだよ?おめえ、そんなもんに興味あったのか?」
「うん、あのね―――」
「わかった!」
急に園子がにやりと笑っていった。
「蘭ってば、あの人に目ェつけたんでしょう!」
「あの人?」
蘭が首を傾げる。
「空手部の部長よ!神崎さん!今日の部活紹介で来てた人。超かっこよかったじゃない!蘭、あの人が
目当てで・・・」
「やだ、そんなんじゃないよ、わたしは―――」
慌てて否定しようとする蘭の言葉をさえぎり、園子が続ける。
「まあまあ、良いじゃない。彼本当にかっこいいもん。わたしは空手部に入るなんて大胆なことできな
いけどさ、がんばってね!」
「だから、違うってば。わたしは―――」
「あ、もうみんな教室入ってるじゃない。わたしたちも急ごう!」
そう言うと園子は、さっさと教室に入っていってしまった。
「もう・・・」
蘭がため息をつく。
新一は、さっきからずっと黙っていたが、やがてぼそっと呟いた。
「・・・ほんとに、空手部に入るのか?」
「え?うん。―――あ、でも、わたしが空手部に入るのは園子が言ってたような理由じゃないからね」
「じゃ、なんでだよ?」
「だからそれは・・・」
と蘭が言いかけたとき、
「おい、何してるんだ?早く教室に入れ」
と担任の教師に声をかけられ、2人は仕方なく教室に入った。
席に着き、担任が話を始めてからも、新一は蘭のことが気になって仕方なかった。ちらちらと蘭の後
姿に視線を送り、様子を伺う。
―――蘭の奴、何で空手部なんだ?今まで何にも言ってなかったから・・・決まってなかったらサッ
カー部のマネージャー、やってほしかったのに・・・。
新一はもう、だいぶ前からサッカー部に入ることを決めていたし蘭にも話していた。部活は毎日ある
だろうし、今までみたいに一緒に遊んだりすることも少なくなるだろう。だからこそ・・・一緒にいら
れる時間の長いマネージャーをやってほしかったのだ。
でも、そんな風に思っていたのは自分だけだったのか・・・。
そう思うと新一は無性に腹が立ってきた。
―――なんだよ、蘭の奴、俺に何も言わねえで決めやがって・・・。勝手にしろってんだ!
なぜこんなにも腹が立つのかわからない。今まで何でも話してくれてると思っていた蘭が、自分に黙
っていたこと・・・。それがなぜだかとても悔しかったのだ。
―――蘭にとって、俺ってなんなんだ・・・?
いらいらと蘭の後姿を見つめる新一。しかしその問いは、逆に自分にとって蘭はなんなのか、という
問いにもなるということに新一は気付いていなかった・・・。
それから数週間がたち、蘭たち新一年生もようやく中学に馴染み始め、それぞれ仲の良いグループも
できてきた。
「蘭、今日も部活?」
「うん。園子は入る部活、まだ決まんないの?」
「考えてはいるんだけどね―。あーあ、蘭と一緒に帰れないのって寂しい〜」
「ごめんね、園子」
蘭がすまなそうに誤る。
「ま、しょうがないもんね。じゃ、わたし帰るから。がんばってね。空手部」
「うん、ありがと」
蘭はにっこり笑うとちょっと手を振り、胴着を片手に教室を出て行った。
それを見送って、園子はくるりと振り向いた。
そこにはこれから部活に向かうジャージ姿の新一がいた。
園子は新一と目が合うと、にまっと笑った。
「な、なんだよ?」
「ベーつにい?最近良く蘭のこと見てるなあと思って」
「な、何言ってんだよ、見てねえよ、あいつのことなんて!」
「あ、そ〜お?」
相変わらずニヤニヤ笑っている園子。
―――こいつは〜〜。
実際、最近気が付くと目は蘭を追っていた。どうしてこんなに気になるのか。自分でもわからないま
ま、いつも蘭を目で追い、蘭の表情1つ1つにドキドキしているのだ。
「あんたもがんばってるみたいね。サッカー部。レギュラー取れそう?」
「さあな。1年でレギュラーなんてそうそう取れねえけど、一応取るつもりでやってっからな」
「ふーん。自信ありそうね。ま、がんばってよ。じゃあね」
「おお」
教室を出て行く園子のあとから、部活に向かう新一。何はともあれ今は部活に集中だ。
そう気持ちを切り替え、グラウンドに向かう新一だった。
その日の帰り。
新一は同じサッカー部の友達と歩いていた。
「そういえば、工藤と毛利って幼馴染なんだろ?」
「ああ」
「いいよなあ。あんな可愛い幼馴染がいてさ」
「べ、べつに・・・」
「俺の友達で空手部に入った奴がいてさあ、なんか毛利に気があるみて―で・・・」
その言葉に、新一の足がぴたっと止まった。
「―――誰だよ?それ」
突然顔色が変わり、低い声で言う新一にその友達は吃驚し、思わず後ずさりした。
「え、えーと、あの、な、永瀬って奴だけど・・・別に、本人に聞いたわけじゃねえんだけど、その・・・」
「―――わりいけど、先に帰っててくれ。俺、忘れ物したから」
と言うと、新一はパッと身を翻し、学校へと戻って行った。
残された友達は、わけもわからずその場に突っ立っているしかなかったのだった・・・。
―――なんなんだよ、そいつ!蘭に気があるだって?ふざけんなってんだっ、蘭は俺の・・・
そこまで考えたとき、新一の足が止まった。いつのまにか、空手部の部室の前まで来ていた。そこか
ら出てくる人影。あれは・・・
―――蘭!
