パーティーの主役は、美作あきら。
20歳の誕生日はまた特別だ。
光沢のあるブルーグレーのスーツに身を包んだ彼は一層華やかで、彼の周りにはここぞとばかりに着飾った女性たちが群がっていた。
「―――近づけないっつーの・・・・・」
溜息とともに、そんな言葉が漏れて行く。
「なんで?牧野が彼女なんだから、もっと堂々とあきらの隣にいればいいのに」
そう言って、いつものようにあたしの横で類が笑う。
「だって―――さっきもちょっと話しただけですごい目で睨まれたもん。怖くって」
「らしくねえこと言ってんじゃん」
そう言ったのは、さっきから知り合いらしいたくさんの女性の相手に忙しい西門さん。
「いつもだったらそんなの蹴散らしてんじゃん」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。一応今日はドレスだって着てるし、美作さんのご両親だっているし―――。みっともないとこ見せらんないよ」
「ふーん?やっぱらしくねえなあ」
不思議そうに首を傾げる西門さん。
あたしは西門さんから目をそらし、少し離れたテーブルで来客の相手をしている美作さんをちらりと見た。
なんとなく、そばに行きづらい。
それは、さっき西門さんに言った理由もあるのだけれど、それ以外にも一つ―――。
―――おにいちゃまのお嫁さんになる人が来るんですって。
双子の方割れ、絵夢ちゃんがそう教えてくれた。
お嫁さんになる人。
つまり、そういうことなんだと、思うしかなかった。
本当は美作さんの口からちゃんと聞きたかった。
だけど、さっきから彼の周りには絶えず人がいて、近づくのもためらわれてしまう。
ついため息が出てしまう。
「牧野、具合悪い?顔色良くないよ」
類が、心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「だ、大丈夫、なんともないよ」
「そう?ちょっと外の空気吸いに行く?」
「あ―・・・・うん、そうだね」
何となく居づらいと思い始めていたのは本当なので、あたしは類の言葉に素直に頷き、類の後について外に出ようとしたのだけれど―――
「おい!!」
ホールを出る寸前、力強い手に腕を掴まれ、あたしは後ろに引き戻される。
「どこ行くんだよ!?」
怒ったようにあたしを後ろから抱き締めたのは、美作さんだった。
「美作さん―――」
「類とどこ行くんだよ?」
「え―――外の空気でも吸いに行こうって―――」
美作さんの勢いに押され、あたしは思わずたじろぐ。
「あきらはホストだから、出れないでしょ」
類の言葉に、美作さんは一瞬詰まったけれど。
「―――とにかく、これからお前紹介しようと思ってるんだから行くなよ」
「え?紹介って―――」
戸惑うあたしの腕を引き、美作さんはまたホールの中央へ―――。
―――何がどうなってるの?
戸惑うあたしの手を引きながら、美作さんがちらりとあたしを見た。
「―――他の男と、消えたりすんな」
その言葉にどきりとして。
だけど。
「な、何よ、自分だって―――」
「は?俺が何?」
「―――絵夢ちゃんに、聞いたんだから」
「絵夢に?何を―――」
その時、美作さんの後ろから美作さんのお母さんが顔を出した。
「あきら君、何してるの?もう皆さんお待ちかねよ」
「あ、ああ、今行く。―――とりあえず、その話は後で聞くから、こっち」
そう言ってまた手をひかれる。
連れて行かれたのは一段高くなったステージの上。
「―――今日は、あきらの誕生日に皆様お集まりいただいてありがとうございます」
美作さんのお母さんがマイクを使って挨拶をすると、ホールからは大きな拍手が沸き起こった。
「今日は、あきらの方からぜひ皆様にお知らせしたいことがあるということなので、耳を傾けていただけたらと思います」
お母さんにマイクを渡され、美作さんがそれを受け取り、みんなの方へと向く。
会場は静まり、美作さんに視線が集まる。
「今日は、僕のためにお集まりいただきありがとうございます。今日は―――皆さんに僕の婚約者を紹介したいと思います」
―――は?今なんて?
「今、僕の横にいるこの牧野つくしさん―――。彼女と、結婚しようと思ってます」
美作さんの腕が、あたしの肩をやさしく抱く。
会場から拍手が沸き起こり、黄色い悲鳴をかき消すように、たくさんの人たちの『おめでとう!』という声が響いてくる。
「―――牧野」
美作さんが、あたしの目をじっと見つめる。
「勝手に話進めて、悪いな」
その言葉にハッとする。
「そ、そうだよ、なんで―――」
「しょうがねえだろ。事前に話しておこうと思ってんのにお前は類とずっと一緒にいるし―――」
「だってそれは、美作さんがずっと女の人に囲まれてて―――」
「そりゃあ、俺のバースデーパーティーだからな」
「そ、それに、今日は美作さんのお嫁さんになる人が来るって、絵夢ちゃんが―――」
その言葉に、美作さんが呆れたようにあたしを見る。
「―――それ、お前だから」
「―――へ?」
「俺が付き合ってるのはお前なんだから、お前しかそんな相手いないだろうが」
だって、そんなこと―――考えもしなかった・・・・・。
呆然とするあたしに、美作さんがふっと笑う。
「ま、今のでずっとお前が暗い顔してたわけもわかったけど」
「だ、だって―――」
「俺にはお前だけ。これからずっと―――俺の誕生日にはいつも、お前に隣にいてほしい」
その言葉に、あたしの瞳から涙が零れおちた。
ずっとそばにいたい。
そう思ったから、あたしはこの人の隣を選んだんだ。
これから先、何があったってずっと―――
「―――誕生日、おめでとう―――あきら」
その言葉に、嬉しそうに微笑み―――
優しくてあったかいキスが、あたしの唇に落ちてきた―――。
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