***White day 〜風爽〜***

 


 翔太は、爽子の姿を探していた。

 今日は3月15日。

 本当は14日に会いたかったのだけれど、翔太にも爽子にも用事があり、会うことができなかったから。

 だから、今日の放課後会って渡したいと思っていたのだけれど―――

 放課後になると翔太はすぐにピンに呼び出され雑用を押し付けられてしまったため、爽子にそれを伝えることができずにいたのだ。

 げた箱にはまだ爽子の靴があったから、帰ってはいないはず。

 でも、教室にはいないし、いったいどこへ・・・・・?

 ふと思い立って翔太は屋上へ足を向けた。

 そして扉を開けようとして。

 そこから聞こえてきた声に、足をとめた。

 「貞子ちゃん、これ受け取ってくれる?」
 それは、三浦健人の声だった。
「師匠―――あの、これは―――」
「今日、ホワイトデーじゃん。だから」

 その言葉に、どきんと翔太の胸が鳴る。

 ―――ホワイトデーだからって―――なんで?まさか、黒沼バレンタインデーに三浦にも・・・・・?

 今年は自分だけが特別だって。

 そう思ってたのに、違った・・・・・・?

 「え、でも、あの―――」
 戸惑ったような爽子の声。
「貞子ちゃんには今までいろんな意味で悪いことしちゃったなって思ってたんだ。これはお詫びの意味と―――それから、お礼」
「お礼・・・・・?あの、あたし師匠に何も―――」
「俺ね、貞子ちゃんと同じクラスになれて良かったと思ってるよ。いろんな意味でね。だから、あんまり深く考えずに、これ受け取っといて」
「でも―――」
「本当はバレンタインデーのときでもよかったんだけど、さすがにあやね達に怒られそうだったし風早に恨まれそうだから。貞子ちゃんが変に誤解されても困るだろうし」
「お、お気づかいどうも・・・・・」
「ははっ、礼言われるようなことじゃないんだけどね。そういうとこが貞子ちゃんだよな」
「え―――」
「―――俺、貞子ちゃんが好きだよ」

 ―――!!

 「貞子ちゃんには、幸せになってほしいと思う。だから、何か困ったことがあったら言ってよ。俺に出来ることなら何でもするからさ」
「あ―――ありがとう」
「ん・・・・・。じゃ、俺もう行くね。こんなとこまで呼び出してごめん」
「いえ、あの、これ、どうもありがとう」
「どういたしまして。じゃ!」

 扉を開け、健人が通り過ぎていく。

 咄嗟に扉の陰に隠れた翔太には気付かず、そのまま階段を下りて行くのを見届け―――

 翔太は、そっと屋上へ出た。

 爽子が、健人から受け取ったらしいかわいらしくラッピングされた袋を開けていた。

 中から出てきたのはきれいなピンク色のハンカチで―――

 「―――かわいい」
 ぽつりと零れた言葉。
「黒沼」
「え?あ!風早くん!」
 ようやく気付いた爽子が、翔太を見る。

 翔太は黙って爽子の傍まで行くと―――

 ポケットから、小さな袋を取り出した。
「―――これ、受け取ってくれる?」
「え―――」
「ホワイトデーだから―――」
 その言葉に、爽子の頬が赤く染まる。
「あ―――」
「受け取って」
 目の前に差し出されたそれを、微かに震える爽子の手がそっと掴む。
「―――開けてみて」
 小さな黒い袋を開け、爽子が中から出したのは―――
「わ―――きれい・・・・・」
 クローバーのネックレス。
 一昨年のクリスマス、爽子が初めて翔太からプレゼントされたストラップに似ていた。
「―――つけさせてくれる?」
「え?でも―――」
「貸して」
 翔太は爽子の手からそのネックレスを取ると、それをそっと爽子の首にかけた・・・・・。

 さらりと、爽子の黒髪に触れるその手に。

 爽子の胸はドキドキと落ち着かない。

 ―――どうしよう。震えてしまう―――

 じっと、身動きも出来ずにいる爽子。

 翔太はネックレスを着け終えてもそのままじっと爽子を見つめ―――

 次の瞬間、爽子の体をぎゅっと抱きしめた。

 「か―――風早、くん?あの・・・・・」
「―――いやだ」
「―――え?」
「俺以外のやつからもらったものなんて―――見たくない」
「あ―――」
「ごめん・・・・・黒沼が悪いわけじゃないってわかってるけど―――でも、いやなんだ。俺、すげえわがまま――――」
「そ、そんなこと―――」
「わがままで、独占欲強くて―――でも、俺のこと嫌にならないで」
「な、ならないよ、なるわけないよ・・・・・」
「うん・・・・・」

 そっと体を離し、真正面から爽子を見つめる。

 翔太の笑顔に、爽子の胸は早鐘のように騒がしく―――

 「好きだよ―――。誰にも、渡したくないくらい―――」

 「風早く―――」

 掠めるように。

 考える間もなく、唇が重なった。

 あっという間の出来事。

 だけど、爽子にはまるで永遠の時のようにも感じられて―――

 涙が、溢れていた。

 「わたしも―――好き―――」

 誰よりも―――

 そして

 再び、2人の影が一つになった・・・・・。


                         fin.







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