去年は、渡せなかったチョコレート。
すごくつらくて。
すごく後悔した。
今年は、もう後悔はしたくない―――。
それに、今年は・・・・・
「ねえ爽子、こんなんでいい?」
あやねが爽子に溶けたチョコレートを見せる。
爽子はボールの中を覗き込み。
「うん、いいと思う」
「爽子、こっちは?」
千鶴の方はホワイトチョコレート。
「うん、大丈夫。じゃ、それを型に―――」
3人で作るチョコレート。
千鶴は龍に。
爽子はもちろん翔太に。
あやねが誰にあげるつもりなのか、わからなかったけれど―――
「「「できた―――♪」」」
愛情いっぱいのチョコレート。
今年は彼に渡せますように―――。
「か、風早くん、これ―――」
日曜日。
待ち合わせ場所の河原に来ていた翔太に、爽子は頬を真っ赤に染めながらチョコレートを差し出した。
「―――ありがとう、黒沼。すげえ嬉しい!」
満面の笑みを浮かべる翔太に、爽子はホッとしながらも胸の高鳴りを感じていた。
「去年はもらえなくて―――でもピンや龍が黒沼のチョコレート持ってんの見て、実はちょっとショックだったんだ」
「あ、ごめ―――え、真田君?」
「ああ、いや、あいつのは吉田がもらった奴だったけどさ。けど、ピンにもあげてるのに、俺にはくれないのかと思ったら―――みっともないけど、俺嫉妬してたんだ」
「風早くん・・・・・あの、去年は―――私、勇気がなくて―――」
「うん、わかってる。いいんだ、もうそのことは。でも―――1つだけ、聞いていい?」
そう言った翔太に、爽子は不思議そうに首を傾げた。
「―――このチョコレートって、他の人にも渡すの?」
恥ずかしそうに頬を掻きながらそう聞く翔太。
「あ―――ううん、今年はあやねちゃんたちと作ったんだけど、思ったよりもたくさん材料使っちゃって・・・・・。い、一応お父さんには今朝、急いで作ってきたんだけど、同じものは時間がないからできなかったの」
父には日ごろの感謝の気持ちを込めて、トリュフチョコレートをプレゼントしてきた。
慌てて作った割にはうまくできたし、とても喜んでくれた。
と言っても、父は爽子がくれたものなら何でも喜んでくれるのだけれど。
翔太には―――
「あ、すごい、これチョコレートケーキ?」
きれいにラッピングされた包みを開け、丸型の箱を丁寧に開けると、中には丸型のケーキが・・・・・。
「あ、あのね、フォンダンショコラなの。初めて作ったから、おいしいかどうか―――」
「食べてもいい?」
「ど、どうぞ!」
ドキドキしながら、チョコレートを頬張る翔太を見つめる爽子。
一口食べた翔太が驚いたように、でもうれしそうに目を輝かせる。
「すげえ、うまい!黒沼天才!」
その言葉と、翔太の弾けるような笑顔に、爽子は真っ赤になる。
「よ、よかった。喜んでもらえて―――」
はにかむように微笑んで。
その笑顔に引き寄せられるように。
一瞬後、爽子の唇に、翔太の唇が重なった―――。
そして、キョトンとした表情のままの爽子に。
翔太は嬉しそうに笑い、その細い体をぎゅっと抱きしめた。
「大好きだよ!黒沼」
「わ―――私も―――大好き―――!」
千鶴も無事に龍に手作りチョコレートを渡すことができた。
「千鶴の手作り・・・・・?俺、胃痛薬持ってない・・・・・」
「てめえ―――」
そしてあやねがチョコレートを渡したのは―――
「わっはっはっ!!俺様の魅力にようやくお前も気づいたか!」
「―――今すぐ返してもらってもいいんだけど」
「馬鹿野郎!一度もらったものを返せるか!で―――これは手作りか?」
「は?ま、まあね、爽子たちに付き合って―――」
「そうか。じゃあまあ、大事に食わなきゃいけねえな」
「え―――」
「お前のその気持ちごと―――俺がこの胸で受け止めてやるよ」
にやりと笑うそのふてぶてしい笑顔を。
不覚にもかっこいいと思ってしまった・・・・・
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