***2010 White day 〜つかつく〜***



   ―――絶対行くから、待っててくれ

 その言葉を、100%信じたわけじゃない。

 だって、めちゃくちゃ忙しい人だから。

 今までだって、だめになった約束はいくつもあるし。

 だから今回だって予想はしてたの。

 高級ホテルの、最上階スウィートで、窓の外の夜景を眺めながら、あたしは溜息をついた。

 『ホワイトデーは、2人で過ごそう』

 道明寺にそう言われて、有頂天になりかけたあたしだったけれど。

 夜中の11時を過ぎたころには、さすがにそんな気分も吹っ飛んでいた。

 「―――期待するほうが、悪いよね」

 会いたいと、言ってくれただけでも嬉しいのに。

 それ以上のことを期待してしまっているあたしがいた。

 最初から、こんな約束なかったものだと思えばいい。

 そうすれば、こんな悲しい気持ちもなくなって―――


 「牧野!!」
 突然扉が開き、道明寺が飛び込んできた。

 驚いて何も言えず固まるあたしに駆け寄り―――

 その力強い腕で、あたしの体をぎゅっと抱きしめた。

 「―――悪い、こんなに遅くなって・・・・・」
 その言葉を聞いた途端、あたしの目からは涙が溢れ出した。

 会いたかった。

 声が聞きたかった。

 その手に触れたかった―――。

 いつからあたし、こんなに欲張りになってた?

 「ぎりぎり、間に合ったな」
 ほっと息をつく道明寺を、きっと睨みつける。
「ぎりぎりすぎ!後30分しかないじゃん!」
「しょうがねえだろ。これでもめちゃくちゃ急いできたんだぜ」
「あたしが今日1日、どんな気持ちでここにいたと思ってんのよ!?」
「だから、それは―――」
「絶対、許さないんだから!」

 そう言って。

 あたしは道明寺のシャツをグイっと引っ張り。

 その唇に、チュッとキスをした。

 呆気に取られ、真っ赤になる道明寺。

 「―――ホワイトデーなんだからね」
「お、おお―――」
「遅れた分―――ちゃんと埋め合わせ、してよ」
「何すりゃあいいんだよ?」
 途方に暮れたようにあたしを見る道明寺に。
 あたしはその目をまっすぐに見つめ返して、言った。
「あんたの時間を、あたしにちょうだい。1時間でもいい、2時間でも―――あたしだけに―――あんたの時間を、ちょうだい」

 ずっと1人占めできないことくらい、覚悟はしてる。

 だから、少しだけでいい。

 あたしだけに―――

 「―――馬鹿だな、お前」
 溜息とともに零れる言葉。
「何よ、バカって―――」
「頼まれなくたって―――俺の時間はお前のものだよ。ちゃんと―――ずっと、そばにいる」
「ずっとって言ったって―――」
「当分、こっちにいられることになったから」
「え!?」
 驚いて、道明寺の顔を見上げる。
 にやりと、確信犯的な笑み。
「―――ホント?」
「ああ。だから―――一緒にいられる。明日も、明後日も―――俺の時間は、お前のものだよ」

 得意げにそう告げた道明寺の背中に腕を回し、思い切り抱きつく。

 道明寺の腕が背中に回る。

 固く抱きしめ会えば、もう言葉なんかいらなくて。

 あたしの時間はあなたのもの。

 あなたの時間はあたしのもの。

 そうやって、2人でずっと時間を刻んでいこう。

 これからも、ずっと―――


                     fin.







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