My flower 1 



 「せやから、あそこで犯人のアリバイが・・・」
「いや、あそこじゃねえだろ?だってあの場合被害者が・・・」
 教室の片隅でなにやら熱っぽく話し込んでいる男子生徒が2人。そこへ、ニヤニヤと笑いを含んだ顔
で近付いてくるもう1人の男子生徒・・・。
「まーた物騒な話で盛り上がっちゃって。たまにはオンナの話とかしねえの?」
「んだよ、快斗」
「今はオンナの話どころちゃうねんて」
 新一と平次がうざったそうに快斗を見る。

 工藤新一、服部平治、黒羽快斗。高校2年生の彼らはこの学校では知らないものがいないほどの有名
人だ。新一と平次は高校生ながら探偵として、いくつもの難事件を解決している。そして快斗は、偉大
な手品師であった父、黒羽盗一の跡を継ぎ、いまや父親をもしのぐほどのマジシャンとして日本中で活
躍しているのだった。
 そしてそのルックスもさることながら、3人とも成績優秀、スポーツ万能とくれば女の子達が放って
おくはずはないのだが、3人とも忙しすぎるのか、今のところ女の子よりも夢中になれるものがあるか
らなのか、いまだに彼女はいなかった。

「つれねえなあ。せっかくいいニュース持ってきたのにさ」
「ニュースぅ?」
「なんやねん?またどうせくだらないことちゃうか?」
 2人同時に怪訝そうな顔をする。快斗は相変わらず人を見透かしたような表情でにやりと笑った。
「転校生だよ」
「「転校生?」」
 異口同音に言葉を発し、ちらりと顔を見合わせる。
「・・・それが何でいいニュースなんだ?」
「そうや。別に珍しいことやないやろ?」
「それがさ、すっげえ可愛い女の子なんだ」
「なんだよ、もう見て来たのか?」
「相変わらず、抜け目のないやっちゃなあ」
「たまたまだよ。さっき先生に呼ばれて職員室に行ったらさ、いたんだ。で、俺は机運んでくれって頼
まれてさ。ホント、世の中にこんなかわいい子がいたのかと思うくらい、かわいかったぜえ」
 ニヤニヤとしまりのない顔をしている快斗を、半ば呆れて見ている2人。
「そら良かったなあ」
「んじゃ、おまえ付き合ってみれば?」
 と言うと、快斗がにんまりとしてやったりという顔をして笑った。
「ああ、彼女さえその気になってくれればな。おめえら、そんなこと言っといて後で後悔すんなよ」
 その時ちょうどチャイムが鳴り、快斗は自分の席へと戻って行った。
 その後姿を見送り、2人は顔を見合わせた。
「何だ?あいつ・・・」
「その子がよっぽどかわいかったんやろ?まあ、俺らには関係のない話や」
「そだな」

 がらりと、教室のドアが開き、担任の教師が入ってくる。その後から、1人の少女がおずおずと入っ
て来た。
 その少女が入ってきた途端、教室は一瞬静まり返り、そして次の瞬間、教室のそこかしこから溜息が
聞こえて来た。
「・・・・・おい、工藤・・・・」
「・・・・・ああ・・・・・」
「・・・快斗に言ったこと、取り消さなあかんのやないか・・・?」
「・・・だな・・・」
 平次と新一は、口を半開きにしたまま、その少女に見入っていた。
 窓際の席にいた快斗は、そんな2人を見てにやりと笑った。

