Angel

  3.それぞれの想い


 ケーキ屋を出た蘭と快斗は、快斗の家に向かって歩き出した。
「なあ、そのケーキ、1つ多くねえ?」
 快斗が、蘭が持っているケーキの箱を見て言った。
「え?そんなこと無いでしょ?おば様と、快斗と、わたしと・・・」
「あと1つは?」
 その言葉に、蘭はくすっと意味深な笑みを浮かべた。
「な、なんだよ?」
「もうひとつは青子ちゃんの分よ」
 蘭の言葉に、快斗の頬が赤く染まる。先ほどまで新一に見せていた意地の悪そうな顔とは別人のよう
だ。
「なんで、あいつの分なんか・・・」
「あら、青子ちゃんってケーキ好きでしょう?こういうものは大勢で食べたほうがおいしいし。それに
・・・」
「それに?」
「快斗だって、一緒に食べたいでしょ?」
 その言葉に、快斗はじろりと蘭を睨む。蘭のほうは涼しい顔で前を向いている。
「あのなあ、俺は別にあいつとは・・・」
 顔を赤らめながら文句を言う快斗を、蘭は面白そうに眺め、
「ふーん、そう?」
 と言った。
 青子と言うのは、快斗の家の隣に住む同じ年の女の子だ。快斗の幼馴染で、蘭とも顔なじみ。高校が違
うため、園子や志保たちとは面識がないのだ。その青子のことを、快斗は少なからず想っているのだが、
その想いは青子に伝わってはいない。蘭のほうはそんな快斗の想いに気付いていて、いろいろ気を使っ
てくれているのだが・・・。
 快斗は、こっそりと溜息をついた。
 鈍感で、いまいち子供っぽいところのある青子。実は蘭が快斗の家に同居することになって、1番喜ん
でいるのは青子だったりするのだから、快斗としては複雑だ。少しは、ヤキモチを焼いてくれても良い
のに・・・。
 そんなわけで、最近ちょっと不貞腐れ気味の快斗。自分と蘭を見て、やきもきしている新一についい
やみを言ったりしてしまうのも、そのせいかもしれない。
 
 一方の蘭は、なんだか妙にうきうきしている自分を不思議に思ったりしていた。
 ―――新一さんと、本当はもうちょっとゆっくりお話したかったなあ。この間会ったばっかりなのに
すごく親近感が沸くのはどうしてだろう?まるですごく昔から知っている人みたいに、一緒にいると落
ち着く感じがする・・・。今度、本当に何かお菓子を作って、持っていこうかな・・・。


 そして、こちらはすこぶる機嫌の悪い新一―――。
 喫茶店のテーブルでコーヒーのおかわりをがぶ飲みしているところだった。
 そこへ、ひょいと顔を出したのは・・・
「ちょっとォ、なあんで新一さんがこんなところにいるわけえ?」
 心底驚いた顔で新一の顔を覗き込んできたのは園子である。その後から顔を出したのは志保。
「・・・別に。コーヒー飲みに来ただけだよ」
 そっけなく答えた新一からテーブルに目を移すと、そこには食べ終えたケーキ皿とティーカップが1つ
・・・。
「・・・もしかして、誰かとデートだった?」
 園子の言葉に、新一は肩をすくめた。
「んなんじゃねえよ」
「ご機嫌斜めね。誰かさんに振られたのかしら?」
 新一の向かい側に座って、クスリと笑う志保に、新一の眉がぴくりとつり上がる。
「おめえな・・・」
「あら、図星?」
「え――!うっそー、新一さん、振られたのお!?」
 志保の隣に座りながら大げさにびっくりして見せる園子に、新一の顔が引き攣る。
「そんなんじゃねえ!おめえら、勝手なこと言ってんじゃねえよ!」
「あら、こわい」
 まったくこたえいない顔で肩をすくめる志保ときょとんとした表情で新一を眺める園子。
 新一は溜息をついた。
 ―――こいつらに何言っても無駄、だよな・・・。
「―――おい、志保」
「何?」
「おめえ、蘭さんに妙なこと言うなよな」
「妙なことって?」
「俺が、女をとっかえひっかえ連れてるようなこと、言っただろ」
「あら、まずかった?」
「あたりめえだろ!?人のことプレーボーイみてえに・・・。彼女に誤解されたらどうしてくれるんだ」
 その新一のせりふに、志保と園子は顔を見合わせた。それを見て、新一はしまった!と思ったが、後の
祭で・・・
「ふ―――ん、そういうことなんだァ」
 園子がニヤニヤしながら言うと、志保も意地の悪い笑みを浮かべ、
「それはそれは・・・。なんだったら協力して差し上げましょうか?お兄様」
 と言った。
 新一は引き攣った笑みを浮かべ、
「いや、結構・・・。俺、もう行くから」
 と言って、席を立ったのだが・・・
「あ、ねえ、新一さん。わたしたち、ここでケーキ食べて行きたいんだけどなあ」
「・・・食べてきゃいいだろ?」
「2人じゃ寂しいし、蘭でも呼びましょうか?」
「あ、それ名案vvじゃ、早速電話して・・・」
「・・・・・・これでいいだろ?」
 そう言って、溜息と共に新一がテーブルに置いたのは2枚の千円札・・・。
「あら、悪いわね、お兄様v」
「ほーんと。ご馳走さまァ、新一さんv」
「・・・・・・・・」
 
 喫茶店を出た新一がどっと疲れを感じたりしていたことは言うまでも無く・・・
 この恋を成就させるには、まだまだ苦難の道のりが続くであろうことは容易に想像できたのだった・・・。





  ほんとに久しぶりのupになります。またまた短いお話になってしまいましたが・・・。
楽しんでいただければ嬉しいです♪次回は、何とか2人をもう少し近付けてあげたいですね。