The Sparks!
9月1日。今日から新学期の始まりだ。
そんなさわやかな朝、毛利家の前では小さな炎が燃え上がりつつあった・・・。
「あら」
窓から下の通りに目をやった英理が声を漏らす。
「蘭!新一くんと快斗くん、もう来てるわよ!」
「え、ほんと!?」
食卓で、ジャムパンをほおばっていた蘭が顔を上げた。
大きな瞳がますます大きく見開かれ、蘭は慌てて残りのパンを口の中に押し込
んだ。
「あらあら、そんなに慌てて・・・のどに詰まらせないでよ?」
「・・・んん・・・ふぁい・・・」
目を白黒させながら、アイスティーで流し込むようにごくんと飲み込んだ蘭を
、英理は困ったような顔で、それでもいとおしそうに見つめている。
「いってきまーす!」
元気な声を響かせて蘭が行ってしまうと、それまでずっと新聞を読んでいた小
五郎が、ようやく顔を上げた。
「騒がしいやつだな」
「いいじゃない、楽しそうで・・・ナイトが2人もついてるから安心でしょ?」
「フン、なにがナイトだ」
面白くもなさそうに新聞に目を戻す小五郎を、英理は笑いをかみ殺しながら見
つめるのだった・・・。
「新一、快斗くん、おはよー!」
階段を駆け下り、家の前で待っていた2人に声をかける。
と、その瞬間、2人の間に燃え上がっていた炎が一瞬小さくなった。
「オス、蘭。ちゃんと朝飯食ってきたか?」
新一の言葉に、蘭がにっこりと微笑む。
「うん!2人とも、早かったねー」
「蘭ちゃんに早く会いたかったからさ♪今日からまた毎日会えるね」
「・・・俺は毎日会ってたけどな」
新一の言葉に、また2人の間の炎が大きく燃え上がる。
それに気付いていない蘭は、無邪気にニコニコと笑っている。
「そうだねー。今日は園子とも会えるんだ♪楽しみーvv」
3人で学校に向かう毎日。
幼馴染の新一と蘭は、物心ついたときから兄弟のように育った仲だ。
泣き虫な蘭を、ナイトのようにいつも守ってきた新一。蘭も新一にいつもくっつ
いていた。
そんな2人の前に、快斗が現れたのは小学校の入学式だった。
1人でトイレに行った蘭は、学校の中で迷子になってしまった。
心細くて泣いているところへ現れたのが快斗。
快斗はかわいい蘭に一目ぼれ。蘭もまた、優しい快斗に心を開いたのだった。
もちろん、新一にとっては厄介な相手となるわけで・・・。
「なあ蘭ちゃん、今日学校終わったらうちにおいでよ。母さんがスパゲッティ作っ
てくれるんだ♪一緒に食べよ♪」
ニコニコと蘭に笑いかける快斗。しかし、蘭が答える前に、新一が割って入る。
「だめだよ!蘭は今日、うちに来るんだ。うちの母さんは今日パイを焼いてくれ
るんだ!」
2人の間の炎が、さらに大きく燃え上がった。
「えっと、どうしようかな・・・」
蘭が困ったように眉を寄せ、首を傾げる。
う〜んと悩んだ挙句・・・
「あ、じゃあ2人ともうちに来れば?今日ね、お母さんがクッキーの作り方教えて
くれるの♪一緒にしよう?」
ぱっと顔を輝かせ、にっこりと微笑む蘭。
2人の間の炎が、ぷしゅ〜と一気に小さくなる。
「お、俺は別にいいけど・・・」
「やった♪蘭ちゃんのうちに行っていいんだvv」
喜ぶ快斗を、じろりと横目でにらむ新一。
そこへタタタッと駆け足が聞こえてきたかと思うと、
「ら〜んvv」
と、蘭に抱きついてきたのは・・・
「園子!おはよう」
明るい茶髪が印象的な女の子、蘭の親友園子だった。
「おはよ!久しぶりだね♪―――相変わらず、2人引き連れてんのね」
園子がちらり、と新一を快斗のほうを見た。
「んだよ、園子・・・」
「べっつに〜。がんばってるなあと思っただけ。ね、蘭、どうなの?」