新一はとっさに物陰に隠れた。別に隠れる必要はなかったのだが、反射的に隠れてしまったのだ。
蘭は、男子生徒と2人、歩いてきた。
―――あいつ、確か園子が言ってた部長の、神埼とかいう奴・・・。何であいつが蘭と?
蘭と神崎が何か楽しそうに話しながら歩いている。その光景を見ることが、なぜかとてもつらかった。
蘭の隣にいるのは、いつも自分のはずだったのに・・・。そんな思いが新一の中に渦巻いた。
―――なんでそんなに楽しそうに話してんだよ?何でそいつにそんな笑顔見せるんだよ!?
「え?本当ですか?部長!」
蘭の弾んだ声が聞こえる。
「ああ、今度連れてってやるよ。前田さんの試合。俺もあの人にはずっと憧れてるんだ」
「やった♪ありがとうございます、部長!」
嬉しそうに笑う蘭・・・。居た堪れなくなった新一は、その場から逃げるように立ち去ったのだった
・・・。
その日、新一はなかなか寝付くことができなかった。
蘭が、神崎と話している光景が、頭から離れない。楽しそうに話し、笑う蘭。いつもはほっとするそ
の笑顔が、他人に向けられただけで、なぜこんなにもいらいらするのか・・・。いくら考えても答えは
見つからず、じっとしていられなくなった新一は気分を変えようと外に出て、夜の街をぶらぶらと歩き
回った。
4月、もうだいぶ暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ寒い。そんな寒い中をポロシャツにジーパン
という軽装で歩いていれば、風邪を引きそうだったが、今の新一はそんなことを気にしている余裕もな
かった。ただ、頭に思い浮かぶのは蘭の顔ばかり。無邪気な笑顔、ちょっと拗ねたような顔。気が強い
くせに泣き虫で、そんな泣き顔を見せるのも自分の前だけだと思っていた・・・。でも、蘭にとっては
俺は別に特別じゃなかったんだろうか。小さい頃からずっとそばにいて、誰よりも蘭のことを知ってい
ると思ってたのに・・・。
そんなことを考えながらずっと歩いていて・・・自分の体がすっかり冷えてしまっていることに、新
一は気付かなかった・・・。
翌日・・・。案の定、風邪を引いてしまった新一はベッドの中で、重い体を起こした。
「あったまいてえ〜〜〜」
ズキズキする頭を手で抑え、ベッドから出ようとするが、思うように体が動かない。
「やべ・・・」
さすがに学校は休んだほうがいいかな、と思っていると、突然部屋のドアが開いて、吃驚してそちら
を見る。
「新一?どうしたの?」
ひょっこり顔を出したのは、心配そうな顔をした蘭だった。
「ら、蘭?どうしたんだよ?」
「どうしたって・・・呼び鈴鳴らしたのに誰も出てこないし、鍵が開いてるから何かあったのかと思っ
て・・・」
「え・・・鍵、開いてたか?」
「うん。無用心だよ?ねえ、おば様とおじ様は?」
「あいつらは取材旅行で来週まで帰ってこねえよ」
「え、そうなの?新一大丈夫なの?ご飯とかちゃんと食べてる?」
「ああ、適当に買ってきて食ってるよ」
「適当って、それじゃ・・・あれ?新一・・・具合悪いの?」
「ん、ああ・・・ちょっとな。ただの風邪だよ。今支度すっから・・・」
と言って、新一はベッドから降りようとして、不意に体がよろけた。
「!!し、新一、大丈夫!?」
慌てて蘭が駆け寄ってきて、新一の体を支える。その拍子に蘭の髪がふわりと新一の頬に触れ、シャ
ンプーの微かな匂いが鼻を擽った・・・。
ドキンッ
新一の心臓がとたんに大きく音を立てる。その音が蘭にも聞こえてしまうんじゃないかと思って、新
一は慌てて蘭から離れた。だが、蘭は新一の腕を抑え、新一の顔に自分の顔を近付け、その額に自分の
額を当てた。
「すごい熱、あるじゃない!!こんなんで学校なんか行けるわけないでしょう?」
と蘭は怒ったように言う。新一は、その熱とは違う理由で体が熱くなるのを感じ、言葉が出てこなか
った。
「今日は休まなきゃ駄目よ。先生にはわたしが言うから・・・。新一、風邪薬ある?」
