予想してなかったわけじゃないけど。
近づくこともできないなんて!
今日はバレンタインデー。
昨日から頑張って手作りしたチョコレートを、早速美作さんに渡そうと思ってカフェテリアに来たっていうのに。
いつもの場所には、4人の姿が見えないほどの人だかりができていて、それぞれの前には女の子たちが列をなしていた―――。
―――どうしよう。
まさか並んでる女の子たちを押しのけて、美作さんの所まで行くというわけにもいかない。
溜息をつき、その場を後にする。
とぼとぼと廊下を歩きながら―――
―――今日中にこれ、渡せるのかな。
なんて不安に襲われていたら。
後ろから伸びてきたきれいな手が、ひょいと持っていた包みを取り上げた。
「あ!!」
慌てて振り向くと、そこにはさっきまで女の子たちに囲まれていた美作さん―――
「黙ってどこ行く気だよ」
じろりと横目で睨まれ―――
「だって・・・・・あんなに人がいるのに」
「関係ねえだろ?お前は俺の彼女なんだから、もっと堂々としてろよ」
「そんなこと言われたって―――あとで恨み言言われるのはあたしなんだから」
つい拗ねてそう言うと、美作さんはくすりと笑い、あたしの頭を撫でた。
いつもの優しい手。
あたしの大好きな―――
「そうしたら、俺が慰めてやるよ。―――で?この中身ってもしかしてチョコレート?」
ニヤニヤしながらあたしの顔を覗き込んでくる美作さんに、あたしはつい顔をそむける。
「な、なによ、もうどうせたくさんもらったんでしょ?あたしのなんて―――」
「バーカ」
「な―――」
「どんなにたくさんもらったって、お前以外の女からのチョコレートなんて意味ねえだろ。俺が欲しいのはこれだけ」
にっこりと、満面の笑み。
―――ずるいよ。
普段大人なくせに、こういうときだけ少年みたいな笑顔見せて。
それが、あたしの前でだけなんて。
ヤキモチ妬いてた気持ちなんて、どこかに行ってしまう。
ただ嬉しくて―――
「―――一生懸命作ったんだからね」
「うん、知ってる」
「大事に食べてくれなきゃ、許さないんだから」
「もちろん」
「それから―――」
「まだなんかあんの」
首を傾げる美作さんの。
その肩に手をかけ、ぐいと引き寄せる。
「お」
その耳元に、小さな声で。
「―――大好き、だよ」
そう告げれば―――
彼が、嬉しそうに微笑んだ。
少年のような笑顔で―――
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