***Present of memories 〜つかつく〜***



   今日はあいつのバースデーなのに。

 せっかくあいつが帰ってくるっていうのに。

 ろくなプレゼントも用意できないなんて。

 あたしは、今日何度目かわからない溜息をついた。

 『いいじゃないですかー、私をあ・げ・る!とか言っちゃえば!』

 なんて桜子には言われたけれど。

 そんなこと、このあたしにできるはずがない。

 「も〜、どうしよう」
 一応、候補は考えてみたんだ。
 だけど、今や世界の道明寺司となりつつあるあいつに、こんなもの―――と思うと、渡す気になれない。
 それでも一応バッグの中に忍ばせて。
 待ち合わせ場所に指定されたホテルのバーで、あいつが現れるのを待っていた。

 そして

 「お前、なに葬式みてえな面してんだよ!」
 現れた道明寺が、あたしを見て顔をしかめる。
「あ―――ひ、久しぶり」
「久しぶり、じゃねえだろ!人の誕生日にしけた面しやがって」
 そうぼやくと、どっかと椅子に座りこむ。
 オーダーを取りに来たウェイトレスにコーヒーを頼み、再びじろりとあたしを睨む。
 けれど、その瞳はどこか心配そうに揺れていて。
「何か、あったか?」
 その声は、とても優しくて。
 あたしは慌てて首を横に振る。
「違うの、ごめん、そうじゃなくて―――」
「なんだよ、今更何言われても驚かねえから言ってみろ」
 そんな風に優しく言われるから、涙がこぼれそうになる。
「―――別れるなんて、言わねえだろ?」
「まさか!」
「だったら、言ってみろよ」
 そう言って、ふっと微笑む道明寺を見て。

 なんだかプレゼントのことでいろいろ悩んでいた自分がバカらしくなってきた。

 だって、こんなに近くに大好きな人がいるのに。

 ようやく会えた人なのに。

 悩んでるなんてもったいない。

 「―――誕生日、おめでとう」
 あたしはそう言って、バッグの中からスカイブルーの紙できれいにラッピングした箱を取り出した。
「これ―――一応、プレゼント」
「なんだよ、一応って」
 顔をしかめながらも、それを受け取る道明寺。
「開けて、がっかりされるとやだし。もし気に入らなかったら―――何か他のもの用意するから」
「ずいぶん弱気だな。―――開けていいか?」
「う、うん」

 道明寺が、ラッピングの紙を開いていく。

 柄にもなくドキドキしてしまう。

 そして、中の箱の蓋を開けた道明寺の瞳が、驚きに見開かれる・・・・・。

 「あの―――一応前よりはね、うまくできたと思うんだよ。今回はちゃんとオーブン使ったし!」
 そう言ってあたしは握り拳を作る。

 そう。

 あたしはプレゼントに、あの道明寺の顔型クッキーを作ってきたのだ。  

 高校生の頃、初めて道明寺のために自分で焼いたクッキー。

 魚なんかを焼くための網焼き器を使ったから、魚臭いしところどころ焦げちゃってたけれど。  

 それでもあたしなりに気持ちを込めて焼いたクッキーを、道明寺はとても喜んでくれた。

 会いたくても会えない日々が続いて。

 あの頃、苦もなく毎日のように学校で会っていたことが懐かしくなって。

 無性に作りたくなってしまったのだ。

 にしても、20歳の男にこれはどうなんだろうと、さすがに躊躇してしまったのだ・・・・・。

 じっとクッキーを見つめ続ける道明寺に、あたしは不安になってくる。

 「―――ねえ、何か言ってよ。気に入らないんだったら何か別のもの―――」
 そう言いかけたあたしの言葉を遮るように。
「ばーか」
 そう言って、道明寺は持っていた箱の蓋を閉めた。
「こんなもの、俺以外の誰が食うんだよ」
「だ―――誰って、あたしが食べるわよ。進にあげたっていいし」
「だめだ」
 ピシャリと否定する道明寺。
「だって・・・・・いいの?そんなプレゼントで」
「当たり前だろ」
 そう言って、にやりと笑って。
「最高のプレゼントだよ。俺にとっては―――これ以上のものはない」

 その言葉に。

 不覚にも、涙が零れてしまった。

 「泣くなよ」

 言われて、あわてて涙を拭うけれど。

 あとからあとからあふれ出てくる涙は止めようがなくて。

 「馬鹿・・・・・あんたがそんなこと言うから」
「本当のことだ。俺にとっては、何よりもうれしいプレゼントだ。お前の―――今の気持ちが、いやってほど伝わってきたからな」
「あたしの気持ち―――?」
「ああ。俺が好きで好きでしょうがないって気持ちがな」
「―――自信過剰よ」
「そうか?けど、いいんだ。俺はずっとそう思ってるから」

 そう言って本当にうれしそうに笑うから。

 あたしもつられて笑った。

 どんなものよりも、気持ちのこもったプレゼント。

 誰にもあげられない。

 あなたにしか、あげられないプレゼント―――。


                         fin.







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