「風早〜!!」
自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには爽子を肩車している千鶴の姿。
慌てて駆け寄る。
「黒沼?どうしたの?」
「さっきの体育の授業で転んじゃってさ〜。保健室連れてってやってくんない?あたしピンに用事頼まれちゃってるからさ」
「わかった。黒沼、大丈夫?」
「う、うん、あの、ちょっとすりむいただけでたいしたことないから―――」
「ダメ!ちゃんと消毒してもらわないと、バイ菌入ったら足腐るよ!」
千鶴の言葉にぎょっとする爽子。
「ええ!?」
「吉田、脅かし過ぎ。とにかく保健室行こう。消毒ぐらいしておかないと」
「う、うん・・・・・」
保健室には、誰もいなかった。
薬品の並ぶ戸棚にも鍵がかけられていたが、絆創膏や消毒液などは、手前の机の上に乗っていた。
「黒沼、そこ座って。消毒するから」
脱脂綿に消毒液を染み込ませ、爽子の擦りむけてしまった膝に当てる。
「っ―――」
「ごめん、しみるよな?」
「う、ううん、大丈夫・・・・ありがとう、風早くん」
ふと見上げると、そこには至近距離の爽子の顔。
微かに潤んだ瞳と紅潮した頬に、どきりとする。
慌ててまた下を向き、消毒した傷口に絆創膏を貼る。
「―――ありがとう」
「いや、これくらい―――。歩ける?教室戻ろうか」
「うん、大丈夫。次の移動教室、遅れちゃうかな・・・・・・ごめんなさい、わたしのせいで」
「気にするなよ。それより、他に痛いところない?少し休んでいく?」
その言葉に、首を横に振る爽子。
「大丈夫、本当に大したことないから―――。ありがとう、風早くん」
そう言ってにっこりと微笑んだその顔が。
見惚れるくらいきれいで―――
気がついたら、その手を掴んでた。
「―――風早くん?」
不思議そうに自分を見上げる爽子。
その瞳に、自分だけが映っているのが嬉しくて。
少し、独り占めしたくなったのかもしれない。
「どうし―――」
その手を引き寄せて。
バラ色の唇に、そっとキスをした―――。
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