「え?」
蘭が、きょとんとして首を傾げる。
「だ・か・ら、2人のうち、どっちが好きなの?」
「お、おい!」
園子の言葉に新一が慌てるが、快斗はうれしそうに笑った。
「あ、それ俺も聞きたかったんだ」
「でしょ?ねえ蘭、どっち?」
3人の視線が蘭に集中する。
「どっちって・・・わたしは、2人とも好きだよ?」
蘭は、当たり前のことのように応えた。
「えー、2人ともって・・・だって、2人の人とは結婚できないんだよ?」
「結婚・・・?」
「そう!この2人だったら、どっちと結婚したい?」
園子は、瞳をきらきらと輝かせながら蘭の答えを待った。
蘭はう〜んと考えてから・・・
「・・・わかんないけど・・・わたし、結婚するならお父さんみたいな人がいい
な♪」
と、にっこりと笑って言った。
蘭の答えに、3人は首を傾げる。
「蘭のお父さん・・・?あの・・・?」
「うん!だってお父さん優しいし、強いし、かっこいいもん!」
満面の笑みでそう応える蘭に、新一と快斗はボーっと見とれていた。
「蘭のお父さんみたいになるの?2人とも」
園子が呆れて言うと、新一と快斗はちらりとお互いを見やった。
蘭と結婚できるのなら、それもいいかなと思ってはみたが、しかし、問題はこの
男・・・
2人が同じことを考えているのが手に取るようにわかり、園子は大きなため息を
ついた。
「ねえ、じゃあ蘭の1番好きな人は誰?お父さん?」
「え、1番て、1人だけ?」
「あったりまえじゃない!1番が2人いたらおかしいよ」
園子の言葉に、蘭は困ったように眉を寄せた。
「でも・・・わたし、みんな好きだもん。新一も、快斗くんも、園子も、お母さん
もお父さんも大好き!1人だけなんて選べないよ」
「も〜、蘭ってば。1番ってのは特別なんだよ?特別は1人だけなの!」
「とくべつ・・・?」
「そう!」
園子が大きく頷くと、蘭はまた困ったように瞳を瞬かせた。
「・・・じゃあさ、どうしたら蘭ちゃんの特別になれる?」
と、突然快斗が言い出した。
「え?」
蘭が驚いて顔を上げる。
「蘭ちゃんの特別になるにはどうしたらいい?蘭ちゃんの理想のタイプ、教えて
よ」
「う〜ん・・・」
蘭はまた、眉間にしわを寄せて考え込んだ。
3人が、その様子を固唾を呑んで見守る。
「・・・スーパーマンみたいな人・・・がいいな」
「「「スーパーマン???」」」
蘭の応えに、3人が思わずはもる。
「うん!強くて優しくって、わたしがピンチの時には飛んで来て助けてくれる人
!」
満面の笑みの蘭を前に、園子はあきれたようにため息をついた。
「蘭って・・・ガキねえ・・・」
「なによお」
蘭が、ぷうっと頬を膨らませる。
その光景を見ながら、快斗と新一はちらりと目を見交わした。
「・・・俺が、なるからな」
新一の言葉に、快斗はにやりと笑う。
「ふん、負けねえよ。俺が、蘭ちゃんの1番になるんだ」
「・・・競争だな」
「ああ」
2人の間に、再び熱い炎が燃え上がった。
園子と蘭は、そんな2人に気付かず、話はいつの間にかスーパーマンから仮面ラ
イダーになっていた・・・。
それからの毎日は、何かというと競い合う快斗と新一の姿が見られるようになる
のだった・・・。
そして将来、蘭の特別になれたのはどちらか・・・?
それはまた、別の話・・・。
う〜ん、どうかなあ。
ちょっと尻切れトンボ?
いまいち小学生らしくない会話なような気がする。
ま・・・次回、がんばろう・・・。
あ、このお話はこれで完結ですけどね。

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