―――絶対行くから、待っててくれ
その言葉を、100%信じたわけじゃない。
だって、めちゃくちゃ忙しい人だから。
今までだって、だめになった約束はいくつもあるし。
だから今回だって予想はしてたの。
高級ホテルの、最上階スウィートで、窓の外の夜景を眺めながら、あたしは溜息をついた。
『ホワイトデーは、2人で過ごそう』
道明寺にそう言われて、有頂天になりかけたあたしだったけれど。
夜中の11時を過ぎたころには、さすがにそんな気分も吹っ飛んでいた。
「―――期待するほうが、悪いよね」
会いたいと、言ってくれただけでも嬉しいのに。
それ以上のことを期待してしまっているあたしがいた。
最初から、こんな約束なかったものだと思えばいい。
そうすれば、こんな悲しい気持ちもなくなって―――
「牧野!!」
突然扉が開き、道明寺が飛び込んできた。
驚いて何も言えず固まるあたしに駆け寄り―――
その力強い腕で、あたしの体をぎゅっと抱きしめた。
「―――悪い、こんなに遅くなって・・・・・」
その言葉を聞いた途端、あたしの目からは涙が溢れ出した。
会いたかった。
声が聞きたかった。
その手に触れたかった―――。
いつからあたし、こんなに欲張りになってた?
「ぎりぎり、間に合ったな」
ほっと息をつく道明寺を、きっと睨みつける。
「ぎりぎりすぎ!後30分しかないじゃん!」
「しょうがねえだろ。これでもめちゃくちゃ急いできたんだぜ」
「あたしが今日1日、どんな気持ちでここにいたと思ってんのよ!?」
「だから、それは―――」
「絶対、許さないんだから!」
そう言って。
あたしは道明寺のシャツをグイっと引っ張り。
その唇に、チュッとキスをした。
呆気に取られ、真っ赤になる道明寺。
「―――ホワイトデーなんだからね」
「お、おお―――」
「遅れた分―――ちゃんと埋め合わせ、してよ」
「何すりゃあいいんだよ?」
途方に暮れたようにあたしを見る道明寺に。
あたしはその目をまっすぐに見つめ返して、言った。
「あんたの時間を、あたしにちょうだい。1時間でもいい、2時間でも―――あたしだけに―――あんたの時間を、ちょうだい」
ずっと1人占めできないことくらい、覚悟はしてる。
だから、少しだけでいい。
あたしだけに―――
「―――馬鹿だな、お前」
溜息とともに零れる言葉。
「何よ、バカって―――」
「頼まれなくたって―――俺の時間はお前のものだよ。ちゃんと―――ずっと、そばにいる」
「ずっとって言ったって―――」
「当分、こっちにいられることになったから」
「え!?」
驚いて、道明寺の顔を見上げる。
にやりと、確信犯的な笑み。
「―――ホント?」
「ああ。だから―――一緒にいられる。明日も、明後日も―――俺の時間は、お前のものだよ」
得意げにそう告げた道明寺の背中に腕を回し、思い切り抱きつく。
道明寺の腕が背中に回る。
固く抱きしめ会えば、もう言葉なんかいらなくて。
あたしの時間はあなたのもの。
あなたの時間はあたしのもの。
そうやって、2人でずっと時間を刻んでいこう。
これからも、ずっと―――
fin.
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