「つくしおねえちゃま、一緒にチョコレート作りましょ」 いつものように、美作さんの家に遊びに行くと、双子の姉妹にそうかわいくお願いされて。 「いいよ」 と、笑顔で頷いた。 でも、心中はちょっと複雑だった。 だって、あたしが作るチョコには意味があるから。 単なる友達としてじゃなく、1人の男性として・・・・・・ そんな風に美作さんを見るようになったのはいつからのことだろう。 家にも、気軽に遊びに行けるような、気さくな友達。 悩み事も、家族のことも、何でも言える人。 どんな話でもちゃんと聞いてくれて、そして正しい道を示してくれる人。 時に厳しいことも言われるけど、それが全部あたしの為だって思えるから、嬉しくて・・・・・。
そんな気持ちが、いつの間にか恋に変わってた。 だけど、相変わらず彼には10以上年上の、人妻の彼女・・・・・。 あたしのことなんて、単なる妹くらいにしか思ってない・・・・・。
「じょうずにできました」 「できました。ね、つくしおねえちゃま」 にっこりと微笑む天使の笑顔。 つられて微笑む。 「ほんと、上手に出来たね。じゃ、お兄さんに渡しに行こうか」 と言うと、双子が顔を見合わせてにっこりと笑う。 その笑顔に、何か企みがあるように感じたのは、あたしの思い過ごしか・・・・・
美作さんの部屋の扉をノックすると、中から美作さんの声。 「どうぞ」 扉を開け、中に入る。 その途端、ばたんと閉められる扉。 「え・・・・・」 振り返ると、双子はいなかった。 「・・・・・何してんの?お前ら」 目の前の光景に、首を傾げる美作さん。 絵夢と芽夢の姿も、目に入っていたはずだ。 「いや、あの・・・・・」 もしかしたら、と今更ながら気づく。
―――あたし、嵌められた・・・・・?
「牧野?どうした?」 美作さんの声にはっとする。 この状況・・・・・ 絶対あの2人の企みだ・・・・・・ 子供にいいように騙された自分に愕然とする。 その後ろに、含み笑いをしてるやつがちらちらと見え隠れしているけれど・・・・・ 入れ知恵したのが誰かは、想像に容易い。
「あ、あのね、チョコレートケーキ作ったの、絵夢ちゃんと、芽夢ちゃんと一緒に・・・・・」 「チョコレート?」 「う、うん。今日、バレンタインデーだから・・・・・あの、これ・・・・・」 そう言って、あたしは出来た手のチョコレートケーキを差し出す。 ハート型のチョコレートケーキに、ホイップクリームやフルーツでトッピングされたそれは、少し子供っぽいけれど、あの双子の、大好きな兄に対する愛情がしっかりと込められた物。 そしてあたしの気持ちも・・・・・・。
差し出されたケーキを、暫く無言でじっと見つめていた美作さんは、ふっと微笑むと、それを受け取ってくれた。 「サンキュ・・・・・。お前から何かもらうのって、もしかして初めて?」 「あ・・・・・そうかも、ご、ごめんね、いつもお世話になってるのに」 「何謝ってんだよ。いいよ別に、そんなの」 そう言って美作さんは軽く笑うと、チョコレートケーキを小さな丸テーブルに置いた。 「・・・・・で?」 そう言って首を傾げながらあたしを見つめる瞳に、何かを探るような光を見つける。 「・・・・・え?」 「お前がくれるのは、これだけ?」 「これだけ・・・・・・って」 「俺に何か、言いたいことがあるって、あいつらに聞いてたんだけど?」 至近距離に近づいてきた美作さんのきれいな顔に、ドキッとする。 「あ、あいつらって・・・・・・」 「絵夢と芽夢が、言ってた。つくしおねえちゃまが、おにいちゃまに大事なお話があるって。とっても大事なことだから、ちゃんと聞いてあげてねって言われたんだけど」 口元に笑みを浮かべたままそう言われ・・・・・ あたしはまた、してやられたことに気づいた。 あの双子に気付かれてるってことは・・・・・・ ちらりと美作さんを見上げえる。 多分、気付いてるんだよね・・・・・
「・・・・・言えないよ・・・・・」 「何で?」 「だって・・・・・」 美作さんには彼女がいる。 なのに、告白なんて出来ない。 ぐっと言葉を飲み込むあたしを、美作さんは相変わらず優しい目で見つめてる。 「・・・・・念のために言っとくけど」 「え?」 「俺、今彼女いないから」 「・・・・・え」 見上げれば、満面の笑み。 「うそ・・・・・」 「じゃねえよ。もう、去年のうちに別れてる。今俺には、どうしようもなく惚れちまってる女がいるからって」 その言葉に、また胸が締め付けられる。 「だから、そういう顔すんな。誰のこと言ってると思ってんの?」 「そんなこと・・・・・」 知ってるわけない。きっとまた年上の人・・・・・ 「・・・・・俺が、年上じゃない女を好きになるのなんて初めてのことだぜ。すげぇことだとおもわねえ?」 ニコニコと、楽しげに笑う。 「今日、お前がここに来てくれたら・・・・言おうと思ってた」 美作さんの繊細な手が、あたしの頬に触れる。 その冷たくて、でも優しい感触に、あたしの胸が高鳴る。 「俺が好きなのは・・・・・牧野、お前だよ」 そう言ってくれてるのに・・・・あたしは信じられなくて、なんて言っていいかわからない。 「うそ・・・・・だよ・・・・・」 「じゃないって。こんなこと、冗談で言えねえよ。マジで・・・・・どうしようもなく惚れちまってるんだ。このチョコレートケーキが、特別なもので・・・・・俺と同じ思いがこもってるなら・・・・聞かせてくれよ」 「あたし・・・・・・」 「ん・・・・・?」 「あたしも・・・・・美作さんが、好き・・・・・ずっと・・・・・美作さんのことだけ考えて、作ったんだよ・・・・・」 漸く言葉を紡ぎ出せば、美作さんが嬉しそうに笑って、あたしを抱きしめてくれた。 「サンキュ・・・・・大事に食べなきゃな・・・・・・お前の気持ち」 「・・・・・うん・・・・・」
自然と重なる唇。 いつまでも離れられなくて・・・・・ 大好きって気持ちがこもったチョコレートケーキ。 2人で食べたら、きっと気持ちも1つになれる気がした・・・・・・。
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