80000hit企画V 〜平次編〜 難事件


 「うわあ、かわいいvvね、服部くん、和葉ちゃんって昔からかわいかったんだねえ♪」
 平次の部屋で、アルバムを捲っていた蘭が言った。
「ああ?そーかあ?」
「うんvvね、このアルバムの半分くらいには和葉ちゃん写ってるんじゃない?仲良かったんだねえ、
昔から」
「ま、近所やしな・・・。腐れ縁っちゅうやつや」
「またあ、そんなこと言っちゃって・・・」
「ほんまやて。ねえちゃん変な勘ぐりせんといてえや」
 平次の言葉に、蘭はくすくす笑いながら「はあい」と答える。
 そんな蘭の様子に、なぜかイライラしてくる平次。
「―――くど・・・ぼうずとおっちゃん、何時ごろ帰ってくるんやったっけ?」
「んーと・・・あと1時間もしたら帰ってくると思うけど・・・」
「さよか。そしたら、すぐに東京戻るんか?」
「そうだね、遅くなると新幹線間に合わないし・・・」
「もう1日くらい、泊まってったらええやん」
「そういうわけにはいかないよお、明日学校だし」
 平時に向かって、にっこりと笑う蘭。
 その笑顔が眩しくって、思わず目を細める。
「・・・なあ、ねえちゃん」
「ん?なあに?」
「ねえちゃんて、工藤のこと、どう思ってんのや?」
 その言葉に、蘭の顔が一気に朱に染まる。
「ど、ど、どうって、な、な、なにが?」
 声まで裏返ってしまう、その素直な反応に、平次は苦笑いする。
 ―――全く素直っちゅうか、馬鹿正直っちゅうか・・・ばればれやな・・・
 呆れると同時に、胸に鈍い痛みを感じ、小さな溜息をつく。
 ―――俺もアホやなあ。分が悪すぎるっちゅうねん・・・
「服部くん?どうしたの?」
 溜息をついて黙り込んでしまった平次の顔を、心配そうに覗き込む蘭。
 手を伸ばせば届く距離。抱きしめることだって、出来る。
 だが、平次には出来ない。
「無防備やなあ・・・」
「え?何?」
 ぼそりと呟いた平次の声が聞き取れず、首を傾げる蘭。
 綺麗な黒髪が、さらりと流れる。大きな瞳は、今は平次だけを映していて・・・。
 突然、平次は蘭の腕を掴み、自分のほうへぐいと引き寄せた。
「え?何?どうしたの?」
 突然のことに、さすがに蘭も驚いている。が、逃げることはしない。
 友人として、平次のことを信用しているのだろう。
 平次は、ふと自嘲気味な笑みをこぼし・・・
「少し、このままでいさせてや・・・」
 蘭に顔を見られないよう、蘭の肩に顔を埋めるようにしてそう呟く。
「服部くん・・・?気分でも・・・」
 具合でも悪いのかと、気を遣う蘭。そんな優しい蘭に、どうしようもない愛しさを感じながらも、切
なさに胸を詰まらせる平次。
 平次はこの想いを、打ち明けるつもりはなかった。一生、自分の胸の中にだけ仕舞っておくつもりで
いた。蘭を・・・そして、今は小さなあの憎たらしいライバルを、悩ませたりするつもりはなかった。
 それは、2人の思いの丈を、知っているから・・・。と言えば格好は良いが、ようは、わかっている
からだ。お互いに幼馴染だなんて言い張っているこの2人の間に、入り込む余地などないということが
・・・。
 ただ、それをわかってはいてもそう簡単にあきらめられないことも事実で・・・
 時に、意地悪したくなるのだ・・・。
「ねえちゃん・・・」
「なあに?」
「・・・目ェん中に、ゴミが入ってしもうたみたいや・・・」
「え?大丈夫?」
「あかん・・・ちょっと見てくれへん?」
「うん、わかった。こっち向いて?」
 そう言うと、蘭は平次の顔を両手で挟み込むようにして、平時の目を覗きこんだ。
 その時・・・。
「蘭ねえちゃん、ここに―――」
 がちゃりという音とともにドアが開き、コナンが顔を出し・・・
 蘭と平次が、今にもキスをしそうなほど接近しているのを見て、ぴたりと動きを止めた。
「あ、コナンくん、お帰り」
 蘭が、コナンを見てにっこりと笑う。が、コナンはすぐには動けず・・・そして、平次を見ると―――
 にやり、と不敵な笑み。
 それを見た途端、コナンは我に帰り、きっと眉を吊り上げた。
「何してんだよ!?」
「何って・・・服部くんが、目の中にゴミが入ったって言うから、見てあげてたのよ?」
 きょとんとして、事も無げに言う蘭。
「そうや。ありがとおな、ねえちゃん。もう取れたみたいや」
 すっと蘭から離れた平次を、心配そうに見つめる蘭。
「え、ホント?大丈夫なの?」
「ああ。今ぼうずが入って来た拍子に、取れたみたいや」
「そうなの?良かった♪」
 ホッとしたように微笑む蘭に、見惚れる平次。そんな平次を、穴が開きそうなほど睨みつけてる男が
1人・・・。
「お――――い、ら―――ん」
 と、部屋の外で小五郎が蘭を呼ぶ声が聞こえた。
「は―――いっ。じゃ、わたし行くね?服部くん、アルバム見せてくれてありがとう」
 そう言ってにっこり笑うと、蘭は部屋を出て行った。
 残された男2人、暫し無言・・・・・。
 沈黙を破ったのは、コナン。
「・・・おめえ、どういうつもりだ・・・?」
「ああ?何のことや?」
 明後日の方向に視線を向けながら、とぼける平次。
 コナンは、再び無言で平次を睨みつけた。
 犯人を追い詰める時でさえ、そんな迫力は無いだろうというほど鋭い視線。
 さすがに平次の頬を冷や汗が伝い、乾いた笑いが零れる。
「・・・冗談やって・・・おまえが来るのわかっとったから、わざとやってみてんて。本気でチューす
る気なんか、あるわけないやろー」
「・・・・・・・・・・」
 それでもなお、疑いの視線を向けるコナンだったが、
「コナンく―――ん」
 という蘭の声に、仕方がない、と言ったふうに息をつく。
「・・・今回は見逃してやるよ。けど、今度蘭に変な真似しようとしやがったら・・・たとえおめえで
も、ゆるさねえからな」
 低い声でそう言い放ったコナンは、最後にギロリと平次をにらみつけ、部屋を出て行った・・・。
 それを見送った平次は、暫く黙って閉じられたドアを見つめていたが・・・
「・・・・・ま、努力してみるわ・・・・・俺の理性ってもんが、もっとる限りはな・・・」
 そう言うと、ふっと唇の端を上げて微笑んだ。


