***2010 Valentine 〜あきつく〜***



 予想してなかったわけじゃないけど。

 近づくこともできないなんて!

 今日はバレンタインデー。

 昨日から頑張って手作りしたチョコレートを、早速美作さんに渡そうと思ってカフェテリアに来たっていうのに。

 いつもの場所には、4人の姿が見えないほどの人だかりができていて、それぞれの前には女の子たちが列をなしていた―――。

 ―――どうしよう。

 まさか並んでる女の子たちを押しのけて、美作さんの所まで行くというわけにもいかない。

 溜息をつき、その場を後にする。

 とぼとぼと廊下を歩きながら―――

 ―――今日中にこれ、渡せるのかな。

 なんて不安に襲われていたら。

 後ろから伸びてきたきれいな手が、ひょいと持っていた包みを取り上げた。
「あ!!」
 慌てて振り向くと、そこにはさっきまで女の子たちに囲まれていた美作さん―――
「黙ってどこ行く気だよ」
 じろりと横目で睨まれ―――
「だって・・・・・あんなに人がいるのに」
「関係ねえだろ?お前は俺の彼女なんだから、もっと堂々としてろよ」
「そんなこと言われたって―――あとで恨み言言われるのはあたしなんだから」
 つい拗ねてそう言うと、美作さんはくすりと笑い、あたしの頭を撫でた。

 いつもの優しい手。

 あたしの大好きな―――

 「そうしたら、俺が慰めてやるよ。―――で?この中身ってもしかしてチョコレート?」
 ニヤニヤしながらあたしの顔を覗き込んでくる美作さんに、あたしはつい顔をそむける。
「な、なによ、もうどうせたくさんもらったんでしょ?あたしのなんて―――」
「バーカ」
「な―――」
「どんなにたくさんもらったって、お前以外の女からのチョコレートなんて意味ねえだろ。俺が欲しいのはこれだけ」
 にっこりと、満面の笑み。

 ―――ずるいよ。

 普段大人なくせに、こういうときだけ少年みたいな笑顔見せて。

 それが、あたしの前でだけなんて。

 ヤキモチ妬いてた気持ちなんて、どこかに行ってしまう。

 ただ嬉しくて―――

 「―――一生懸命作ったんだからね」
「うん、知ってる」
「大事に食べてくれなきゃ、許さないんだから」
「もちろん」
「それから―――」
「まだなんかあんの」

 首を傾げる美作さんの。

 その肩に手をかけ、ぐいと引き寄せる。

 「お」

 その耳元に、小さな声で。

 「―――大好き、だよ」

 そう告げれば―――

 彼が、嬉しそうに微笑んだ。

 少年のような笑顔で―――





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