 さらさらの黒い髪。陶器のような白い肌。吸い込まれそうな大きな瞳はきらきらと輝いていて、唇は
ほんのりと桜色。
 転校生、毛利蘭は誰もが見惚れるほどの美少女だった。もちろん、あの3人も例外ではない。
 「毛利蘭です。よろしくお願いします」
 いくらか緊張した面持ちで、軽く会釈をした蘭に、担任の教師が快斗のほうを見て口を開く。
「さっき、黒羽くんには会ったわね?彼の隣の席が貴方の席よ。わからないことは彼や・・・そこの、
工藤君に聞くといいわ。工藤君は、クラス委員だから」
 と言って、最後に新一の方を向いて言うと、蘭も新一の方を見た。そして、にっこりと微笑むと新一
に向かって軽く会釈をした。
 その笑顔を見て、新一と、その後ろにいた平次はあまりのかわいさに固まってしまい、ぽかんと馬鹿
みたいに口を開けていたのだった・・・。


「蘭ちゃん、校内を案内するよ」
「ありがとう、黒羽くん」
 休憩時間。快斗が早速蘭に声をかけたが、そこへあの2人がやってくる。
「待てよ。校内の案内ならクラス委員の俺がやるよ」
「俺も一緒さしてもらうわ」
「え・・・・・」
 突然現れた2人に、ちょっと驚いて目を見開く蘭。そんな顔もかわいくて、新一と平次は蘭に見惚れ
ていたが、そこへ快斗が面白くなさそうに言う。
「・・・案内に3人もいるかよ。おめえらは勝手に殺伐とした話でもしてろって。おれは蘭ちゃんと親
睦を深めてくんだからよ」
「なあにが蘭ちゃんだよ」
「なれなれしいんやないか?いくら席が隣いうても・・・」
「あ、あの・・・」
 3人の掛け合いに、蘭が慌てて口を挟んだ。それに反応した3人が、一斉に蘭を見る。
「えっと・・・ごめんね、わたし物覚え悪くって・・・黒羽くんは覚えたんだけど。もう1度、名前教
えてくれる?」
 と控えめに言って、新一と平次のほうを見た。その言葉に快斗は得意げにふんと鼻を鳴らし、新一と
平次はちょっと面白くなさそうな顔をしたものの、すぐに蘭に笑顔を向けると口を開いた。
「俺は、工藤新一。一応クラス委員やってるよ」
「―――休む日が多うてほとんど仕事してへんけどな」
「んだよ?」
「別に・・・。あ、俺は服部平次や。よろしゅうな」
「うん、よろしく。服部くんって、関西のほうの人・・・?」
「そや。こっちには高校入学のときからや。蘭ちゃんは静岡やったっけ?」
「うん。西伊豆のほうなの」
「ほんまか。俺、1度行ったことあるよ。ええとこやなあ、海が綺麗で」
 いつの間にか会話が弾んでいる平次と蘭を見て、新一と快斗がおほんと咳払いをする。と、蘭がはっ
として2人を見る。
「あ、ごめんね。えっと、校内を案内してくれるんだよね?でも、みんなに来てもらうの悪いし・・・。
気、使わなくていいよ?徐々に覚えていくから・・・」
 そう言ってにっこりと笑った蘭の笑顔に、3人して見惚れてしまっていた・・・。
 と、その時新一の胸ポケットに入っていた携帯電話が着信を告げた。
「また事件か?」
 快斗がそう言うと、蘭がきょとんとして小首を傾げる。
「事件・・・?」
「―――はい・・・はい・・・分かりました。ではすぐに・・・え?あ、でも・・・分かりました。そ
れでは・・・」
 なぜか不本意そうに電話を切る新一。
「なんや、呼び出しやないんか?」
「呼び出しだけど・・・」
「けど?」
「今回は、俺だけでいいんだと。前回は服部が行ってるから、今回は休んでくれってさ」
「ふーん、さよけ。ほならさっさと行ったらええやん」
 平次はなぜか楽しそうだ。
「なんだよ、おまえら。いつもなら来るなって言われても無理やり行ってるくせに」
 快斗の言葉に、2人はあさってのほうに視線を向ける。
「あの・・・事件って・・・?」
 蘭が遠慮がちに聞くと、快斗が優しく微笑み、説明した。
「こいつら、探偵なんだよ。工藤新一と服部平次って名前に、聞き覚えない?」
 その言葉に、蘭がはっと口を抑える。
「あ・・・!じゃ、あの有名な?やだ、わたしったら全然気付かなくって・・・。あ、じゃあもしかし
て、黒羽くんって、あのマジシャンの黒羽快斗?」
「そういうこと。以後、お見知りおきを」
 そう言って、快斗がさっと手を広げると、ポンッという音と共に白い煙が現れ、そこから飛び出した
鳩が蘭の周りを飛び回った。
「!!すごいvvかわいい〜」
 快斗の突然のマジックに蘭は大喜びだ。
「蘭ちゃん。だまされたらあかんで。こいつはいつもこうやって女の子をだまくらかしてんねん」
「そうそう。校内一の女ったらしだからな」
「おい、変なこと言うなよ!」
「本当のことだろうが」
「あ、あの・・・」
 3人のムードがいよいよ険悪になってきたところで、蘭が口を開いた。と、3人が険しい顔をそのま
まに一斉に蘭のほうを見たので、蘭はビクッとして思わずあとずさった。
「あ、ご、ごめんね。あの、工藤君、呼び出しは・・・?」
 その言葉に新一ははっとする。
「あ、やべ!じゃあ、毛利さんまた明日な」
 最後にしっかり蘭に微笑むと、颯爽とその場を後にする新一だった・・・。