 いつからこんな気持ちを持つようになったのか・・・。
 蘭に会うたび、嬉しくて、そのくせイライラするような感情が、平次の心を支配してきて・・・最初
は、そんなはずはないと否定していた気持ち。
 でも、その思いはだんだんと大きくなり、もう、自分で自分をごまかすことは出来なくなっていた・
・・。
 だが、友人としてあの2人を心配する気持ちも決して嘘ではない。
 だから、平次はこの気持ちを蘭に伝えるつもりはなかった。もちろんコナンにも。
 ただ、溢れる気持ちはどうしようもないから・・・時々、あんなふうにして、ふざけた振りして蘭に
触れるくらいは許されるんじゃないか・・・。その髪に、肌に触れて、潤んだ瞳を見つめて・・・それ
でも、最後には全て、冗談にしてしまうから・・・。


「厄介やなあ、ほんま・・・。この難事件・・・長い付き合いになりそうや・・・」
 ため息と共に呟き、窓の外の夕焼けに目を細めたのだった・・・。

 



                                                                                     
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 平次編です〜vv平次の場合、やっぱり片想いかなあ?蘭ちゃんは平次のことを友達としてとっても
信用していると思うので、接近しようと思えば出来そうなのに、そうしないのが平次って感じがします。
考えようによっちゃあ、快蘭よりも切ない感じがするかも?