「あのさ」
照れくさそうに頭をかく翔太。
微かに染まった頬が、爽子にも伝染する。
「なあに?風早くん」
「それ」
「え、どれ?」
「名前―――呼んでみない?」
「名前―――?」
理解できずに首を傾げる爽子に、翔太はいよいよ真っ赤になって続ける。
「だから、その―――翔太って―――」
「え―――え―――!?」
ようやくその意味を理解し、今度は翔太以上に真っ赤になる爽子。
「そ、そそそれは―――っ、無、無理っ、というもので―――」
「なんで?」
「なんでって、その、恥ずかしいし―――」
「―――じゃあ、俺が黒沼のこと名前で呼んだら、黒沼も呼んでくれる?」
「え―――」
心臓の音が、聞こえてしまうんじゃないかと思った。
翔太の顔を見上げれば、翔太も真っ赤な顔で―――
でも、その瞳はどこまでもまっすぐで、真剣で―――
「爽子・・・・・」
初めて呼ばれた名前は、まるで魔法の呪文のように、爽子の心をピンク色にした―――。
「爽子・・・・・俺のことも、名前で呼んで」
強請るように、じっと瞳を見つめられて。
そらすことなど、とてもできなかった。
「―――た」
「ん?」
「―――うた、くん」
「―――聞こえない。ちゃんと、言って。俺に聞こえるように―――」
恥ずかしくて思わず下を向いてしまう爽子の顔を、翔太がのぞきこむように身をかがめる。
「爽子。呼んで」
「―――翔太、くん―――っ」
くすりと、翔太が笑う。
「翔太で、いいのに」
「む、無理、もうこれ以上は―――っ、限界―――っ」
顔から、火が出そうなほど恥ずかしかった。
でも、次の瞬間、爽子の体はふわりと抱きしめられていて。
「―――うん、ありがと。嬉しいよ―――」
耳元で聞こえる翔太の声は、どこまでも甘かった―――。
|