80000hit企画Z 〜高木編〜 そばにいたい。


 「ふあ、あ、あ・・・」
 間の抜けた顔で、大欠伸をする男が1人。
 若者があふれる街中で、少々情けなくはあるが、これも夜勤明けとあっては仕方がない・・・のか?
 警視庁の刑事の姿としては、ちょっといただけない。
「あ〜あ、眠いなあ・・・早く帰って寝よう」
 と、1人言を呟きながら歩く高木の目に、よく知っている人物の後姿が・・・
「あれは・・・蘭さん・・・?」
 道路を挟んだ向こう側の通りにいた蘭。2人の若い男に挟まれていたが・・・
 どう見ても、知り合いには見えない。おそらくナンパされているのだろう。
 明らかに困っている様子の蘭を見て、高木は通りを渡るべく走り出した。
「蘭さん!!」
 ちょっと手前で声をかけると蘭が振り返り、高木を見てほっとしたように微笑んだ。
「高木さん!」
 その横の男たちも高木を振り返る。
「なんだよ、あんた」
 胡散臭げに高木の前に立ちはだかる男。高木は、そんな男の目の前に、ずいと警察手帳を出した。
「僕はこういうものですが、蘭さんに何か?」
 手帳を見るなり、顔色を変えた男たち。
「あ、いやその・・・道を聞いてたんですよ」
「そうそう、あ、ありがとね、君。じゃ・・・」
 そそくさと去っていく男たちの後姿を見送り、蘭はほーっと息をついた。
「大丈夫かい?蘭さん」
「はい。ありがとうございます、高木さん」
 にっこりと微笑む蘭に、思わず照れる高木。
「あ、いや・・・」
「高木さん、今日はお休みですか?」
「ええ、まあ・・・。昨日、夜勤だったんですよ」
「あ、じゃあ今帰るところですか?ごめんなさい、お疲れなのに・・・」
 申し訳なさそうに頭を下げる蘭。
 高木はあわてて手を振った。
「いや、そんなこと!気にしないでください。蘭さんはどうしてここに?」
「あ、わたしは園子と・・・映画に行く予定だったんですけど、園子が風邪を引いてしまって。これか
らちょっと買い物をして、帰ろうと思ってるんです」
「へえ。ちなみに映画はなんの?」
「『青い雪』っていうんですけど・・・知ってます?」
「ああ!僕も見ようと思ってたんですよ。あれ?でもあれって確か今日までじゃ・・・」
 そう言うと、蘭がちょっと苦笑いした。
「ええ。でも、他に誘える人もいなくて・・・」
「そうですかあ。でも、もったいないなあ・・・」
 高木が心底残念そうに言うと、蘭は少し考えてから、にっこりと微笑んで言った。
「良かったら、見に行きます?」
「ええ?」
「今日、お休みなんでしょう?せっかくですから、どうぞ♪どなたか誘っていって来てください」
 すっと差し出された映画のチケット。
 だが、高木は慌てて首を振った。
「そ、そんな、悪いですよ!それに、僕夕べ寝てなくて、きっと映画館なんか行ったらすぐに寝ちゃい
ますから!蘭さん、行って来たらいいじゃないですか。ええと・・・そうだ、工藤君なんかどうなんです
か?」
 すぐに、失言だとわかった。工藤の名を出した途端、蘭の表情は悲しげなものに変わってしまった。
「あ・・・すいません。彼、今いないんですよね・・・」
 高木の言葉に、蘭は弱々しく微笑み、首を振った。
「いいんです・・・。じゃ、どうしようかなあ、これ・・・。1人で見てもつまらないし・・・。あ」
 ふと蘭の動きが止まり、何かを思いついたようにその大きな瞳を瞬かせた。
「誰かいい人思い付きました?」
 という高木の問いかけに、蘭は顔を上げると、うれしそうににっこりと笑った。まるで邪気のない、
眩しいほどの微笑みに、高木の胸が思わず高鳴る。
「あ、あの・・・」
「高木さん、一緒に行ってくれませんか?」
「え・・・ええ!?」 
 思わず高木が目を丸くすると、蘭が悲しげな顔になる。 
「やっぱりだめですか?」 
「い、いや、その、だめっていうか・・・」 
「寝ててもいいですよ?わたし、映画に集中してますから」 
こともなげに言う蘭に、戸惑う高木。 
―――な、なんか変じゃないか?蘭さんって、こんなこと言う人だったか? 
「ね、行きましょう?あ、わたしちょっと父に電話してきますね♪」 
そう言って携帯電話を出しつつ、高木から離れる蘭。 
高木はそこを離れるわけにもいかず、おろおろしながら蘭が戻るのを待っていた。 
―――どうすりゃいいんだ?やっぱり断ったほうがいいよなあ・・・ 
電話を終えた蘭が戻ってくると、高木は意を決して口を開いた。 
「あ、あの、蘭さん!」 
「さ、行きましょう、高木さんvv」 
高木の言葉をまるっきり無視するように、高木の腕を取り歩き出す蘭。 
「ら、蘭さん??」 
高木はますますわけがわからず、引きずられるようにして歩き出す。 

