80000hit企画Y 〜光彦編〜 小さな恋の始まり


 病院は、あまり好きじゃありません・・・。
 なんだか、自分がすごく重い病気のような気がしてくるから・・・。

 不覚にもかぜを引いてしまい、学校を休まなくてはならなくなってしまった。
 ああ、きっと今頃元太君たちは音楽の授業中・・・。歩美ちゃんのあのかわいい声・・・。灰原さん
のちょっと大人びた声が、聞きたいです・・・。

 ぼんやりと、そんなことを考えていると、誰かが僕の前に立った。
「光彦君?」
「え?」
 驚いて顔を上げると、そこには蘭さんが立っていた。
「やっぱり光彦君!どうしたの?かぜ?」
 蘭さんは、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「あ、は、はい」
 突然至近距離に蘭さんの顔が近づき、僕はどぎまぎして、思わずどもってしまった。
 ―――蘭さんて、きれいだなあ・・・
「1人で来たの?」
「あ、いえ、姉と・・・。今、携帯に友達から電話がかかってきてしまったので、外に出てるんです」
「そうなの。ね、隣に座っていい?」
 にっこりと微笑む蘭さんに、僕の頬が熱くなる。
「あ、はい、どうぞ・・・」
 ありがと、と言って隣に座る蘭さん。ふわり、といい匂いが漂ってきた。
「蘭さんも風邪ですか?」
「ううん、違うの。お父さんの薬をもらいに・・・。面倒くさがって、自分じゃ行かないもんだから」
 苦笑いする蘭さん。
 なるほど・・・。仕様がないですね、あのおじさんも。「眠りの小五郎」だなんて世間で騒がれてい
る割には、意外とだらしがないというか・・・。コナンくんも時々ぼやいてるし。
 そうだ、コナンくんと言えば・・・
「蘭さん」
「ん?なあに?」
「ずっと聞きたかったんですが・・・コナン君のご両親て外国にいるんですよね?」
「ええ、そうよ」
「日本に帰ってくる予定はあるんですか?」
「さあ・・・どうなのかしら。わたしもよくは知らないの。阿笠博士だったら知ってるかもしれないけ
ど・・・」
「帰ってきたら・・・コナン君はその両親のところへ行くんですよね?」
「そうね、たぶん・・・」
「そうしたら、転校、するんでしょうか・・・。それとも、もしかしてご両親と一緒に海外に、何てこ
とも・・・」
「光彦君・・・。・・・ごめんね。わたしは何も知らないの・・・コナン君も話してくれないし・・・」
「そうですか・・・すいません」
 がっかりしてしまった僕を、蘭さんが心配そうに見つめる。
「あ、僕は別に、その・・・。あ、歩美ちゃんや元太君も寂しがると思うので、ちょっと・・・」
「・・・そうね。コナン君がいなくなってしまったら、わたしもちょっと寂しいなあ・・・」
 蘭さんの声にドキッとしてふと顔を上げると、そこには寂しげに微笑む蘭さんの横顔があった。
 瞳が潤んで見えるのは、気のせいだろうか・・・?遠くを見つめるその表情は、まるで遠く離れてし
まう恋人のことを想っているような・・・。
 まさか!ありえないですよ、そんなことは。
 でも・・・・・
 僕は、蘭さんの横顔があまりにも儚げで、美しくて・・・。目が離せなかった・・・。心臓の音が、
すごく大きく聞こえていた。
 蘭さんが僕の視線に気付き、ちょっと恥ずかしそうに笑った。
「やだ、わたしったらぼーっとしちゃって・・・。あ、呼ばれたみたい」
 蘭さんは立ち上がって受付に行くと、薬の袋を受け取って戻ってきた。
「じゃ、わたしはもう行くね。光彦君、早く風邪治るといいね。お大事に」
 そう言って蘭さんが言ってしまうと、入れ替わりに姉が戻ってきた。
「ごめん、ごめん。まだ呼ばれてないのォ?病院ってこれだからやあよねえ。ほんとうざいったら・・・」
 ぶつぶつと文句を言う姉。でも、僕の耳には入ってこなかった。
 蘭さんの、あの表情が目に焼きついて離れなかった。
 切ないっていうのかな・・・あれと同じ顔を、どこかで見たような気がする・・・。
 どこで・・・
「・・・そうか・・・」
 コナンくんだ・・・。コナン君は、たまにあんな表情をする。大人びたような、近づきがたいような、
そんな顔・・・。
 そして、その視線の先には・・・蘭さんがいるんだ・・・。
 僕の思考は、そこで途切れた。名前を呼ばれたからだ。
 

 2日後、風邪が完治し学校へ行くと、みんなが心配そうに声をかけてくれた。もちろんコナン君も・・・。
「病院で、蘭姉ちゃんに会ったって?」
「はい。・・・蘭さんって、きれいですよね」
「な、なんだよ、突然」
 なぜか顔を赤らめるコナン君。
 コナン君は、蘭さんの話になるとなぜかちょっと慌てることがあるんです。いつもの落ち着いた姿と
は違って、なんとなく愉快な気分になります。
「いえ、隣に座って、間近で顔を見てたら、気付いたんです。すごくきれいだなあって・・・」
「・・・ふうん・・・」
 目がすうっと細くなり、面白くなさそうにそっぽを向いてしまったコナン君。
 僕は愉快でたまらない。
 
 コナン君、僕は知ってしまったんですよ。君の気持ちを・・・。
 でも、ちょっとハードすぎますよ、その恋は・・・。相手は10歳も年上なんですから、いくら君が大
人びていてもね・・・。
 でも・・・
 あの、蘭さんの表情はどういうことだろう?まさか、蘭さんもコナン君を・・・?
 まさか!蘭さんには、あの工藤新一がいるんですよ?まさか・・・
 ここ2日間、ずっと頭にある疑問。その答えはまだ出ていない。
 だけど、ありえないでしょう?そんなこと。でも、もしありえるのだったら・・・
 ここで、僕の頭に浮かぶ考えは、こんなこと・・・。



 僕と、蘭さんの恋っていうのも、ありえるのでしょうか・・・?


 



                                                                                     

 光彦編です。初めての試みなんですが・・・いかがでした?
難しかったです。そんな小学生いるかい!って感じになってません?
でも、光彦ってそんなキャラですよね。