***2010 Valentine 〜風爽〜***

 

 去年は、渡せなかったチョコレート。

 すごくつらくて。

 すごく後悔した。

 今年は、もう後悔はしたくない―――。

 それに、今年は・・・・・

 「ねえ爽子、こんなんでいい?」
 あやねが爽子に溶けたチョコレートを見せる。
 爽子はボールの中を覗き込み。
「うん、いいと思う」
「爽子、こっちは?」
 千鶴の方はホワイトチョコレート。
「うん、大丈夫。じゃ、それを型に―――」  

 3人で作るチョコレート。

 千鶴は龍に。

 爽子はもちろん翔太に。

 あやねが誰にあげるつもりなのか、わからなかったけれど―――

 「「「できた―――♪」」」

 愛情いっぱいのチョコレート。

 今年は彼に渡せますように―――。


 「か、風早くん、これ―――」
 日曜日。
 待ち合わせ場所の河原に来ていた翔太に、爽子は頬を真っ赤に染めながらチョコレートを差し出した。

 「―――ありがとう、黒沼。すげえ嬉しい!」
 満面の笑みを浮かべる翔太に、爽子はホッとしながらも胸の高鳴りを感じていた。
「去年はもらえなくて―――でもピンや龍が黒沼のチョコレート持ってんの見て、実はちょっとショックだったんだ」
「あ、ごめ―――え、真田君?」
「ああ、いや、あいつのは吉田がもらった奴だったけどさ。けど、ピンにもあげてるのに、俺にはくれないのかと思ったら―――みっともないけど、俺嫉妬してたんだ」
「風早くん・・・・・あの、去年は―――私、勇気がなくて―――」
「うん、わかってる。いいんだ、もうそのことは。でも―――1つだけ、聞いていい?」
 そう言った翔太に、爽子は不思議そうに首を傾げた。
「―――このチョコレートって、他の人にも渡すの?」
 恥ずかしそうに頬を掻きながらそう聞く翔太。
「あ―――ううん、今年はあやねちゃんたちと作ったんだけど、思ったよりもたくさん材料使っちゃって・・・・・。い、一応お父さんには今朝、急いで作ってきたんだけど、同じものは時間がないからできなかったの」

 父には日ごろの感謝の気持ちを込めて、トリュフチョコレートをプレゼントしてきた。

 慌てて作った割にはうまくできたし、とても喜んでくれた。

 と言っても、父は爽子がくれたものなら何でも喜んでくれるのだけれど。

 翔太には―――

 「あ、すごい、これチョコレートケーキ?」
 きれいにラッピングされた包みを開け、丸型の箱を丁寧に開けると、中には丸型のケーキが・・・・・。
「あ、あのね、フォンダンショコラなの。初めて作ったから、おいしいかどうか―――」
「食べてもいい?」
「ど、どうぞ!」

 ドキドキしながら、チョコレートを頬張る翔太を見つめる爽子。

 一口食べた翔太が驚いたように、でもうれしそうに目を輝かせる。

 「すげえ、うまい!黒沼天才!」
 その言葉と、翔太の弾けるような笑顔に、爽子は真っ赤になる。
「よ、よかった。喜んでもらえて―――」
 はにかむように微笑んで。

 その笑顔に引き寄せられるように。

 一瞬後、爽子の唇に、翔太の唇が重なった―――。

 そして、キョトンとした表情のままの爽子に。

 翔太は嬉しそうに笑い、その細い体をぎゅっと抱きしめた。
「大好きだよ!黒沼」
「わ―――私も―――大好き―――!」


 千鶴も無事に龍に手作りチョコレートを渡すことができた。
「千鶴の手作り・・・・・?俺、胃痛薬持ってない・・・・・」
「てめえ―――」

 そしてあやねがチョコレートを渡したのは―――
「わっはっはっ!!俺様の魅力にようやくお前も気づいたか!」
「―――今すぐ返してもらってもいいんだけど」
「馬鹿野郎!一度もらったものを返せるか!で―――これは手作りか?」
「は?ま、まあね、爽子たちに付き合って―――」
「そうか。じゃあまあ、大事に食わなきゃいけねえな」
「え―――」
「お前のその気持ちごと―――俺がこの胸で受け止めてやるよ」
 にやりと笑うそのふてぶてしい笑顔を。
 不覚にもかっこいいと思ってしまった・・・・・







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