 そして2人は映画館の前へ・・・ 
 そこで漸く立ち止まった蘭は、にっこりと微笑み高木を振り返った。 
「つきましたね♪」 
「そ、そうだね。あ、あの、蘭さん、僕やっぱり・・・」 
と言いかけた高木だが・・・ 
「蘭姉ちゃん!!」 
と、どこかで聞いた声がしたかと思うと、ものすごい形相で走ってくる子供が1人・・・。 
「あれ?コナン君・・・?どうしてここに?」 
きょとんとしている蘭を、じろりとにらみつける。 
「それはこっちのせりふ!今日は園子姉ちゃんと映画見に行くって言ってなかった?何で高木さんと一
緒にいるの?」 
コナンに詰め寄られ、困った表情になる蘭。 
「あ、あのね、園子が来れなくなっちゃって・・・」 
「で?何で高木刑事がここにいるの?」 
コナンの鋭い視線が2人を捉える。 
「あ、あの、蘭さん・・・」 
高木が心配そうに声をかけると、蘭が高木を振り返り、あいまいに微笑んだ。 
「ごめんなさい、高木さん。もうすぐだと思うんだけど・・・」 
「は・・・?」 
蘭の言葉に、高木もコナンも目を丸くする。 
「蘭姉ちゃん・・・?」 
「さっき電話したら、すぐ来れるって言ってたから・・・。あ!来た!」 
きょろきょろしていた蘭が、ぱっと顔を輝かせ、ある方向に手を振った。 
それにつられるようにそちらに視線を向けた2人・・・。 
「さ、佐藤さん!?」 
そう、やってきたのは高木の恋人、佐藤美和子刑事だったのだ。 
「ごめんなさい、蘭さん、出掛けに電話がかかってきちゃって・・・。高木君、おはよう」 
普通ににっこりと笑いかけられ、高木はわけがわからずあいまいに笑みを返した。 
「はあ・・・あの、蘭さん、これは・・・」 
「ごめんなさい、高木さん。ちょっとびっくりさせようと思って・・・」 
といって、ペロッと舌を出した蘭。 
コナンは事情がわかったのか、あきれたような表情で蘭を見上げている。 
「実は昨日、偶然佐藤さんにお会いして、聞いてたんです。今日、佐藤さんが非番だって」 
「ええ!?本当ですか?でも、僕には仕事だって・・・」 
「それはね、高木さんに気を使ったんですよ」 
「え・・・」 
「高木さんのことだから、佐藤さんも非番だと知れば、きっと夜勤明けだっていうことも忘れて、どこ
かに連れて行ってくれようとするだろうって。でも、それじゃあ高木さんの体が休まらないし、寝不足
で車の運転は危ないから・・・。だから、知らないほうがいいって」 
「佐藤さん・・・」 
「・・・蘭さんが、映画を見るだけなら危ないこともないし、夜勤明けなんだから途中で寝てしまっても仕
方ないって。それでも、2人で過ごせるほうがいいって言うから・・・」 
蘭が、2人を見てにっこりと笑った。 
「お二人とも、ゆっくりデートする時間なんてほとんどないでしょう?だったら・・・特にどこか遠くに行
かなくたって、ただ2人で一緒にいるだけだって、きっと楽しいと思います」 
「蘭さん・・・」 
「蘭さん、ありがとう。でもいいの?この映画、見たかったんじゃ・・・」 
「いいんです。そのうちビデオで見れるし。さ、もう始まっちゃいますから、行ってください」 
蘭が2人の背中を押すと、2人は顔を見合わせ、そのまま映画館に消えて行った・・・。 

「さ、コナンくんどうする?友達と一緒じゃないの?」 
「あ、僕・・・さっきまで一緒だったけど・・・もう帰るところだったんだ」 
「そうなの?ずいぶん早いのね」 
「ま、まあね・・・」 
まさか、蘭と高木の姿を見て、元太たちを振り切って着けてきたとは言えなかった・・・。 
「じゃ、一緒に帰ろうか」 
「うん。・・・・あ、あのさ、蘭姉ちゃん、今日の映画・・・」 
「ん?あ、今度ビデオ借りたら一緒に見ようか」 
「うん・・・!」 
コナンは、精一杯の笑顔を蘭に向け、頷いたのだった・・・。


 



                                                                                     

 これは・・・ぜんっぜん駄目ですね。もうちょっと高木さんには蘭ちゃんにどきどきして欲しかったん
だけど・・・。やっぱり高木さんには佐藤さんってところですか。
 お粗末でした・・・。