「―――確か、下の部屋に・・・」
「大体わかると思うから、探して来て良い?」
「ああ」
「じゃ、ちょっと待っててね」
そう言うと、蘭は部屋を出て行った。
新一は大きくため息をつき、ベッドに倒れこむように寝転がった。
―――なんだ、これ?何で蘭の額が触れただけで、こんなにドキドキするんだ?風邪のせいかな・・・。
やがて蘭が、薬とおかゆを持って部屋に戻ってきた。
「・・・おい、そのおかゆ、今作ったのか?」
新一が目を丸くして言う。
「まさか。レトルトパックのおかゆがキッチンの棚に入ってたの。なにか食べてから薬飲んだほうが良
いから」
そう言うと、蘭は新一の前におかゆの載ったお盆を置いた。
「無理して全部食べなくても良いけど・・・。食べれるだけ食べて、お薬飲んだらおとなしく寝てるの
よ?」
「―――おめえはもう行くのか?」
「うん。今日、朝練あったの。もう今からじゃ間に合わないけど・・・。帰りにまた寄るから。ちゃん
と寝てなきゃだめだよ?本ばっかり読んでたら良くならないからね?」
「わかってるよ。―――ごめんな、蘭、朝練休ましちまって・・・」
と新一が言うと、蘭はにっこり笑って、
「良いよ、別に。じゃあね」
というと、部屋から出て行ってしまった。パタパタと階段を下りる音、ドアを開ける音が聞こえ・・・
やがて家の中はまた静かになった。どうしようもなく、寂しい気持ちになってくる。それでも新一は蘭
に言われたとおり、おかゆを半分ほど食べ、薬を飲むとベッドに横になった。そっと目を瞑ると、さっ
きの蘭の笑顔が瞼に浮かび上がる。無邪気なのに、優しく包み込むような笑顔・・・。
―――あいつ、あんなに可愛かったっけ・・・。
「らん・・・」
その名を呟いてみる。いつのまにか、自分の中で大きくなっていた蘭の存在。
誰にも渡したくない。その笑顔も、声も、すべて自分のものしたい・・・。
初めて自覚した独占欲。それは蘭だけに向けられた想い。ただの幼馴染なんかじゃない、自分だけの
特別な存在・・・。
「らん・・・」
やがて、薬が効き始め、新一は深い眠りの中へと誘い込まれて行った・・・。
ふと、人の気配に目が覚める。
「あ、ごめんね、起こしちゃった?」
ひょいと、蘭の顔が覗き、新一の心臓が跳ね上がった。
「布団が捲れてたから、直したんだけど・・・」
「―――おめえ・・・学校は?―――まだ昼くらいじゃねえか?」
と言うと、蘭はちょっときょとんとしてから、くすっと笑った。
その表情に、また新一の胸の鼓動が早くなる。
「今日は土曜日だもん」
「あ、そうか・・・。けど部活は?」
「今日は休ませてもらったの」
そう言うと蘭は、新一の額にその手を置いた。
「―――少しは下がったかな・・・。ね、何か食べる?」
「あんま、食欲ねえけど・・・」
「でも、少し食べてまた薬飲まないと。卵粥とか、作ろうか」
「―――作ってくれんの?」
「うん。ちょっと待っててね」
と言って立とうとする蘭の手を、新一がとっさに掴む。
「?何?」
「あ、その・・・ごめん。部活・・・休ませて」
「どうしたの?今日は新一良く謝るね。別に良いのに。部活より、新一の体のほうが心配だっただけ」
こともなげに言って笑う蘭が、眩しかった。
「おめえさ・・・」
「ん?」
「その・・・なんで空手部に入ったんだ?」
「え?」
突然聞かれた内容に、蘭は目をぱちくりさせる。
「ほ、ほら、俺、まだ聞いてねえし・・・」
「・・・笑わないで聞いてね?」
「笑わねえよ」
「新一は探偵になりたいんでしょう?」
「?ああ」
「でも、探偵って危険なこともあるじゃない」
「そうだな」
「危なくなったとき・・・わたしでも新一を助けられる方法ってないかなって思って・・・」
「・・・・・」
「それで・・・ね」
ほんのり頬を染めて照れくさそうに話す蘭。新一は予想もしていなかったことに、言葉が出てこない。
「じゃ、じゃあわたし、おかゆ作ってくるね」
と言って、蘭はそそくさと部屋を出て行った。
―――俺の、ため・・・?
じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
―――そっか・・・。俺のため、だったんだ・・・。
そのまま幸せに浸りそうになったとき、ふと思い出した。
―――そういや、蘭の奴・・・
「お待たせ、新一」
湯気の上がった卵粥と水の入ったコップを盆に載せ、蘭が部屋に入ってくる。
「サンキュー」
「まだ熱いから、気をつけてね」
「ああ」
そう言って新一は蓮華を持ったが、そのまま動きを止め、じっと黙ってしまった。
「?新一?どうしたの?食べたくないの?」
蘭が心配そうに顔を覗き込む。
「おめえさ・・・」
「ん?」
「あの、部長と・・・その・・・」
「部長?って、神埼先輩のこと?」
「ああ。その人とさ、その・・・どっか行く約束とか、してんの?」
「ええ?どうして?」
蘭が吃驚して目を見開く。
「あ、いやその・・・」
新一はどう言ったものか悩み、口を噤んだ。
「・・・もしかして、新一昨日空手部の部室の前にいた?」
「!!き、気付いてたのか?」
「んー・・・なんか、誰かいたような気がしたの。あれ、新一だったんだ。それで、わたしと部長の話
聞いてたの?」
「う・・・ていうか、たまたま聞こえて・・・で・・・どうなんだよ?」
なんとなくばつの悪い思いをしつつ、それでも思い切って聞いてみる。
「うん。約束はしたけど・・・」
―――やっぱり・・・。
新一は心臓を鷲づかみにされた気分で、ぎゅっと拳を握り締めた。
「でも、2人じゃないよ」
「―――へ?」
続けられた言葉に、新一は思わず間抜けな声を出し、蘭の顔を見た。
「空手部のみんなで一緒に行くの。前田さんってね、去年の空手の全日本チャンピオンなの。その人の
試合をみんなで見に行こうって話をしてたの」
「あ・・・そう・・・なんだ・・・」
気の抜けたような新一に、蘭はにっこりと笑いかけ、
「昨日もね。あれから空手部のみんなで帰ったの。最後は家が近い隣のクラスの女の子と2人になった
けど。みんなとわいわい話しながら帰るの、楽しかったよ」
「ふーん・・・」
「でも・・・」
「でも?」
「・・・新一と帰れなくなるのは、ちょっと寂しいかな。時々は、一緒に帰ろうね」
無邪気に笑う蘭の笑顔が眩しくて・・・新一は胸のドキドキを抑えることができなかった。それでも、
言ってくれたことが嬉しくて、こくんと頷き、
「ああ、そうだな・・・」
と言ったのだった・・・。
蘭にとって、自分はまだただの幼馴染。だからこそ、簡単にあんな台詞も言えるのだろう。
今はまだ、このままでいい。蘭の隣にいられるのなら・・・。
でも、いつか絶対その瞳を俺だけに向けさせて見せる。
蘭の隣にいるのは、いつでも俺でありたい。他の奴になんか、譲れない。どんなことがあっても・・・。
そして、いつかこのドキドキを共有できるようになりたい。
蘭のドキドキの相手が俺であるように・・・。
きらきらした瞳で楽しそうに話をする蘭を見つめながら、新一はそう思わずにはいられないのだった・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この作品はキリ番6666をゲットして頂いたリロ様のリクエストによる作品です。
新一が蘭ちゃんを好きだと気付き始めた頃のお話ということで・・・。
新一君のせつない気持ち、伝わりましたでしょうか?結構難しいですね。何がって、中学生の心理が、
ですね。今の中学生って、彼氏なんかいてあたりまえなのかな、とか言葉使いとかどうなんだろう?
といろいろ考えながら書きました。ほんとは新一が蘭ちゃんを好きだと気付いたのって、もっと前かな
、とも思ったんですけどね。でも、思春期のお話のほうが入りやすいかなあと思って中学生にしちゃい
ました。新ちゃんのドキドキが伝わったら嬉しいです。感想とかありましたらBBSのほうへお願いします♪
