「やっべ、すげえ気持ちわりいんだけど」
そう言って、西門さんがベッドに倒れこんだ。
今日はバレンタインデー。
当然のようにたくさんのチョコレートをもらっていたF3。
道明寺に渡してほしいなんて言って持ってくる人もいて、持ち切れないほどのチョコレートをもらった彼らに荷物持ちを頼まれて、西門さんの家まで一緒に来ていた。
「チョコレートの食べ過ぎだよ。一体いくつ食べたの」
帰ってきてからずっとチョコレートを食べ続けてた西門さん。
そんなにチョコレート好きだなんて知らなかった。
そんな西門さんを類と美作さんも呆れたように見ていたけれど―――。
「総二郎、俺用事あるから帰るぜ」
そう言って美作さんが立ち上がると、類も合わせて立ち上がった。
「俺も。牧野、またね」
「え?2人とも帰るならあたしも―――」
そう言って立ち上がろうとしたあたしの手を、西門さんの手が掴む。
「お前はまだいいだろ?なんか用事でもあんのかよ」
「ないけど、でも―――」
「牧野は、まだいれば。総二郎具合悪そうだし、看病してやって」
そう言って、にこりと笑う類。
「ええ?看病って―――ちょっと、類」
軽く手を振り、2人はさっさと部屋を出て行ってしまった・・・・・。
「―――何あれ」
あたしは溜息をつき、あたしの手を掴んだままの西門さんを振り返った。
「そんなに気持ち悪いの?大丈夫?」
確かに顔色はあまり良くないけれど・・・・・。
「―――つくしちゃんは、なんでそんなに俺に冷たいわけ?」
拗ねたようにあたしを見上げる瞳に、あたしは戸惑う。
「冷たいって―――あたしは別に」
「知ってるんだけど」
「何を?」
「―――チョコレート。類とあきらには、渡してただろ?」
「!」
―――いつもお世話になってるから―――
感謝の気持ちを込めて、2人に渡したチョコレート。
だけど西門さんには―――
「なんで俺にはないわけ?」
ギュッと、あたしの手を掴む手に力がこもる。
「それは、だって―――チョコレートなんて、たくさんもらえるだろうし」
「それはあいつらも一緒」
「に、西門さんは彼女からももらえるでしょ、たくさん―――。あたしからのチョコレートなんて、必要ないじゃん」
―――違う。
そうじゃなくて―――
他の人のチョコレートと一緒にされたくなかったんだ。
でも、そんなこと言えない―――。
「―――おれは、お前からもらいたかったんだけど」
その言葉に、どきんと胸が鳴る。
「―――変なこと、言わないでよ」
―――期待、させないで。
「何が変だよ。俺は、お前のチョコレートが欲しいって言ってんの」
上体を起こし、グイっとあたしの手を引っ張る。
「ちょっと―――」
「他の男にはやれて、なんで俺にはなんもねえわけ?他の女からのチョコレートなんて、意味ねえんだよ!」
語気が強くなり、あたしは驚いて西門さんを見上げた。
あたしを見つめる瞳は、いつものクールな瞳じゃなくって、どこか切なげで―――
「―――おれが、他の女からもらったチョコレート食べてても、お前はなんとも思わないわけ?俺に対する気持ちってそんなもんかよ!」
「何―――言って―――」
「俺は―――ずっと、お前のことしか考えてなかった。彼女って、なんだよ。そんなもんいねえよ。とっくに別れてる。俺はお前が―――お前に、惚れてるんだよ」
目をそらさずに、そんなこと言われて。
あたしは、どうしたらいいの?
反応に困っていると、西門さんの、あたしの手を掴む手の力が少し緩んだ。
「―――今朝からずっと待ってんのに、チョコレート持ってくんのはどうでもいい女ばっかりで・・・・・あきらと類はお前からもらってんのに・・・・・少しでも、期待してた俺って馬鹿みてえじゃねえか」
拗ねて、プイと目をそらす西門さん。
そんな姿にも、胸が高鳴る。
「だって・・・・・西門さんがそんな風に思ってるなんて、知らなかったし・・・・・あたしからのチョコレートなんて、いらないと思って・・・・・」
「だから、なんでそうなるんだよ?あいつらにはやってるくせに!」
「それはだって、意味が違うから」
「意味?」
言われて、はっとする。
途端に真っ赤になるあたしの顔を、西門さんが覗き込む。
「―――つくしちゃん?それ、どういう意味?俺、すっごく知りたいんだけど」
にやりと、いじわるな笑みを浮かべて。
「言うまで、帰さねえからな」
じっと見つめられるから、あたしは目も合わせられなくて。
「特別な思いは、だめだと思ったの・・・・・」
「―――何で」
「西門さんにとって、あたしは女の子じゃないと思ってたから―――だから、特別な思いで作ったチョコレートなんて、あげられないって・・・・・・」
「―――あほ」
言葉とは裏腹の、やさしい声。
そして優しい腕にふわりと抱きしめられて。
「そのおかげで、俺がどんだけ落ち込んでたか―――。俺の方こそ、男として見られてねえのかって思ってたのに・・・・・」
「だって・・・・・」
「他の女からのチョコレート食べてても何とも思わないのかって思ったら―――やけ食いもしたくなるっての」
「え―――」
じゃあ、あたしのせいで、あんなにたくさん食べてたの?
気持ち悪くなるくらい・・・・・
なんだか急に、西門さんが可愛く思えてきた・・・・・。
「言っとくけど、今日は帰さねえからな」
耳元に囁かれ、びくりと震える。
「へ?」
「今日1日―――俺をヤキモキさせた責任、取ってもらう」
「責任て、そんなの―――」
文句を言おうとしたあたしの唇を、西門さんの唇が優しく塞ぐ。
そこから流れ込んでくる熱い思いに、あたしの体からは力が抜けて行った・・・・・。
そして彼の腕の中、その温もりに包まれて夢の中にいたあたしの横で。
西門さんは、あたしが作ったちょっといびつなチョコレートを見つめ、やさしく微笑んでいた・・・・・。
fin.
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