80000hit企画T 〜新一編〜 ずっとそばに・・・



 「・・・・・・・・・・・」
 ―――いつになったら起きるのかなあ・・・
 蘭は、ソファで眠っている新一の寝顔をじっと見つめていた。

 「やっかいな事件」を解決し、漸く戻って来た新一。
 なのに、相変わらず急がしそうで、ゆっくり話をする暇もない。そんな新一に蘭も不満を募らせてい
たはずだが・・・
 学校帰り、配られたプリントを渡すために寄った新一の家で、思いがけず眠っている新一を見つけた。
 制服を着て、テーブルの前には飲みかけのコーヒー。
 学校で、新一がまた事件を解決したらしいと聞いたのはお昼頃。
 きっとそれから学校に来るつもりでいたのだろう。でも、昨日も、その前の日もろくに眠っていなか
ったに違いない。少し横になるだけのつもりがいつの間にやら・・・と言うところだろう。
 ―――疲れてるんだよね・・・。
 寝顔を見つめていた蘭は、そっと溜息をついた。
 ―――これからは、会おうと思えばいつでも会えるもの・・・。新一は、ここにいるんだから・・・
会えるだけで、良い。今は、それだけで・・・。


 ♪〜〜〜〜〜〜〜

 「!!」
 突然鳴り出した携帯の着信音に、蘭は慌てて自分の鞄を探る。
「しーっ、しーっ」
 そんなことを口走りながら、漸く携帯を手に取り、耳に当てる。
「は、はい」
 新一に背を向け、小声で話す。
「あ、小牧君?どうしたの?」
 相手はクラスメイトだった。
「―――え?明日?大丈夫だけど・・・うん。・・・3時に?うん、わかった。じゃ・・・!?え!?」
 その時、突然背後から伸びてきた手が、蘭の手から携帯を奪った。
 驚いて振り向くと、そこにはさっきまで寝ていたはずの新一が、これ以上ないというくらい不機嫌な
顔で起きていて、携帯を耳に当てていたのだ・・・。
「し、新一!?いつ起きてー――」
「・・・切れてる」
 ぼそり、と一言。そして、不機嫌な顔をそのままに、蘭に視線を移す。
「びっくりした・・・あ、ごめんね、起こしちゃって」
「・・・・・何、話してた?」
 新一は、まるで蘭の言葉など耳に入っていないかのようにそう質問した。
「え??何って、何が?」
 きょとんと首を傾げる蘭。
「電話だよっ。小牧と、何話してたっつってんの!」
 イライラと聞く新一に、蘭は目を瞬かせながら口を開いた。
「明日のこと、だけど?」
「・・・なんで、小牧と明日の約束なんかすんだよ?」
「約束・・・じゃないけど・・・」
「明日、3時にっつってたじゃねえか!おめえ、あいつと会ってどうすんだよ!?」
 声を荒げ、眉を吊り上げる新一に、蘭は目を丸くしている。
「だって・・・明日、委員会があるんだもの」
 その言葉に、新一の動きがぴたりと止まり、そのままたっぷり10秒間、固まっていた。
「・・・委員会・・・?」
「うん。小牧君とわたし、図書委員になったから。その委員会。本当は明後日の予定だったんだけど、
明日に変更になったって、知らせてくれたのよ」
「・・・・・・・・」
 ガクン、と一気に脱力してしまった新一を、不思議そうに見つめる蘭。
「新一ィ・・・?どうしたの?」
「はあーーーーーーーーっ」
「??」
「・・・・・ったく、紛らわしい・・・・・」
「何が?」
 一向に新一の言いたいことがわからない蘭。新一は、そんな蘭をちょっと恨めしそうな目で見てから、
今度は少しばつが悪そうに視線をそらせて言った。
「・・・なんでもねえ・・・気にすんな」
「気になるわよ。何なの?あ、もしかして起こしちゃったの怒ってるの?ごめんね、このプリント置い
たらすぐに帰るつもりだったんだけど・・・。もう帰るから、ゆっくり寝て?あ、でも着替えた方がい
いわよ?制服しわになるから」
 そう言って、いそいそと帰ろうとする蘭の手を、新一の手が掴んだ。
「え?」
「・・・まだ帰るなよ・・・」
「え・・・でも、新一、疲れてるんじゃ・・・」
「だからだろ?」
「え??」
「疲れてるから、おめえに側にいて欲しいんだろ?」
「・・・ご飯、作って欲しいの?」
「ばっ、ちげーよっ!!」
 さすがにぶちきれた新一が、蘭の手をぐいっと引っ張る。
「きゃっ」
 バランスを崩した蘭が、新一の膝に乗っかるように倒れこむ。
「や、やだ//////何すんのよ、新一」
 真っ赤になって、離れようとする蘭の肩を、新一の手がぐいと抑える。
「新一・・・?」
「おめえに、側にいて欲しい。いつでも、おめえの隣にいるのは俺でありたいんだ」
 真剣に、蘭の瞳を見つめながらそう言う新一に、蘭の瞳が大きく見開かれる。
「好きだよ、蘭・・・・・」
「・・・・・!!」
「・・・おめえの気持ちは・・・?」
 新一の声が聞こえているのかいないのか、蘭は目を見開いて固まったままだ。
「おい、蘭・・・?おめえは、どう思ってんだよ?俺のこと・・・」
「・・・・・きっ・・・・」
「へ?」
「・・・・好き、よ、わたしだって・・・ずっと、好きだったんだから・・・」
 そう言った蘭の瞳からは、透明な涙がぽろぽろと流れていた。
 新一は嬉しそうに微笑むと、涙が溢れる蘭の瞳に、そっと唇を寄せた。
 途端に、蘭の頬が真っ赤に染まる。
「・・・ずっと、側にいてくれよ・・・疲れてたって、おめえが側にいてくれれば、それだけで癒され
るんだから、さ・・・」
「・・・・うん・・・・」
 蘭が嬉しそうに微笑む。その笑顔に吸い込まれるように、新一は蘭の体を引き寄せ、今度はそっと唇
を寄せた。
  2人の唇がふれあい、そのシルエットが一つになる。
 その影はいつまでも離れることなく、寄り添っていたのだった・・・。





                                                                                     

 いつまでもって言ったって、まさか初日からお泊りって事はない・・・と思います。蘭ちゃんに
限って・・・。そんなわけで、80000hit企画、新一君編でしたv