 「さ、じゃあ3人で校内回ろうか?」
 気を取り直し、快斗がそう言ったとき・・・
「くぉら〜〜〜!!黒羽ぁ!おまえはまた鳩なんか飛ばしおって!!」
 と怒鳴り込んで来たのは、怖くて有名な学年主任の教師だった。
「げ、やべ・・・」
「今日こそは許さんぞ!職員室まで来い!!」
 そう言って、なかば引きづられるようにして連れて行かれてしまった快斗。平次と蘭は、呆気にとら
れてその光景を見ていたが・・・
 最初に我に帰ったのは蘭だった。
「ど、どうしよう?黒羽くん、連れていかれちゃった!」
「ま、いつものことやから」
 と、平次は平然としている。
「でも、黒羽くん、わたしに見せるために・・・」
「ああ、気にせんでええよ。あいつのあれは、趣味やねんから。しょっちゅうあんな事して怒られとん
のや」
「そ、そうなの・・・?」
 それでも、ちょっと不安そうに平次を見つめる蘭が可愛くて、目を細める平次。
「大丈夫やって。さ、2人になってしもうたけど、校内回ってみよか?」
 人懐っこい笑顔に、蘭もつられて笑顔になる。
「うん、じゃあお願いしようかな」
「おっしゃ!まかしとき♪」


 平次と蘭は、残り少ない休憩時間を使って、校内を回ってみた。
 平次の説明はわかりやすく、話の途中に冗談を交えながら楽しく話をすることが出来、蘭もすっかり
リラックスしていた。
「ありがとう、服部くん。すごく分かりやすかった。説明するの、じょうずなのね」
 蘭に微笑まれ、平次が柄にもなく赤くなる。
「ま、まああんなんでええんやったら、またいくらでも付き合ったるよ」
「うん!」
 仲良くまた教室に戻る2人。
 実は、校内を回る2人はとっても目立っていた。平次はもちろん、蘭もただ歩いているだけでも人目
を引くほどの美少女だ。そんな2人が仲良さそうに校内を歩き回っていたのだ。目立たない方がおかし
いというもの。そして、その噂は瞬く間に学校中に広まったのだった・・・。







                                                                                    

 ランキングのリクエスト、「新蘭平快でクラスメイト四角関係」のお話です。
結構難しくて、ですね、全部書き終えるにはもう少し時間が欲しいかなと・・・。
平次が絡むお話のリクは、結構貴重なので、ちょっと平次寄りになってしまいました。
続きも、がんばって書きますのでもう少し待っててくださいね♪